「私の人生に、あんたがもう一度関わってくるなんて、考えもしなかったわ」
「……俺は、お前にもう一度会えて、嬉しいよ」

　信が笑う。あのときのままの笑顔で。
　それを見ると、気持ちをもう抑えられなくなる。そう、私は本当に、その笑顔が――。

「――あんたのそういうところが大嫌いなのよ。その無自覚で無節操な好意の大安売りがね」
「……」

　悲しげに目を伏せて、それでも、信は笑う。
　そうだ、あのときも彼はこんな風に笑っていた。
　どれだけ傷つけられても笑うことのできる、あんたのその強さが、私をどれだけ惨めにさせるか。
　あんたはそれに気づかないから、いつだってそうやって、へらへら笑っていられるんだ。

「ま、真冬ちゃん、言い過ぎ……」
「唯笑は黙ってて」
「でも……」
「ほっときほっとき。それも真冬ちんの愛情表現なんやから」

　私と信の間で、あたふたと取りなそうとしていた唯笑に、由美子が肩をすくめてそんなことを云った。
　……温厚そうな顔をして、本当にこの子は、いつも痛いところを突いてくる。

「ほえ？　そうなの？」
「くだらないこと云わないで、由美子」
「真冬ちんがそんなムキになる相手、他におらんやん。興味のない相手やったら、目の前で死にかけとっても、眉ひとつ動かさへんのに」
「……随分な言い草ね」

　にやにやと意地悪く笑う由美子から面をそらすと、今度は信と目が合ってしまった。
　信はきょとんとして、不思議そうに首を傾げている。
　本当に。どうして、私の周りには、こう極端に鈍い人間と必要以上に鋭い人間しかいなんだろう。

Memories Off EX
『あんなに一緒だったのに』
真冬編「千夜一夜」