Happy, Merry Christmas
-Team 'Rouge!' ver.-

 居住区からシティに出た瞬間、辺りの景観がいつもと全然違うことに、すぐ気づいた。

「うわ、すっごーい、何これ……」

「わ〜、綺麗だね〜」

「……」

 珍しく三人同時に集合したあたしたちは、それぞれ驚いて、周りを見回した(約一名、全然驚いてない風の人もいたけど)。
 いつも地味で渋めのシティが、ガンガンに派手な装飾を施されている。電球がピカピカと瞬き、軽快な音楽が流れていた。
 そして、極めつけは、どーんと突っ立った、なんかでっかい樹。もちろん、その樹にも電飾がいっぱいついていて、てっぺんでは大きなお星様が光っていた。

「なんなの、これ……?」

「総督も、ついにキレちゃったかな〜?」

 ころころと笑いながら、千鳥が怖いことを云う。
 確かに、これは総督府の指示なしでできることじゃないけど……どういうことだろ?

「クリスマスイベントですわ」

 独り言のような、低い声が響く。
 声の主を振り仰ぐと、彼女はやはりいつも通り、つまらなそうに目の前の大きな樹を見ていた。

「総督府から発表があったでしょう。ニュースぐらいご覧なさい、二人とも」

 ……ルルージュがニュースを見てる方が、よっぽど不思議だ。
 頭をかすめたそんな考えを、絶対に表情に出さないよう注意しながら、あたしはルルージュに尋ね返した。

「くりすます? 何、それ。千鳥、知ってる?」

「ううん、知らな〜い」

「……遠い昔に滅んだ宗教の、教祖の生誕を祝う祭りだとか。総督府が古いデータを整理していて、発見したそうですわ」

「へー、それで、なんでそれをここで?」

「……さあ? 沈鬱なパイオニア2ここの空気をどうにかごまかして、人々の不満をそらしたいんじゃありませんこと」

 姑息な真似を……と云わんばかりの台詞だったけど、ルルージュが実際、どう思っているのかは、やはりその口調からは読み取れない。淡々と、無感動に、言葉を紡ぎ出している。
 それはいつもと変わらなかったんだけど、でも、この樹を見つめる彼女の視線に、少し懐かしさのようなものが秘められているように思うのは、あたしの考えすぎだろうか?

「……この、でっかい樹は? 何か意味があるの?」

「クリスマスツリー、ですわね。由来までは私も存じません。クリスマスには不可欠なものだそうですけど」

「……ふーん……」

 さっきから、伝聞の形で話しているルルージュ。
 それは、本当にニュースから得た知識なんだろうか。もしかしたら、誰も知らない、彼女だけの想い出が、このくりすますつりーって奴にあるのかも……。
 そんなことを考えながら、あたしはルルージュの端正な横顔をじっと見つめた。わずかに物憂げな、いつもと変わらない横顔を。

「それで、くりすますってのは、具体的に何をするものなの〜?」

「先ほども云いましたように、元々は宗教的な行事でしたけど、そちらは自然と形骸化したようですわね」

「ふ〜ん」

「結局は、ただのお祭り騒ぎですわ。パーティを開いて、プレゼントを交換したり……」

 そこではっと、ルルージュは口をつぐんだ。彼女にしては、とても珍しいことだ。
 それは、爛々と目を輝かせた千鳥の姿に、自分の失言を悟ったからだろう。ついでに云うと、あたしも満面の笑顔を浮かべていたと思う。

「パーティ?」

「プレゼント?」

「……私は、今日は帰りますわ」

 くるっと踵を返したルルージュの腕を、電光の素早さで千鳥がつかむ。
 そして、鬱陶しげに振り向いたルルージュに、いつも以上の、それこそ極上の天使の笑みを向けた。

「パーティしよ〜、ルルージュ」

「……私は帰る、と云ったはずです」

「プレゼント交換もしよ〜」

「……だから」

「北都ちゃんもやるよね〜?」

「もちろん!!」

「……」

 ルルージュが深い深い深いため息をつく。
 千鳥は――ルルージュが逃げないように――彼女に腕を絡めて、歩き出した。

「じゃあ、しゅっぱーつ!」

「おー!」

「……」

 今、来たばかりの居住区へ引き返そうと足を踏み出して、ふとあたしは立ち止まり、後ろを振り返った。
 燦然と輝くクリスマスツリー。
 それのほんとの意味なんて、ルルージュだって知らないことが、あたしにわかる訳ないけど、だけど。

「ん〜? 北都ちゃん、どうしたの〜?」

 気がついて、千鳥とルルージュも振り向く。そうして、三人でもう一度ツリーを見上げた。
 きらきらと瞬く光は、どこかチープだけど、それでもなぜかどこか厳かで。

「なんだか……幸せな気持ちになる光だよね」

「……」

「……そう、ですわね」

「……うん……、――!?」

 同意してくれたのが、誰だったのか。
 そのことにしばらくしてやっと気づいたあたしが、心底びっくりして振り向いたとき、彼女はもうあたしに背を向けて歩き始めていた。
 腕を組もうとする千鳥を、鬱陶しそうに振り払うルルージュ。
 そんな二人を小走りに追いかけながら、あたしは笑みがこぼれるのをどうすることもできなかった。
 そう、あたしにはほんとの意味なんかわからないけど。
 きっと今日は、クリスマスは。
 誰もがこんな風に、幸せな気持ちになる一日。


end



2002.12.25


あとがき

まさか、このメンツでクリスマスSSが書けるとは……と、自分がいちばん驚いていたり(^^ゞ。
ゲームを知らない方のために説明すると、PSOではオンに繋ぐと、イベント時は本文中のように景観が変わります。クリスマスにはツリーが、バレンタインにはハートが飛びます。新年は……なんか、年号が回っていた気がする……。
これらはゲームの世界観とは関係ない賑やかしですが、あえて真面目に、キャラの視点に立って考えてみました。
この三人でほのぼのしていられるのも、今の内だけですし(T_T)。ただし、ストーリー上の時間軸は無視して考えています。実際にはありえないシチュエーションかも知れないですね。あ、なんか、もの悲しくなってきた……。
はてさて。三人は、どんなプレゼント交換をしたのでしょうか(^^ゞ。
ご感想などいただければ、幸いですm(__)m。

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