「アホね」
「……ゆめちゃんは、どうして、そんなに容赦がないかなあ」

 上目遣いに、恨みがましく、音羽さやかは目の前の少女を睨んだ。
 しかし、彼女は予想通り、まったく動じることもなく、箸を伸ばしてさやかの弁当箱から卵焼きをひとつ取り、口に放り込んだ。そして、にこりともせず、云い放った。

「じゃあ、バカ?」
「……」

 うぐ、とさやかが涙目になっても、やっぱり彼女は動じない。
 本当に、この子は容赦がないのだ。眼鏡の似合う知的でクールなその美貌が、その毒舌にどれだけ効果を与えるか、わかっているからタチが悪い。
 一瞬、さやかは本気でこの親友・鳴沢夢深(ゆめみ)を恨みたくなる。

「好きな子にわざと意地悪するなんて、今時、小学生だってしないわよ。それに、ふつー、それは男の子がやるものでしょ」
「別に意地悪してるわけじゃないもん」
「ほーほー、つい嫉妬のあまり冷たい態度を取ってしまった、ひとえに切ない恋心の故だと?」
「……」
「どっちにしろアホよ。そんなことしたって、あの鈍感男に効果あるわけないわ。むしろマイナスよ、さやか」
「……わかってるもん」

 わかっててやるなら、さらにアホだ。その言葉はさすがに夢深も飲み込んだ。これ以上、いじめてもしょうがない。……面白いけど。

「もう、やめたほうがいいんじゃない」
「ゆめちゃん……」

 むっとして顔を上げて、さやかはようやく、夢深の態度の変化に気づいた。
 頬杖をついて、意地悪そうに微笑んでいるけれど、その瞳にあるのは、いつも自分を気遣ってくれる優しい光だった。

「自分の姉貴に惚れてる男を好きになるなんて、安っぽいドラマだよ」
「……わかってる、もん」

 わかっててやるなら――もう一度、同じことを考えかけて、夢深は苦笑した。
 そういうアホなところが、この子の可愛くて、私の好きなところなんだろうなあ。

「カラオケでもやって帰ろっか、さやか」
「……うん!」




Memories Off Next Generation
『夢であるように』