「事故っ!?」

 ガタンッ――とわたしは、自分の脚がよく利かないのも忘れて、立ち上がろうとしてバランスを崩した。

「あっ、痛……!」
『ちょっとユメ? 何、大丈夫?』
「わたしは……平気。それより」

 電話の向こうの小夜美へ釈明して、先を促す。
 もう何年も、右脚を意識しなかったなんてこと、なかったのに。それほどわたしは、我を忘れていた。

『あ、うん。大丈夫、心配しないで。ふたりとも、大したことはないらしいから。でも黙っているのもなんだから、一応報せておこうと思ったのよ』
「そう……」

 一呼吸して、ようやく胸を撫で下ろす。

『だけどユメには、あまり気持ちのいい話題じゃなかったわね。ゴメン』
「それは――」

 小夜美も一緒でしょ? と言いかけて……言えなくなる。
 交通事故なんて、誰だってイヤなもの。まして自分や……肉親が遭遇していれば、なんて、今更改めて言わなくても、いいと思った。

 偶然、だった。
 乗り合わせたバスが、たまたま、彼と同じだった。
 ただ……それだけ。

 だけどそのバスは――不幸にも、大型トラックと衝突して。

“あたし……弟に……克也に謝らなくちゃいけないのよ……あの子は? ねぇ、どうなったの?”

 鮮明に記憶へ焼きついているあの時の彼女の顔が、声が、わたしに唇を噛ませた。

『ん? どしたの、ユメ』
「……ううん……なんでもない……」

 きゅっと結んだ唇に、一瞬鋭い痛みがはしって。
 無理をした右脚にも、まだ鈍い痛みが、まとわりついているみたいで。

 そして何よりも、あなたのその優しさが――わたしには、痛いの。




Memories Off EX
『あんなに一緒だったのに』

夢眠編「不正処理」