雨の日の想い

 今日も雨が降っていた。
 日本には「梅雨」というものがあると聞いていたけど、こんなに雨が続くものだなんて。
 もっとも、雨の日自体は、私は嫌いじゃない。紅茶を飲みながら、ゆっくり読書を楽しめるから。私の隣には、あのひとがいてくれるし。
 ……だけど。
 私は読んでいた本から顔を上げて、智也さんの横顔を見た。
 智也さんはさっきから、窓の外をぼんやりと眺めている。静かに降り続く雨を。
 誰かのことを、思い出している。そう考えると、ほんの少し、胸が痛んだ。
 私だけを見てほしい。そんなわがままは云えない。
 だけど……だけど。
 あのひとの心に、私がいない。そんな瞬間があることが、とても悲しくて――。

「……どうした、詩音?」

 気がつくと、智也さんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
 私は慌てて笑顔を作って、首を横に振った。

「なんでもありません。紅茶のおかわりはいかがですか?」

「あ、うん、もらおうかな」

「はい」

 私は立ち上がって、キッチンのほうに向かう。茶葉を交換して、ポットにお湯を注いで蒸らし……。
 と、そのとき。後ろからそっと、優しく、抱きしめられた。

「……と、智也さん?」

「こうしてるとさ、安心するんだ」

 私の髪に頬を埋めながら、智也さんが囁く。
 私は手をあげて、彼の腕に重ねた。

「私も……同じです」

 智也さんのぬくもりが、震える私の心を包み込んでくれる。
 切なさは、愛しさを深めるエッセンス。
 だから、私は雨の日は嫌いじゃない。




2001.4.6

あとがき

光月雪さんのサイト「LAST CAMPUS」で企画されているコンテストに応募するために作ったものです。
「彼は彼女を使えるか」の休憩のつもりもありました(^^ゞ。
タイトルは云うまでもないですが、詩音のマキシシングルからいただいています。
ご感想などいただければ、幸いですm(__)m。

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