今日は、智也が会いに来てくれた。
タキシードなんか着ちゃってさ。悔しいけど……ちょっと、かっこよかったかな。
いちばん嬉しかったのは、智也に私の声が聞こえたこと。
いつも、どれだけ呼んでも聞こえなかったのに、今日は……今日に限っては。
そう――こんな日になってやっと、私の声が彼に届いた。
それがいちばん嬉しくて……、いちばん、悲しかったこと。
……私って、イヤな子だ。
どうして、泣いているんだろう。どうして、涙がこぼれてくるんだろう。
幸せになってね。その言葉に嘘はないはずなのに、どうしてこんなに胸が痛むの?
それなら、もう、いっそ……。そう、いっそ……。
智也が私のことで苦しむ度に、もう、忘れていいよって思ってた。私のことは、もう忘れていいよって。
だけど、違ったの。本当は、私が、忘れてしまいたかった。
二度と触れられないなら。声も、想いも届かないなら。記憶さえ、消してほしかった……。
でも。それでも。
忘れたくない。覚えていてほしい。
ただ痛みを残すだけでも……。
だから、私は、イヤな子なの。
本当はね、わかってるの。詩音ちゃんが前に教えてくれたから。
智也は、私のことを忘れて、詩音ちゃんを選んだんじゃない。乗り越えて、前に進んだだけ。
私だけが、同じところで立ち止まっていたの。
だから……もう、行くね。
私も、前に進まなきゃ。
いつか……いつかまた逢えるそのときまで。ずっとずっと、幸せでいてね。
約束だよ……。
*
「天使が祝福してくれたから……きっと、幸せになる……。俺が……幸せにするよ……」
「幸せです……私……」
鐘の音が響く。
固く寄り添うふたりを天使が抱きしめ、白い羽根が祝福するようにふたりを包んだ。
あとがき
彩花の独白です。
タイトルどおり、彩花のマキシシングル「近くて遠い」をモチーフにしています。
ゲーム中ではただひたすら智也の幸せだけを願う、まさに天使のような彼女ですが、実際にはこんな葛藤もあったと思うんですよね。この歌を聴いて、私は彩花が好きになりました。
ご感想など、いただければ幸いですm(__)m。