クリスマス集結指令

−後編−

小俣雅史さん・作

―藍ヶ丘・2―

「唯笑ちゃんそうじゃないよ、そこをこうっ! 詩音さん勝手に紅茶博覧会作らないでくださいっ!」

 三上家では着々とクリスマスパーティの準備が進められていた。力仕事ではあまり活躍を見せることのできなかった伊吹みなもであったが、飾り付けとなると目に炎を宿して精力的に活動を行っている。もっとも現場監督ではあるが、その独自の拘りと信念に基づいて、今この場で誰よりも輝いていた。

(う〜ん……みなもちゃんって結構人使い荒いんだな〜)

(今日のみなもちゃんって、なんか迫力があるなぁ……唯笑何度も怒られちゃった し)

(紅茶博覧会……ただ並べてるだけでしたが、それもいいかもしれません)

 そのみなものもとで、各々の考えを持ちながらもみなもの迫力には勝てず服従して働く人間が二名。今坂唯笑、双海詩音の二人である。ちなみに信は台所で料理の準備 を進めていた。
 みなもの適切な指導もあって、飾り付けは最終段階に入ろうとしていた。みなもがもうそろそろ完成だということを告げると、二人には自ずとやる気が芽生え、完成へ向けて一気に飾り付けを終えていった。
 ピンポーン

「ただいまー」

 チャイムが鳴ったと同時に玄関の扉が開かれ、三人にとって聞き覚えのある声が家に飛び込んできた。智也とかおるだ。ケーキを買いに行っていた二人が飾り付けを終えると同時に戻って来たのだ。

「あー疲れたぁ……あ、はい唯笑ちゃん。ケーキ買ってきたよ」

 真っ先に出迎えた唯笑が、かおるからケーキを受け取って満足そうに頷く。

「ご苦労様、かおるちゃん。それに智ちゃん」

「ったく……なんか精神的にめちゃめちゃ疲れたぞ」

「ほへ? どうしたの」

 智也の言葉の意味がわからず、唯笑は訊いてみたが、智也はただ首を横に振るだけで何も言わなかった。同様にかおるにも尋ねてみたが、同じく首を横に振るだけで何も言わなかった。

「う〜……二人ともいぢわる」

 唯笑は頬をふくらませて抗議もしてみるが、それでも二人はそれを無視するように、かつて智也の父親が使用していた書斎にコート等の荷物を置きに行った。
 ちなみに、会場の間取りはこうなっている。リビングがメイン会場、台所がそのまま調理場、書斎が荷物置き場、智也の両親のもと寝室が臨時会場、そして智也の部屋が休憩所、トイレはそのままトイレ、といった感じである。

「はい、では皆さん休憩にしましょう。紅茶を煎れてあります」

 智也とかおるが飾り付けの終わったリビングに戻ってくると、既に料理の準備を終えた信もカーペットの敷かれた床に座っており、詩音が紅茶を煎れて待っていた。

「はぁ、やっと休めるなぁ……それじゃ詩音、いただきます」

 智也はそう言って紅茶に口をつけた。すると紅茶の豊かな味わいが口一杯に広がり、芯から冷えている体を中から温めていった。それから数分間全員で談笑し、体も休めると、料理を皿に盛り付ける作業に入った。この作業は信が率先して行い、日頃 のバイトでの成果を発揮している。
 全員で金を出し合って(健達は無料ということになっているが、実は静流が厚意で払っている)買ったケーキやその他諸々クリスマスパーティには欠かせない料理が、特別にダンボール等元手のかからないありもので作られたテーブルを彩っていく。全 て料理をテーブルに並べ終わると、智也達は全員同時にため息を吐いた。

「はぁ……終わった。あとは小夜美さんが静流さん達連れてくるの待つだけだな」

 信が、料理をする際に使っていたエプロンを外しながら言う。
 ピンポーン

「お、噂をすればなんとやら……」

 玄関が開け放たれる音がして、次に小夜美の声が家に飛び込んでくる。それを確認すると智也達は立ち上がって出迎える準備をしてから返事をした。

「お邪魔しまーす♪」

 可愛らしい女の子の声を頭にして、次々と挨拶が飛び込んでくる。その声だけで7人が確認できた。

(ん? 8人とか言ってなかったけか?)

