「唯笑は、ずるいよ」
窓の外を見つめたまま、真冬ちゃんはぽつりと呟いた。
表情は、いつもと変わらない。穏やかに優しげに微笑んでる。
――だけど、何かが決定的に違っていた。
「幼馴染みの彼を想い続けることができたのは、信がいたから? いつだって、自分だけを見つめてくれる人がいる。そのことに、安心してた?」
「そんな、真冬ちゃん、ちが――」
「言い訳なんか、聞きたくない」
その言葉も、やっぱりいつものように静かで、少しも激したところはなくて。
だけど、やっぱり何かがあまりに違っていて、何を云うこともできなくなってしまった。
そんな唯笑の沈黙は、真冬ちゃんにとって、どう映っただろう。
真実を言い当てられたことの戸惑い?
身に覚えのない言いがかりをつけられた憤り?
そして――自分自身は、どう思ってる?
真冬ちゃんがこちらを振り向く。
黒い、闇のような瞳が、突き刺すような光で唯笑を見据えていた。
「唯笑には、絶対、信を渡さない」
「……真冬ちゃん……」
「渡さないから」
Memories Off EX
『あんなに一緒だったのに』
唯笑編・第二部「壊れた世界」