ありえないオンライン4


どんどんあり得なくなって来たぜ血水!
今度は炭鉱だ!親愛なる佳人姉妹様をお守りするニダ!
イカスぜ血水!やったぜ血水!だけどこのHP見てない血水!


俺は草原に降り立った。

「おっとっと…」

着地のショックで尻餅を付きそうになった。

周りを見渡すと、確かに炭鉱前だ。
とりあえず最初の関門はクリアのようで、俺は胸を撫で下ろした。
間違えて高Lvフィールドにでも飛ばされたら目も当てられないからな。

近くに立てられた看板が目に入る。

「炭鉱 スグソコ 50M」

俺は看板の指示で炭鉱の方へと歩きながら、道中さっきのアコライトを探したが、
彼女の姿はすでに無かった。どうやらよほど急いでいるらしい。

炭鉱は階層によって大きく難易度が変わるダンジョンだ。
と、いってもダンジョンと名の付く所、ほとんどそうなんだが。
一階は比較的ラクで、こっちから攻撃しなければ襲ってくる敵もほぼいない。

だが、二階三階となると話は変わる。

特に厄介なのが地下二階で、複雑な迷路状になっており、
大きく回り道をしないと地下三階へは行けないようになっている。
勿論俺は道順暗記済みだが。
そして三階になるとミストやイービルドルイド等の強敵が登場する…。

入り口に着くと、中は真っ暗だ。
とてもじゃないが一人で入って行きたがるような場所じゃない。
帰ろうとも思ってみたが、
やはりさっきのアコライトの顔を思い浮かべると少々後味が悪い。
俺は剣を抜き、用心しながらそこへ足を踏み入れた…。

入ってから10歩も歩かないうちに、ある事に気付いた。

…臭い。

いや俺の体が臭いわけじゃない。
どうも今までと違って「匂い」の感覚があるせいか、
炭鉱も様々な匂いを俺の鼻へ運んでくるのだ。

鉱山から流出する微弱なガス。
コウモリの糞の臭い。
湿気を帯びた埃臭い香り。

俺は鼻をつまみ上げたい気持ちだったが、
いつ敵に襲われてもいいようにしっかりと両手で剣を握り締め、
一歩一歩足元を確認しながら歩いた。
何分、暗闇に目が慣れるまでは、
どうにも歩きにくい。
なんだか、同じ場所で足踏みしているような錯覚にさえ捉われる。

「キィキィ!」

「コウモリか…うりゃ」

「キー!」

途中何度かドラインリアーが襲って来るが、
この程度は俺の敵ではない。

それにしても妙だ。
なんだか、一階がいつもより広く感じる。
敵の数も妙に少ない。
コウモリの他には、蟻やモグラが時々ひょいと顔を出すだけだ。
今の俺はそんなの相手にしている暇もないが。

