ありえないオンライン2

遂に重力社はネットゲーマー達をゲーム内へ封印してしまった!
一プレイヤーである血水は事態を察すると待機を決め込んだが、
それでも事件を解決してくれるのが親愛なる血水様ニダ!


参った、実に参った。
いくらゲームの中とは言え、現実と時間は平行している。
このままでは“外の体”が睡眠を取ることも出来ないし、
いずれは餓死してしまうだろう。

まぁ、その前に全国の家族が異常を発見してくれるだろうが。

俺はプロンテラで待つこと一時間、
特に情報収集も、仲間の安全を確認することもせず、
道具屋の裏側で黙って座っていた。

人々の動きが実に忙しい。
こんな状況だから仕方ないが。
事態がわからずにオドオドしているノービスや、
何度もリザレクションを試しているプリースト、
商売品を放り出して走り去るマーチャント、色々いる。

俺はというとなんだか落ち着いた気分でいた。
今起こっている事態に実感が沸かないのかもしれない。
時々、思い出したように「ログアウト」と言い放つが、
やっぱり意味がないことを再確認すると、
少し現実に引き戻される。

やがて、時空からWISが入った。

「血水さん、今やっとゲフェンまで来ました」

「おお、どうなってるゲフェンは?」

「多分どこの街も同じ状況だと思いますよ…、
どの人も慌てて走り回っています」

「そうか…、ゲフェンで充分補給してからプロンテラに来るんだ。
ゲフェからプロの道のりじゃまず死ぬことはないだろうが、何があるかわからないから」

「わかりました」

一つ大きな溜息を付いた。
そこへ、一人のプリーストが現れた。

「HP回復中ですか?ヒール要ります?」

そういえば俺はさっきからずっと地面に根を張っていた。

「いや俺は…」

そこへ更に、プリーストの仲間らしいアサシンが現れた。

「どうしたのやなさん?」

「騎士さんにヒールあげようかと思って」

どうやらプリーストとアサシンのコンビらしい。
俺がずっと座っているのでHP回復中かと思い、
ヒールをかけてくれようとしたのだ。

「ありがとう、でも休憩してるんじゃないんですよ」

「あらら、そうなんですか」

「そっちは何をしてるんです?」

「自分達はこんな時ですから、危ない人を助けて回ってるんです」

大したボランティア精神だ。
自分達も平等に危険であると言うのに…。

その時、やなと名乗ったプリーストと、相方のアサシンの後ろへ、
一人の男が通りかかった。
立派な白髭を生やし、頭には編み笠を被った、
なんとも珍妙な井出達の老人だ。
先にはPvsP受付くらいしか無い道具屋の裏だけに、
これだけ人が通るのは珍しい。

すると、おもむろにその男が一本の枝を取り出した。

「これで終わりにしてやるのじゃ!エヘ!」

何やら電波な台詞を発したかと思うと、
その枝をバキッと折って、投げ捨て、再び立ち去った。
やなと相棒もその様子を一部始終見ていた。

「あれは…、いけない!こじろーさん!」

初めてやなと名乗った男がアサシンの名前を呼んだ。 どうやら、こじろーと言うらしい。

「へえ、こじろーって言うんですか、それで」

そこで俺の言葉は切れた。
何故なら、枝の切断面から紫の煙が上がったかと思うと、
突然一匹のモンスターが現れたからだ。

こじろーが叫んだ。

「やはり、古木の枝…!!」

「何!?古木の枝だと?!」

古木の枝はモンスターをランダムに呼び出す危険なアイテムだ。
まさか街中で使う奴がいるとは…。
間髪入れず、そのモンスターは道具屋の裏から大通りへ飛び出していった。
同時に数人の悲鳴と驚愕の声が聞こえる。

「チラッとしか見えませんでしたが、あれはもしやレイドリック!?」

レイドリックだと?もし本当にそうならば、
それはピラミッドの最深部やGHにしか現れない強敵モンスター。
Lvは50を超えていたはずだ。

「低Lvの人が危ない!騎士さん!自分らはレイドリックを追います!」

「お、俺も行こう!」

「助かります!」

大通りに出ると、レイドリックは一人のウィザードがアイスウォールで足止めしていた。
不思議なことに、否、死の危険が付きまとう今となっては当然ごとく、
他の人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ出していた。
そのウィザードにこじろーが声をかける。

