ありえないオンライン10


あり得ないよ…10話までいっちゃったよ…。
しかもギルメンまだ全然出てないよ…。

注:この作品はフィクションです。
登場するギルド名、キャラ名は
ラグナロク・オンラインとは一切関係ありません。
ほら、タイトルがあり得ないだし…。


〜どこかの酒場

briskがいる。
彼はイライラと貧乏揺すりをしながら、
左目に巻かれた包帯をさすっていた。

「…どうだった」

そこに一人の男が現れた。
青い髪、白い肌、手には宝石の付いた杖…。

それは血水陣がかつて首都で出会った、
雪之空その人だった。

「…お前か」

briskは大して驚いた様子も無く、
テーブルの上に乗せられたグラスをグイッと呷った。
そして酒臭い溜息をぶわっと吐く。

「『鍵』は手に入れられたか?」

雪之空はその口臭に顔をしかめながら、
briskと向かい側の席に腰を下ろした。

「…駄目だ。お守りが4人もついているんじゃあな」

「その目はどうした?」

「…なしゆの姉貴にやられた」

「ははは、とんだじゃじゃ馬だな」

briskは怒りを露にテーブルを叩いた。
酒ビンが倒れそうになる。

「笑い事じゃねぇ!大体あの情報は確かなんだろうな!?
もし間違っていたらタダじゃおかんぞ!」

「…ほう、私の話が信じられないとでも?」

雪之空は静かな物腰で答えた。
だがその裏には冷たい感情が渦巻いている。
briskも負けじとその目を睨んだ。

「あのなしゆって奴は『鍵』の事を知らなかったみたいだぞ」

「きっと隠しているんだろう…大丈夫だ、既に手は打ってある」

「ほう、一体誰を向かわせたんだ?」

「貴公には関係ないことだ…」

雪之空は何も頼まずに酒場を出て行った。
briskはじっとその後姿を睨んでいたが、
やがてグラスに残った酒を一気に呷ると、
その後を追うように酒場を後にした…。


〜再び血水視点へ


…俺はあの後、
なしゆのポータルでプロンテラまで送ってもらい、
またあの道具屋の一室へと向かった。
後の4人とはそこで別れた。

なしゆはスフィアの容態が心配だと言い残し、
急いで医者を探しに行った。

紅炎と焔は、GMがこの世界にどう関与しているのか、
その答えを探す為に再びどこかへ去って行った。

そして現在の俺はと言うと、
とりあえず腹ごしらえの為にエローラの作ってくれた
シチューをご馳走になっていた。

「今日はどちらへ行かれていたんです?」

エローラがパンを切りながら気さくに話しかけてくる。

「ああ…ちょっと炭鉱にな」

「道理で服がススだらけな訳ですね。
それにところどころ怪我もなされて…」

「大丈夫だ、問題ない」

そんなことより、俺はあのbriskと名乗ったGMの言葉が
気になって仕方が無かった。

(『鍵』を渡せ!この悪夢から脱出する為に!)

一体鍵とは何のことなんだろうか。
このラグナロックという世界に、鍵らしいアイテムは一つしかない。
それは“時計塔の鍵”と言う、別に大したレアでもない
極一般的なアイテムだ。
そんなものをGMが欲しがるとは思えない。

だとすれば一体…。
俺は考えれば考える程頭が痛くなってきた。
激しくかぶりを振りながらシチューをすする俺。
その時、不意に扉がギイ…と開いた。

「お疲れ様です」

声のした方に目を向けると、一人の精悍な青年が立っていた。
なんとそれは、昨日から音信不通になっていた青の時空だったのだ。

「じ、時空か!?」

俺はびっくりして、スプーンを落としてしまった。
あたふたとする所へ、含み笑いをしながら時空が近づいてきた。

「お久しぶりですね。お互い無事で何よりです」

時空はほとんど無傷な状態で、
世界の暴走前と変わらず元気な様子だった。
俺は思わず顔が綻ぶ。

「WISが繋がらなくなってから心配してたんだ!
いつごろから首都に来てたんだ?」

「ついさっきですよ。街角である姉妹に血水さんのことを聞いたら、
親切にここだと教えてくれました」

ある姉妹…ひょっとしてなしゆとスフィアの事だろうか。
俺は旧友との再会を素直に喜んだ。

なにせ状況が状況だ。

エローラが時空にも昼食を振舞おうと話しかけたが、
時空はそれをあっさり断って、俺のベッドに座った。

「聞きましたよ、テロモンスターを撃退したそうですね」

テロモンスター…きっとどこかの馬鹿が古木の枝で呼び出した
レイドリックのことだろう。

「ああ、あれか…レイド一匹程度なら問題ないさ」

「さすがです。…この世界には慣れました?」

お互い喜び勇んでの会話だったが、
時空がその台詞を言った途端、嘘のように暗い雰囲気になった。

「…嫌でも慣れるよ」

「何か手がかりはありましたか?」

「ああ…色々とな。エローラ、悪いが席をはずしてくれるかな」

エローラはにっこり笑って、
何の口答えもなく一階へ降りていった。

…手がかり、そう、時空もこの異常な世界からの脱出を渇望しているんだろう。
俺は元GMと炭鉱で出会った事、『鍵』というキーワードを時空に教えた。

「鍵、ですか…、全く訳がわかりませんね」

「そういえば、ここに来る時はゲフェンを通って来たんだろ?」

「はい」

「様子はどうだった?」

時空は口を噤んだ。
そして、険しい表情で自分の足元に視線を落とす。

…どうやら何かあったようだ。すぐに察することが出来る。
普段ならもう何も聞いておかない所だが、
今は俺自身脱出の手がかりを掴む為、
一つでも多くの情報を欲している。
ここは敢えて問う事にした。