瓦礫の山を踏み越えながら進むと、
やがて地下への階段が見えてきた。

「おかしいな…こんな場所だったか?」

今までのプレイ経験じゃ確かもっと北の方だと思ったが。
なんだか嫌な予感がしたが、俺はとにかく先へ進むことにした。

「おっと…」

さっきのアコライトを追い越しているといけないので、
俺は地面に剣で文字を書いておくことにした。

「気をつけろ by先行者」

階段付近はたいまつがいくつかあるので、
足元に書いてあっても発見してくれるだろう。

なんか先行者と書くのに一瞬謎のためらいがあったが、
先に進んでいるとしたら先行者でニュアンスはいいだろう。

さて、これで心置きなく地下へ行ける。
そう思った矢先だった。

「あの…」

「ん?」

「こんなところで何をしてらっしゃるんですか?」

見ると、一人のウィザードだった。
頭に天使のわっかを模ったアクセサリーを付けている。

「…人探し、かな」

「なるほど…こんな時にダンジョンに入る人がいるなんて、
ちょっと驚きだったもんで…どうもすいませんね、んじゃ…サイト!」

「え…ちょっと待っ…!」

明かり代わりのサイトを唱えると、
そのウィザードはとっとと下へ降りて行った。
突然まばゆい光が目に飛び込んだので、
俺は一瞬の間目眩になってしまった。

目をごしごしとこすり、
再び開いた時、もう階下にはウィザードの姿も、
サイトの光もなかった。

「そっちこそ何しに来てるんだよ…」

一人ぽつんと呟くと、
そこらへんに転がってたカンテラに火を点け、
ウィザードの、そして何よりアコライトを追って、
ただ下へと向かった。

地下二階はスケルワーカーが登場する。
不死系モンスターで、武器は鶴嘴。
だが、やはり俺の敵ではない。
さっきのウィザードは言うまでも無いし、アコライトでも
数が多くなければさほど苦労せずに倒せるだろう。

…なんだかさっきから他人の心配ばかりしているような気がする。

気恥ずかしくなった俺は、
腰袋へ手を突っ込んだ。
そして、カサついた羽を一枚取り出す。
どうやら運営チームもこれは残しておいてくれたようだ。

ランダムワープアイテム“ハエの羽”

これを使うと、今いる地下二階のどこかへ任意にワープすることが出来る。

うまく地下三階への階段へ出れば良し。
そうでなくても枚数は持ってきているので、
連打でワープすれば、さっきのウィザードかアコライトに
再び対面出来るかもしれない。

特にアコライトのほうも、同効果を持つ魔法“テレポート”を連打している可能性が高い。

なんだか当初の目的から逸れているような気もするが、
俺はとりあえずそのハエの羽を口へ…入れる前にちょっと考えた。

よく考えたらこれはあのぶんぶん飛んでるハエの羽だ。
そして前と違って今のラグナロック世界は…“感覚”がある。
そう、もちろん味覚も…。

「………」

ものすごくためらったが、俺は目を瞑ってその羽を飲み込んだ。

「…うげ」

思ったとおり味覚があった。
どんな味だったかは説明する気も無いが。

俺の体は発行し、一瞬にして別の空間へと移動した。
ふわっとエレベーターが停止する時のような感覚。
そして次の瞬間、背中に強烈な鈍痛がやってきた。

ガッシャアン!

「痛てぇ!」

降り立った場所が悪かった。
ちょうど木材や壊れたトロッコが捨ててある瓦礫の山の上へワープしてしまったのだ。
着地に失敗した俺は、体中に激しい痛みを覚えながらも、
上半身だけ起こしてカンテラで辺りを照らした。

「ここは…どのあたりだ…おぶし!!」

頭を抑えながらあたりを見回していると、
突然頭の上へ更に重い衝撃が落ちてきた。
そのまま体勢を崩して、吹っ飛ばされるように瓦礫の山から転がり落ちる。

「なんだよもう…」

まさしく泣きっ面に蜂というのはこの事だろう。
もう三度目はないだろうなと思いながら、
無様に四肢を広げた我が身を擡げた。
体中土と埃で汚れてしまっている。

俺は捻挫か骨折でもしてないか、
起き上がる前に足をさすってみた。

「ん…!?」

足をさすってみるが、感覚が無い。
痺れているのだろうか?
しかしここまで感覚が無いのは尋常じゃない。

「麻痺…!?」

足が麻痺している…。
だが俺は冷静に考えてみた。
落下の衝撃で脊髄を故障したのなら麻痺も頷けるが、
そんなに強い衝撃じゃなかったはずだ。
だとすると、頭に受けたショックが何か…!?

「か、勘弁してくれよおい…!」

段々焦ってきて、俺は足を一生懸命さすった。
気のせいか全然足が細くなっている。
色も真っ白だ。

「どうしたんだ俺の足はぁぁぁ!!」

思わずがばっと起き上がって、そう叫んだ。

あれ?起き上がった?

俺は二本の足でしっかりと立っていた。
するとさっきの足は一体…。
おそるおそる下へ目を向けると、
例のアコライトが気絶していた。
そう、さすっていたのは彼女の御足。

「これは一種の落ちモノって奴ですね」

「言っとる場合かーーー!!」

どこからともなく現れたウィザードが俺に飛び蹴りをかました。

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