 智也はすぐにそれに気づいて疑問に思ったが、それを考える暇もなく小夜美がリビ ングに姿を現し、それに続いて6人の美女+浮気男(信談)がリビングに入ってき た。

「こんにちわ〜♪」

 先程一番最初にお邪魔しますと言った子と同一人物と思われる子が、満面の笑みを浮かべながら智也達を見て挨拶した。それに続いて智也達と健達でお互い自己紹介が行われた。

「あれ? 双海さん?」

 鷹乃が詩音を見て、気づいたように言った。どうやら詩音に面識があるらしい。

「寿々奈さん。これは偶然ですね」

 逆に詩音も鷹乃に面識があるようで、驚いたような表情をしていた。

「ん……? あれ?」

「……あ、さっきの」

 鷹乃と詩音の対話のすぐ後に、智也と健が顔を見合わせた。お互いどこかで見覚えがある。

「どうした? 今度はお前達か?」

 そこに信がやってきて、智也の横に並んで智也と健に言った。

「…………あ!! 思い出した!!」

 健は、智也の隣に信が立って初めて記憶が繋がった。先程駅であったのも思い出したが、それよりさらに前、健が以前澄空の学園祭でカキコオロギなるものを食べさせられた時、信の隣にいて真っ先に逃げた男。

「あぁ、そういや駅でぶつかった……」

「カキコオロギっ!」

 智也の言葉を遮って健が叫ぶ、その声量に皆が一斉に健の方を振り向いたが、それでも構わず健は続けようとした。だが先に信の言葉が出る。

「おぉ、そういや去年の文化祭……」

「……ってまさか、オレ達の特製カキコオロギを買ってった、あの男か?」

「あ、ホントだ! 唯笑覚えてるよ!」

 お互い辛い過去の出来事(?)を振り返り、少し懐かしさと、世間の狭さを痛感し た。
 それにより二人の間に多少気まずさが残ったが、それからは信のリードにより、お互いの緊張も解け、すっかり馴染んでいった。全員でクラッカーを一斉に鳴らし、唯笑とほたるが真っ先に料理に手をつける。それから他のメンバーも料理を食べ始め、それと並行して会話も弾んだ。 
  智也とほたるの会話。

「あなたが三上さんですよね?」

「ああ、そうだけど……」

「うーん……」

「……どうしたの? 人の顔じっと見て?」

「似てないなぁ」

「は?」

 唯笑と健の会話。

「ほんとあの時はごめんね、智ちゃんと信くんたらあんな馬鹿なことして」

「今坂さん、でしたよね。そうか、なんで知ってるのか思ったら、あの時の実行委員って腕に巻いていた」

「うん、そうだよ」

「そうかぁ……本当に世間っていうのは狭いんだね」

「唯笑も、そう思うよ」

 信とつばめの会話。

「あの、先生?」

「…………」

「あのー……?」

「……レモン」

「へ?」

 信は、最難関と思われた鷹乃の表情が緩むのを確認して、催し物を進めていく。
 三上智也と稲穂信の漫才コーナー。即席だったために、始終どっちがボケ役かの問答だったが、それでも一応はウケていたので(特に唯笑とほたる)結果オーライとなった。
 似顔絵交換会。ペアを組んでお互いの似顔絵を描く。唯笑とほたるはやはり大笑いだったが、みなもと希のペアには全員感嘆の声を漏らしていた。ちなみに小夜美、静流ペアはお互い似てないとの文句の付け合いからプロレスに発展。信が止めたがその見返りに意識を失う。つばめは信が相手をしていたが、つばめは信が死んでいく様を 克明に描き出していた。
 カラオケ大会。その名の通り、智也の家にあったカラオケセットを使い、歌を楽しんだ。かおると巴の歌には全員心を躍らせていたが、鷹乃と詩音の美声も好評を博し た。それを最後に信が用意していた催し物は終わったが、それからはその場のノリに 合わせて色々と行っていった。
 ほたるのキーボード演奏会。小夜美がこんなこともあろうかと、予めキーボードを用意していた為に行うことができた。電子音といえど、ピアノコンクールで全国一位に輝いたほたるの演奏は素晴らしかった。ピアノで聞きなれていた健達には少し物足 りないという感もあったが、智也達にとっては衝撃であり感動だった。その後ほたるがコンクールの全国大会で金賞を取ったという話を聞いて、智也達はなおも驚いてい た。
 詩音の紅茶講義。つばめと鷹乃以外は全員途中から聞いていなかったが、それでも 詩音は最後まで続けられたことを満足に思っていたらしい。
 それからも色々とあったが、智也がその場に居たのはこれだけだった。智也は詩音の講義の途中、少し息が詰まってきたような気がしたので、熱気溢れる会場を抜け出 して自室に向かった。

