「真冬? ……っと、違うか」
 声をかけた瞬間、葉月は人違いだと気づいた。
 なぜなら、その人はアコライトだったから。彼女が誰よりよく知るパートナーは、すでにプリーストになっている。今更アコライトの格好で歩いているわけがない。
 それなのに思わず呼びかけたのは、容貌があまりに似ていたからだ。流れる黒髪、白磁の肌、深い黒瞳。
 ――けれど、そのアコライトが振り返ったとき、葉月は戦慄に近い感覚を覚えた。
 正面から見たその顔は、まさに真冬と瓜二つだった。
 だけど、あまりに違いすぎる。刺すような暗い視線も、何もかもを拒む冷たい雰囲気も。
「あ、ごめんよ、人違い――」
「御巫を知ってるの」
「……え?」
 話しかけられたこと自体が意外なら、問いかけの内容も意味不明だった。
 向けられた視線には、激しい敵意が含まれている。しかし、それが自分に対するものではないと、葉月には理解できた。
 油断なく構えながら、葉月は尋ね返した。
「御巫? なんのこと?」
「……真冬、って云ったでしょ。私の顔を見て」
「ああ、知り合いに似てると思って……」
「そいつが、御巫」
 吐き捨てられた一言。
 いったいどれだけ暗い想いを積み上げれば、こんな声が出せるのか。葉月は悪寒と、親友を貶められたような憤りに眉をひそめ、一歩踏み出した。
「どういうことだよ。あんた、いったい、何者?」
「御巫に伝えて。もう逃がさないってね」
「おい、ちょっと……!」
 葉月の制止など完璧に無視して、もう何も聞こえていないようにアコライトは歩き去った。
 葉月は大きく息を吐き、額の汗をぬぐう。
 そのとき、ようやく彼女は自分がひどく緊張していたことに気づいた。
 アサシンさえ、――いや、アサシンだからこそ怯ませたその空気。それは文字通り、殺気、だった。
「御巫って……どういうこと?」
 一瞬、唇を噛んで立ち尽くしたものの、葉月はすぐに走り出した。
 今、真冬を一人きりにしてはいけない。どうしようもなくわき上がる悪い予感――それはすでに確信に近い――に突き動かされて、葉月は親友の姿を捜した。
 間に合わない、というもう一つの予感を振り払いながら。