――変わらない。
あたしは、智ちゃんに笑い返しながら、そう思った。
もちろん、変わってしまったものもある。
あたしが、自分を「あたし」と呼ぶようになったこと。
あたしの髪の長さ。
そして……智ちゃんの、タバコの臭い。
今日はあたしに気を遣って、持ってこなかったのかも知れないけど、吸い慣れた人の体に染みついた臭いは、そう簡単に隠せやしない。真冬ちゃんの云ったとおりだ。
さっき胸ポケットを探った仕草も、無意識にタバコを取り出そうとしたせいなのだろう。
そんな風に、あたしにまで気を遣ってくれるようになったところが、いちばん変わったところかも知れないな……そう考えて、心の中で苦笑した、そのすぐあとで。
小さく、胸が痛んだ。
気を遣ったのは、本当に、あたしに対して?
智ちゃんがあたしを通して見ているのは、今でも――。
「なんだよ、唯笑、本気でむくれたのか?」
からかうように、智ちゃんがあたしの顔を覗き込んでくる。
その瞳に映っているのは、あたしじゃない。
そう、あたしたちは――。
「変わらないね、智ちゃん」
思わずそう呟いたとき、なぜか智ちゃんは息を飲んで、拳をわずかに握りしめた。