「……なによ、それ」

 拳を握りしめ、押し殺した声で、真冬は呟いた。
 彼女から目をそらしたままの信は、その様子に気づかなかった。自嘲気味の薄笑いを浮かべたままで、言葉を続けた。

「最初からわかってたことさ。あの二人には、結局、他人が入り込む隙間なんかないんだよ」
「……けるな」
「え?」
「ふざけるな!」
「――っ!!」

 右頬を思いっきり拳で強打された信は、どうにか無様に転ぶことだけは持ちこたえた。赤く腫れた頬を押さえて、それでも笑おうとする。
 そんな信を、真冬は瞳を炎にして睨み据えていた。

「……真冬、お前、いつも手加減なさ過ぎ……」
「本気で惚れてる相手に、手加減なんかできるわけないっ」

 ――その叫びに。信はようやく、真顔になった。
 真冬渾身の一撃より、遙かに重く、遙かに痛い、その叫び。
 真冬の怒りと、それ以上に深い想いが、それ以上、信に自分を偽ることを許さなかった。

「……真冬……」
「あんたはどうしていつも、そうなのよ! そうやって、自分で勝手に理屈つけて、納得したようなつもりになって! そんなの、言い訳にしか聞こえないわ!!」
「……」
「自分にも他人にも手加減なんかしないで! 一度ぐらい、あんたの本気を見せてよ! 好きなんでしょ? 唯笑が、ほしいんでしょ!? だったら――」
「真冬、俺は……」
「もう聞きたくない! 早く行きなさい、このヘタレ!!」




Memories Off EX
『あんなに一緒だったのに』

唯笑編・第二部「君がいた物語」