「大丈夫ですか!?」

「なんとか頑張ってますが、今の残存SPではいずれ攻撃されます…」

ウィザードは落ち着き払った口調でそう答えた。
どうやら残りSPがあと僅かだったらしい。
そう考えている間にも氷の牢獄からはガンガンと音が響く。
レイドリックがアイスウォールを破壊しようとしているのだ。
その攻撃が術者自身の精神にも響くらしく、
ウィザードはその顔に一筋の汗を光らせている。
このままでは限界が近い。
やながその様子を見て俺に叫んだ。

「騎士さん、Lvは!?」

「65だ!」

「レイドリック、行けますか!?」

「オートカウンターでなんとかなる!!」

「ウィザードさん、合図をしますから呪文の詠唱を解いて下さい、 レイドリックは私自分達が引き受けます!」

「わかりました…!」

ウィザードは氷の牢獄へ手を翳していたが、やがてやなの合図で手を降ろした。
それと同時に、あれほど堅強だったアイスウォールは、激しく音を立て崩れていく。
こじろーが叫ぶ。

「来ますよ!自分も出来る限り援護します!」

「ウシャアアアアア!!」

レイドリックが珍奇な鴇の声を上げながら襲い掛かってくる。
AGL型の俺にとっては、一発が致命傷だ。
気を引き締めねばならない。

「オートカウンター!!」

レイドリックの殺陣に合わせて素早く体を右に動かす。
そして、剣を思いっきり振り下ろしたレイドリックの背中へ、
重い一撃をお見舞いした。

「アギャアアアア!!」

綺麗に決まった。
レイドリックは地面に付くほど傾かせた剣を、
真一文字になぎ払って来た。
素早くジャンプしてかわし、頭部へ更に一撃与える。

鎧だけが動き回るというデザインのレイドリックには、
一撃ごとにこっちの剣が折れそうな程な衝撃が返ってくる。
だが、それだけ効いている証拠だ。

「インベナム!」

こじろーが背後からカタールで突き刺した。
アサシンお得意の毒攻撃だ。

「グ、ウゥ…」

レイドリックは膝を突いて肩を落とした。
どうやらそろそろ限界らしい。

「よし、トドメだ!ボーリングバッシュ!」

だが、俺が最後の一撃を加える瞬間、
奴は右手に持っていた剣を俺に向かって投げつけてきた。

「なッ…」

駄目だ、避け切れない!

「キルエ・エルレイソン!」

「ナイスだやな!」

「任せて下さい、さあトドメを!」

「ウリアアア!!」

俺のボーリングバッシュは見事に決まり、
レイドリックは放り出された人形のように吹っ飛び、
ガラガラと音を立てて空中分解した。

「やりましたね!」

「危なかった…ありがとうやな」

「いえいえ」

いつもならなんてことはない一連のバトルだが、
死ねば終わりと考えると緊張感が丸で違う。

「助かりました…」

さっきのウィザードはよろよろとその場に座り込んだ。
すぐにやなが問う。

「HPは大丈夫ですか?」

「ええ、HPは大丈夫ですが、SPがすっかり無くなってしまいました」

「普通なら逃げ出すのに、素晴らしい勇気ですね」

ウィザードは青い眉を一つも動かさずに答えた。

「IWが切れたら私も逃げ出す所でしたよ」

全く無表情なので、本気なのか冗談なのかわからない。

「私は雪之空と言います、あなた方は?」

「自分はやなです、こっちがこじろー」

「俺は血水陣だ」

「あなた達は命の恩人だ、名前はしっかり覚えておきます」

いつもならこのまままったりムードになるはずだが、
俺には彼らが何年も共に戦って来たような戦友のごとく思えた。
それも仕方の無いことだが。

「他の人達もよっぽどの臆病者でなければいずれ外に出てくるでしょう。
私は人を探しているのでこれで行きます、では」

端的にそれだけ言うと、雪之空は立ち去った。

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