「行くな」と一言、云えばよかったのかも知れない。
だけど、いつまでも彩花を想い出にできない俺には、
きっとそんな資格ないから。
唯笑の笑顔に甘えて、
その陰で流していた涙を知りながら、
気づかないフリをしていた俺には。
だから、今日もバカみたいに、俺はふざけて、笑っていて。
唯笑を見送る日があるなんて、
そんなこと、目の前にしても信じられなくて。


止めてほしいと、ほんとは思っていたのかも知れない。
だけど、彩ちゃんとの約束を破った唯笑には、
もうそんな資格ないから。
想い出に寄り添って、
ただ何も望まず、そばにいること。
そのつらさから逃げ出した唯笑には。
だから、こんな日になっても、大切なことは何も云えなくて。
手を振っている智ちゃんに、
明日からはもう逢えない。そんなこと、信じられなくて。




――そして、ドアは閉まり、
  当たり前すぎた日常は、
  遠い距離に引き裂かれる。

  新しい生活。
  新しい出逢い。
  変わらない想い。
  忘れたい、記憶。

  その中で、彼と彼女は誰を選び、誰を想い出に変えていくのか。



Memories Off EX
『あんなに一緒だったのに』

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