私の言葉に、俯いたままの今坂さんの身体が、瞬間、強張るのが判った。
暫くして、のろのろと顔を上げる。そこには、取って付けたような笑顔が張り付いていた。
「ごめん。唯笑、音羽さんが何言ってるのか解んないや」
解ってるくせに。また、そうやって逃げるんだ。
何も見ないふりして。何も聴こえないふりして。また、あの時みたいに。
「じゃ、もう一度言ってあげる」
少しキツめの口調でそう告げる。
今坂さんの笑顔が、一瞬、歪んだ。
「私ね、智也と寝たの」
さっきと同じ台詞。
そしてさっきと同じように、その瞬間、今坂さんは身体を強張らせた。
「……ホント……に?」
「ええ」
「そっか……あはっ、そうなんだ……」
言いながら、しだいに表情が崩れていく。
後に残ったのは、今にも泣きそうで、でも無理矢理笑っている、そんな感じの笑顔。
そんな泣き笑いの表情で「あはは……」って力無く笑うと、今坂さんはぽつりと呟いた。
「音羽さん……本当に、智ちゃんに……抱かれたんだ……」
「違うよ、今坂さん」
「……え?」
呆然とした表情で私を見る。
前言を翻すかのような私の言葉に、少しだけ、その瞳に光が戻った。
だけど。
「私は、智也に抱かれたんじゃなくて、」
そこで一旦、息をつく。
そして私は、今坂さんの瞳を真っ直ぐに見据えながら、こう、告げた。
「私が、智也を、抱いたの」
Memoris
Off EX
『あんなに一緒だったのに』 another sight story
sight "Kaoru Otowa"
「あいのかたち」