拝啓 三上智也様
暦の上ではまもなく秋ですね。まだ残暑の厳しい季節だと思いますが、如何お過ごしでしょうか。
まもなく、大学の長い夏休みも終わりますね。
不規則な生活を送っていたりしませんか? 睡眠はしっかりとっておられますか?(こちらは心配ないかと思いますが)
智也さんのことですから、夏バテなどしていないか心配です。
私はいま、スリランカのホテルにいます。
智也さんはスリランカという国をご存知ですか?
インドの南にある島国なのですが、そうですね、首都の方が有名かもしれません。
スリジャヤワルダナプラコッテ
随分と長い、珍しい名前の都市です。
ですが、この国は、私にとって首都の名前よりももっと印象的で、もっと身近なものとしてありました。
……なんだと思いますか?
それは、この島がスリランカという名を持つ以前、なんと呼ばれていたかをご存知でしたらすぐにお解りいただけると思います。
ご存知でしょうか。
答えは……セイロン。
言うまでもなく、ここは、かのセイロン茶葉の原産地なのです。
圧巻でした。
『茶葉が作られているところを見てみたい』
それだけの為にこの国に来た私ですが、広大な茶畑で色とりどりのサリーを身につけた女性たちが茶葉を手摘みしていく姿は、
強く私の心を揺さぶりました。
どこも紅茶の香りに溢れ、深い緑に覆われています。
自然と、人と。
互いに競い合い、頼り合いながら、そのふたつが共存している。
私はこの国にやってくることが出来たことを心から嬉しく思いました。
今日も、広く深い緑の丘に、赤すぎる夕陽が沈んでいきます。
スリランカは、まだまだ夏が続きます。
日差しが強すぎて、北欧の血の混じる私には少々辛いですが、
(長く日に当たっていると、すぐに赤くなってしまうのです)
その太陽が、あの芸術とでも言うべきセイロンの水色と香りを生み出すと思うと、少しでも長くその光を浴びていたくなってしまいます。
こんなにも離れているのに、太陽は茶葉を、私を、そんな気分にさせてくれる。
智也さん、どうか覚えていてください。
太陽は、たとえ遠くにあったとしても、私たちを暖かく包んでくれます。
たとえ夜になってしまっても、必ず朝はやって来て、太陽は私たちを迎えてくれます。
決して、怖れないでください。光に、抱きしめられることを。
どんな夜だって、いつかきっと明けてしまうのです。
どんな雨だって、いつかきっと上がるのです。
浮かび上がる影を見つめずに、その光を見据えて進むことを、忘れないでください。
そのことを、決して。
……なんだか、語ってしまいました。すみません。
スリランカにはあと3日ほど滞在します。その後はインドですね。今度はダージリンです。
インドに2週間滞在した後、いよいよオーストリアに入る予定です。
オーストリアではホームステイですから、住所が分かり次第、またお手紙を書かせていただきますね。
その時は、是非、お返事をいただけたらと思います。
オーストリアは音楽でも有名ですが、文学においてもひけをとりません。
BookWorm……ドイツ語ではBucherwurmですね。本の虫である私にとって、居心地の良い街であることを祈って。
それでは、ごきげんよう。
草々 双海詩音
追伸
もし、それが明けない夜ならば、私が月として迎えに参りましょう。
太陽の影であることを知りながら、それでも、なお。
Memories Off EX
『あんなに一緒だったのに』
詩音編「彼女たちの決断」