智也クンと少し距離を置きたい、そう唯笑ちゃんから相談されたとき、あたしはかおるちゃんや詩音ちゃんみたいに、反対することはできなかった。
そりゃあ、唯笑ちゃんには頑張ってほしいと思う。ずっとずっと大事にしてきた想いを、諦めてなんてほしくない。
でも、それはとてもつらいことだ。自分じゃない、違う誰かを想い続けているひとのそばにいることは。想い出を共有しているなら、なおさら。
離れてみて、はじめて見えるものもある。自分の気持ちに決着をつけられないまま、ただそばにいられればいい、なんていうのは、それこそ逃げてるのと変わらない。
だから、あたしは唯笑ちゃんが苦しんで苦しんで、その結果出した答えなら、それがなんであれ応援してあげようと思った。
……そして。彼女にそうさせた智也クンを責めることも、あたしにはできない。あたしにだけは、その資格がない――。
「どうした、小夜美?」
「――ん、なんでもない」
窓の外から視線を戻すと、心配そうにあたしを見つめている彼と目があった。
けれど、それは一瞬のことで、すぐに彼はいつも通り、意地悪そうに笑うのだった。
「相変わらず、ぼんやりしてるのな」
「失礼ね。物思いにふけっていた、と云ってちょうだい」
「柄にもないことすると、肩が凝るぞ」
「う・る・さ・い」
軽く睨んでやったが、全然応えた様子がない。あたしも結局、苦笑してしまった。
ずっと昔から、繰り返されているやりとり。
気がつけば、いつも彼はそばにいた。
あたしが恋をしたときは、からかいながらも、つまらないのろけ話につきあってくれて。
あたしがふられたときには、涙が止まるまで、ただそばに立っていてくれた。
そんな彼の気持ちを知っているのに。あたしは。
「――どうした、ほんとに気分悪いのか?」
「ううん、平気だよ、直人」
微笑んで、首を振る。
いつだって、こんな風に笑える自分が、あたしは、心底嫌いだった。
Memories Off EX
『あんなに一緒だったのに』
小夜美編「四年目の憂鬱」