「ふぅ……それにしても、大成功だな、今回のパーティは」

 智也は自室のベッドに寝転がりながら、ふと呟いた。智也はこのパーティを心から楽しんでいた。久しぶりに大騒ぎして、久しぶりに盛り上がった。それが嬉しくて楽しくて、人生中でも5本指に入るくらい楽しい時を過ごしているのを実感していた。
 だが智也はふと心のどこかに空白を感じていた。そう、かつての彼女、桧月彩花のことだった。決して彼女に未練を持っている訳ではないが、楽しい思いをしていると必ず彼女とも味わいたいという願うことが今までもあった。

(彩花……クリスマスの夜くらい、会ってみたいもんだな)

 智也はそう思うと、何気なく机の視線を移した。すると、唯笑が持ってきていたク リスマスカードの余りが何枚か置かれている。

(……まぁ、やってみるのも悪くはないかな)

 智也はその一枚を手にとり体をベッドから起こして、机の上に無雑作に転がっていたボールペンでこう書いた。『メリークリスマス彩花。智也より』。

「さて……戻るか」

 何かと成し遂げたような清々しい気持ちで、智也は部屋から出て行った。そして部屋のドアを閉めた瞬間、ふと柑橘系の甘酸っぱい香りを鼻腔に感じたが、智也は振り返らずに会場へ戻った。

(メリークリスマス、彩花)

(メリークリスマス、智也)

 なんとなく、智也は返事が返ってきたような気がした。



「もういい時間だな……それじゃ話のネタも料理もなくなってきたし……お開きにす るか?」

 時計と周りの様子を見て、そろそろ終わりにした方が良いと悟った信は、気分が冷めないうちに解散することを提案した。もう夜中の12時を回っているということを考えても、やはりそれは正しい判断だった。全員が頷き、健達は全員で片づけを始め る。

(……う)

 健が食器を洗っていると、不意に尿意を感じた。一旦気づいてしまうと尿意という のはどんどん高まってくるもので、健は耐え切れずに洗っている途中の食器を水につ けて、手についた洗剤の泡を流すと、そのままトイレに向かった。

「早く済ませて戻らないと……」

 健は少し急ぎながらトイレのドアを開いた。その時だった。健の視界に便器に座っ ている一人の少女が映る。

「…………」

「…………」

 健はその少女と目が合う。そしてその少女は、健もよく知る人物、希だった。二人 とも予想外の出来事で3秒ほど固まってしまったが、それでも健はなんとか意識を現 実に引き戻す。

「……なに、してるの?」

 普通であれば即座に閉めて謝るのだが、健は希の様子を見て言葉を変えた。確かに 希は便座に座っている。だが、それこそ椅子替わりに便器を使用しているようなもの で、それはトイレの正式な使用法とは言い難かった。その為、健はその行動を不審に 思ったのだ。

「……す、すみません……私、望です」

「え?」

 一瞬頭の中に空白ができた。

「健さーん? どこですかー?」

 ふと目の前にいるはずの希の声が、リビングの方から聞こえる。と、いう事 は……。

「望ちゃん……来てたんだ。ってことはもしかして、パーティ中何回も入れ替わって たとか……?」

 健はそこにいる少女が望だということを確認すると、意識を少し過去に飛ばしてみ た。すると、希は何回もトイレに行っており、入れ替わっていたという点では思い当 ることがありすぎた。
 尋ねてみると、望はこくりと無言で頷く。
 パタン
 健はそれを見て、気づかれないようにトイレのドアを閉めた。勿論自分は中に入っ ている。

「はぁ……そうかぁ。ぼく全然気づかなかったよ」

「そうですね……なにしろ今までも入れ替わってましたから、バレちゃうようじゃ、 とっくにバレてますよ」

「それもそうか……で、問題なんだけど……どうやってここから出るの?」

「隙があれば」

「隙って……まぁそれはいいんだけど、一人で帰ることになるでしょ? それじゃ危 ないよ。ぼく今から希ちゃん呼んでくるから、一緒に帰りなよ。あとは適当に誤魔化 しとくからさ」

「い、いえ……そんな……」

「いいっていいって、別に疲れることする訳じゃないんだから」

「で、でも……じゃあ、はい。よろしくお願いします」 

 そう言って健を止めようとした望だったが、健の善意を無駄にする訳にもいかず、望は健の厚意に甘えることにした。
 そして健が計画を実行しようとしてドアノブに手をかけたその時だった。
 ガチャ