「…何が、あったんだ?」

「ゲフェンは…壊滅状態でした。
街にいたプレイヤーは一人残らず死亡…」

「…何!?」

時空の話によると、ゲフェンにいたプレイヤーは全て、
そう、まさしく一人残らず死んでいたと言う。
俺は話の上で聞くだけなので、ある程度冷静に聞くことが出来ているが、
実際にその惨状を見た時空はよほどショックだったんだろう。
話している最中、身体がガクガクと震えていた。

「僕が着いた時には、街は血の海でした。
それも全員、とても酷い殺され方を…。
それでもまだ息を引き取る直前の人を見つけて、急いで聞いてみたんです。
一体、何にやられたんだと…。すると、その人はこう答えました」

“モンスターじゃ、ない…人に…やられた…”

俺は思い返すように語る時空の言葉を聴いて、
反射的に問い返した。

「人に!?」

時空は自分の身体を抱きしめるように腕を抱えた。
顔色がみるみるうちに青くなっていく。

「ええ、どうやらある廃人ギルドにやられたらしいんです。
枝モンスターではなく…。ゲフェンの街は丸ごとPKされたんです」

「そんな馬鹿な…それほどの力を持つギルドがあるのか!?
大体、なんでそんなことをする必要があるんだ?」

「ギルド『ぐれいとふる☆でっど』…」

「ぐれいとふる☆でっど…?!」

俺達の存在するlydiaサーバには、大小無数のギルドが存在する。
その中で、最近出来たギルドの中でも急速に力を伸ばている超廃人ギルド。

それが『ぐれいとふる☆でっど』

ギルドメンバーは16人。
全員女性キャラだが中身は全て男性プレイヤー。
時折PvsPフィールドに出没しては、
片っ端からPKして去って行く…。

装備品には全て何百万と言うカードを惜しげもなく挿し、
エルニュムにより防御力を究極に高めている。
ペットは全員ムナックかソフィー。

ラグナロックにかけている時間が半端ではなく、
同じ狩り場に三日間いたと言う目撃談もある。

更に特筆すべきはこのギルドの性質の悪さ。

とにかくキャラの強さを自分自身の強さと混同しており、
PKをすることに無上の喜びを感じる。
他人に話しかけられても無愛想なことこの上ない。

何度も他のギルドがこれを殲滅しようと立ち向かったが、
全員Lvは90台を超えており、全て返り討ちにあったという。

そんな危険なギルドがゲフェンを壊滅させたと言うのか…。

「たった16人に街一つが消えたのか…?」

「いえ、16人ではありません、…3人です」

「さ、3人!?」

「ええ、一流レアハンターでもある剣士『Azari』、
STR99の殴り特化プリースト『おーうぇん♪』、
そして…ギルドマスターの『追憶の南瓜』の三人です」

その名前は俺も幾度となく聞いたことがあった。
ぐれいとふる☆でっどの中でも特に秀でた力を持つメンバーだ。

しかし、なんと言うことだ。
いくらPKが好きとは言え、実際に人殺しをしてしまったと言うのか?
しかも、街を丸ごと…。
俺はどもりながらも話を続けた。

「そ、それでそいつらは今は?」

「ゲフェンを壊滅させた後は、どこかに息を潜めているそうです。
どうやら世界が暴走した時にオンラインだったのはその3人だけのようですから、
これ以上メンバーが増えることはないと思いますが…。
…これが、僕の今まで掴んだ情報全てです」

時空も時空なりに、この二日間頑張っていたんだろう。
俺は心から労いの言葉をかけてやった。

「ご苦労だったな」

時空はたった一言「ええ…」と言うと、
俺にこれからの動向を聞いてきた。

「一体どうするつもりなんです?」

「そうだな…俺もゲフェンに行って見ようと思う」

時空は予想しえなかった返答を聞いて、
思わず身を乗り出してきた。

「今の話を聞いてたでしょう!?
もうあそこには誰もいないんですよ?」

「それでも、一度この目で確認して置きたい。
それに…そんな大規模なPKをする理由がいまいちわからないんだ」

「廃人はPKをすること自体が楽しくてしょうがないんですよ」

「それはわかるが…それでも一応、な」

「そうですか…わかりました。もう一度あそこへ戻るんですね」

「一緒に来るか?」

「はい、微力ながら」

俺と時空は明日ゲフェンへ向かう算段を取ると、
その日はエローラの道具屋で眠りに着いた…。

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