「智ちゃん、あたし、明日、京都に帰るね」
「……え……?」

 俺の方を振り返りもせず、唯笑はようやく覗いた晴れ間を見上げながら、そう云った。
 どれだけの時間、そうして雨に打たれ続けていたのか。全身をずぶ濡れにした幼馴染みは、俺の知らない表情をその横顔に浮かべて微笑んでいた。
 その穏やかさが、そして、何よりその言葉が、惨めなくらい俺を打ちのめした。

「明日って……一週間はいられるはずだったんじゃないのか?」

 違う、そんなことが気になったんじゃない。
 ――帰る。
 唯笑は、そう云った。
 唯笑の帰る場所が、ここではないどこかにある。そんな当たり前のことが――。

「ううん。帰る」

 やはり俺の方を見ようとせず、唯笑は微笑んだまま、繰り返した。




Memories Off EX
『あんなに一緒だったのに』

智也編第一部最終話「あんなに一緒だったのに」