「え?」

 突然向こうからドアが開けられる。勿論一瞬のことだったので、望を隠すこともフォローする時間さえもなかった。そして、そこに立っていたのは巴だった。

「あれ、イナ……と希ちゃん……? と、トイレで二人何を……って、まさか!?」

 何を想像したのか、巴は二人を見て表情を引きつらせていった。

「ちょ、い、いくらクリスマスだからってそれは」

「わーわーわー!! 誤解だよ誤解! 勘違い!!」

 必死に巴が想像したと思われる事柄を健は全力で否定した。だがその騒ぎ声が聞こえたのか、誰かがトイレへと近づいてきた。

(ま……マズイ!)

 もうこれ以上はフォロー不可なので、健は絶体絶命のピンチに陥った。しかし、事態は思った程悪い方向には行かないようで、近づいてきたのは希ちゃんだった。それはそれで巴に見られた場合健と相摩姉妹だけの秘密である入れ替わりがバレることに なるが、それでも今回は助かった。

「わ、ちょ、イナッ! 何するのってふぐ!?」

 健はかなり強引ではあるが、巴の頭を抱えて思いっきり抱きしめ、目と口を塞いだ。そうやって動きを止めてる間、何が起こったのかわからないといった表情をしている希に望の方を顎で合図し、連れて帰れと目で訴えた。

「…………」

 すると希はトイレを覗いて望の姿を確認して望が小声で事態の説明をすると、希はまず望を玄関の外に出してから、部屋へ向かって言った。

「あの、すいません! 私、先に失礼させていただきます!」

 そして希も一度荷物を走りながら取りに行ってから、望に後に続いて玄関から慌しく出て行った。健はそれを確認すると、巴を解放した。

「ぷはあっ! ちょ、イナいきなり何を!?」

 息苦しさか、それとも別の理由か、顔を真っ赤にした巴が健に講義する。健はそれを『あははは、あは、あは』などと強引に笑って誤魔化し、リビングの方へと逃げ 去っていった。



「それじゃ、帰ります」

「じゃーね」

「ばいば〜い」

「さようなら」

「ごきげんよう」

 全員が玄関に集まり、それぞれ頭を下げて各々の家へ帰ろうとしていた。玄関を開 くと、先程の熱気とは打って変わった吹き込んでくる冷たい風が、パーティの終わりを示唆しているようでもあった。
 パーティは終わった。名残惜しさを表情に出す者もあれば、それを表情に出さないものの残念がる者のいる。つまり、皆このパーティを楽しんでいたのだ。まさに大成功である。そして気分が冷めないまま全員帰途についていったのだ。
 完全に玄関の扉が閉じてから、智也はぽつりと呟いた。

「うーん……終わっちまったかぁ……」

「ちょっぴり残念だね……でも、楽しかったよ。お友達も増えたし」

「そうだなぁ。それにしても、最初15人とか行ってたけど、一人来なかったな。ど んなヤツだったんだろ?」

「そういえばそうだね。でも、いいよね。楽しかったから」

「おう……で、お前はこれからどうするんだ? 帰るんだろ?」

 今智也の家に残っているのは、唯笑一人。唯笑はさも当然のように帰り組の中に入らなかったが、誰も違和感を覚えなかったのがむしろ不思議である。その為智也は今後の唯笑の行動について尋ねた。 

「……唯笑、今日は帰りたくないな」

「!!」

 唯笑の口からそんな可愛らしくも悩ましげなセリフが出てくるとは、智也も予想だにしていなかった。その言葉に智也は少し動揺するも、なんとなく否定したい気持ちが先行して、唯笑を帰らせようとする。

「ま、まぁ唯笑。おばさんも心配するだろうから」

「智ちゃんの家にいるっていうのに、今更お母さんが心配すると思う?」

「う……それはそうだが……」

「ふふっ」

 唯笑はふと意味深な笑いを漏らした。

「な、なんだよ?」

「聖なる夜なんだから、やっぱり恋人同士は一緒に過ごさなくちゃ」

 唯笑は、やや悪戯っぽい笑みを浮かべながら、智也の顔を覗き込むように言った。

「…………うーん、まあ、そうだな」

 唯笑の理屈は智也としては筋が通っていなかったが、それでも唯笑といたいという気持ちがあったのもまた事実だった。ならば自分の気持ちに素直になろう。智也はそ う決めた。

