深夜の公園は静寂に包まれていた。
一定の間隔を置いて設置されている水銀灯が、辺りに柔らかな灯りを投げかけている。
あの日、唯笑に呼び出され、京都に進学することを告げられ、そして智也のことを託された場所が、まさにこの公園のこの場所だった。おまけに時刻までもがほとんど同じだ。違うことと言えば、相対する二人の心情、だろうか。
あの時、唯笑は智也との間にあるものを確かめることを恐れた。かおるは、自分と智也との間にあるものが何なのか、理解していなかった。
そう。それはあくまで、あの時は、だ。
恐らく唯笑は、もう逃げることを止めたのだ。公園に現れた彼女の表情を見た瞬間、かおるにはそのことがすぐに解った。
そして───かおるも、すでに、自らの想いには気が付いていた。
「……そうだね。今坂さんの言う通り、私は、智也のことが好き」
予想通りの答えだったのか、自らの質問に対するかおるの返事を聞いても、唯笑の表情はぴくりとも動かなかった。
強くなったな、とかおるは思う。あの日、智也のもとから逃げ出した頃の面影は、今はもうない。その瞳には、確かに強い意志が宿っている。
……しかし。
唯笑は勘違いをしている。かおるは思った。自分は確かに、智也のことが好きだ。けれど。
「それでも───私と智也の間に、恋愛感情はないよ」
「うそ」
間を置かずに返って来た反論の言葉に、かおるは困ったような笑みを浮かべた。
そんなかおるの様子に、唯笑が咎めるような口調で続ける。
「恋愛感情がないのに、智ちゃんを抱いたの? 智ちゃんは抱かれたの?」
「そうだよ」
「なに……それ……わかんない。わけわかんないよっ!」
怒りとも戸惑いとも取れる叫びが、夜の公園に響き渡った。
高校時代の唯笑からはとても想像出来ないその姿に、かおるはしかし、却って親しみを覚えていた。
当時の唯笑は、その名前の由来の通りいつも笑っていた。何があろうとも、その全てを胸のうちに隠して。それは確かに唯笑の強さだったのかもしれない。しかし、それは反面、他人に正面からぶつかることのできない弱さでもあったのだと、かおるは思うのだ。
だからこそ、かおるは、唯笑がこんな風に感情を顕にして自分にぶつかってきてくれていることが、とても嬉しかった。それは智也を失いたくないという、強い意志の現れなのだから。
そして、そんな唯笑に、かおるは理解して欲しかった。自らの想いを。
どう言えば、唯笑は解ってくれるだろうか。どうすれば、自分の想いが伝わるのだろうか。
しばし考えをまとめる。そして。
「……この間観た映画でね、ヒロインがこんなことを言ってたの」
───恋は求めるもの。そして、愛は与えるものよ。
「なるほど、って思った。極端な意見だとは思うけど、一面の真実を表してはいるかなって」
そこで言葉を切り、静かに唯笑を見詰める。
「ね、今坂さん」
「……なに?」
「私は智也を、愛してる。けどね」
かおるは少し寂しげに、笑った。
「恋しては、いないの」
Memories Off EX
『あんなに一緒だったのに』
かおる編・第二部「イノセンス」