「それじゃ、二人だけのクリスマスパーティ、これからやるか?」

「うんっ!」

 智也の提案に、唯笑は満面の笑みを浮かべて頷いた。 



「それじゃ静流さん、ほたる。おやすみなさい」

「おやすみなさい、健くん」

 健とほたると静流は、揃って帰宅していた。もっとも、同じ朝凪荘に住んでいるつばめと信とは別れて、ほたる達を送るという形でほたるの家までついてきただけだっ た。
 そして、色々な人にさようならを告げて、健は最後のさようならを言った。これで健は一人家へ帰るだけである。

「…………」

 しかし、健の言葉をほたるは受け止めなかった。何か言いたそうな視線で健を見上げている。

「……あぁ、そういうこと」

 静流はその意味に気がついたようで、もう一度健に小さく頭を下げると、ほたるを置いて家へと入っていた。そして残されたほたるは、まだ不機嫌な表情をしながら健 を見上げる。

「……ど、どうしたのほたる?」

「…………」

 健の質問にほたるは答えず、動きさえもしない。健はほたるの行動を不可解に思い、何かその原因として思い当ることを必死に考えた。何がマズイんだろうか……。

(うーん……)

「わからないの健ちゃん。じゃあ、もういいよ」

 悩み苦しむ健をしばらく見ていた健だったが、しびれを切らしたのか、ほたる思い切り頬を膨らませると重い足取りで家の方へ歩いていった。

「あ……」

 健はその後姿がとても寂しそうに見えた。いや、健が寂しいのだ。それに気づいた時、健は咄嗟に言葉を発していた。

「ほたる!!」

 健がその名を叫ぶとほたるの足が止まった。まるで次の言葉を待っているかのよう に。

「……これから、二人でクリスマスパーティ、やろっか?」

 そう言うと、ほたるは嬉しそうに健の方を振り向いて、はちきれんばかりの勢いで 首を思い切り縦に振った。

「うんっ!」

 ほたるはそのまま健に駆けより、健の腕をとった。

「健ちゃん、だ〜いすきっ♪」

―朝凪荘―

「聖なる夜に吹く風は……やっぱりレモンの香り」

「こうして、夜もふけていく……」

 つばめは一人部屋の窓に寄りかかりながら、レモンを鼻に押し当てた。

「楽しかったわね……今日は」

 ガチャッ
 つばめがそう呟くと同時に、突然ドアが開かれた。

「健くん?」

「はずれです」

 つばめの予想は外れた。確かに健とは違う声で、暗闇にぼんやり浮かぶ姿は、やはり健のそれとは違った。そして、つばめは目を凝らしてよく見てみると、そこに立っていたのは中森翔太、健の友人であり、つばめの心の支えとなっていた少年だった。

「え……中森君?」

「ええ……」

 翔太はつばめのそれに一つ大きく頷くと、急に敬礼のようなポーズをとってはっき りとした口調で言った。

「中森翔太! クィクィ星人との戦闘に勝利し、ただいま帰還しました!」

 それからその様子を茫然と見ていたつばめに対し、翔太はわんぱく小僧を思わせるような笑みを浮かべると、つばめを窓から抱き上げてそのまま抱きしめた。

「あ……」

「先生……。俺は、これからも先生の風になるつもりです。例え嫌だと言っても、俺 は諦めませんから覚悟してください」

「……それじゃあ、私のこと、つばめって呼んでくれる?」

 つばめは一言そういうと、翔太の背中に手を回してその腕に力を込めた。
 月明かりに照らされて浮かぶ二人の姿は聖なる夜にふさわしい光景で、実に幻想的 だった。

「勿論……つばめ」 

「ん……」

 月光に浮かぶ二人の影は、今完全に二つに繋がった。
 二人は、北風に運ばれてくるかすかなレモンの香りを感じながら、ずっと、ずっと 重なり合っていた。


END


2001.12.25

――あとがき――

最初に一言。

なげえ!!
ぶぇりぃなげえ!!

23日は地獄でした。
24日は推敲だけでしたが、それでも死ぬ。

改行指定が気だるい!!

ま、とにかく完成しましたクリスマスSS。
途中から物凄く手抜きになってましたが、そこんところはご勘弁を……。

内容について作者から。

ぶっちゃけダメですね。
これしか言えません。

しかも、シメたのつばめ先生と翔太だしよ……。

はぁ……メリィクリスマス。
親愛なる読者様へ

であであ

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