ありえないオンライン8


内容は一応シリアスなので最近ギャグに餓えてるニダ。
後、重力じゃなくてガンホーだろってツッコミ来そうだが、
めんどくさいのでガンホーと重力一緒にしたニダ。

「来ちゃダメーーーッ!!」

必死の形相で叫ぶ女性に俺達は狼狽した。

「お姉ちゃん!どうしたの!?
私だよ、助けに来たんだよ!」

やはり、あの女性が『スフィア』らしい。
俺もなしゆ同様に叫び返した。

「俺達は助けに来たんだ!怪しいモンじゃないぞ!」

一旦は足を止めていた俺だが、
再び堂々とスフィアに向かって歩き出した。

ぐったりとしているスフィアが、
腹から声を絞り出すように再び叫ぶ。
どうやら、かなり弱っているようだ。

「駄目…だって…ば…!」

「一体誰にやられたんだ…そんな酷い事、ぉぉぉぉおおお!!?」

ビィィィンッ!!

俺は尻餅を着いてしまった。
何故なら、突然鼻先を一本の矢が掠めたからだ。

飛んできた方向を見ると、
真横の土壁にぽっかりと穴が空いている。
どうやらそこから飛び出してきたようだ。
後5センチ前に踏み出していたら、
俺のキャラクターの顔がデッサン崩れる所だった。

反射的にスフィアを見て言う。

「わわ罠なら罠って、は、はは早く言えよ!」

「言う暇も無かったでしょ!
ちょっとは人の話聞いてから助けて下さい!」

…完全に言い返されてしまった。
あの姉にしてこの妹アリという所か。
だが、驚いたのはそれで終わりという訳では無かった。

「…チッ、仕損じた」

突然、スフィアの捕まっている柱の背後から、
ゆらりと影が揺れるように一人の男が現れたのだ。
それを見て後ろの紅炎が言う。

「…お前は!?」

「なしゆ一人かと思えば…、
余計なのが三人も来るとはな」

咄嗟の判断で紅炎がスフィアの元へ駆け寄ろうと走り出した。
が、すぐにその男によって制される。

「動くな!動けばこの女を殺す」

どこから取り出したのか、
一本の矛槍をスフィアの首元へちらつかせている…!
今にもその先は白い首に傷を付けそうだった。

「あなたは一体誰なんですか!PKはやめて下さい!」

よく考えたらこの世界でのPKは、
PvsPフィールドと言う場所じゃないと不可能のはずだが、
スフィアが現に男に捕まっていると言うことは…、
これも『リアルに近づいて来ている』という事なのか。

「何が目的なんだ?なしゆの姉貴を放せ!」

紅炎が居た堪れないように叫んだ。
その言葉を待っていたように、その男はニヤリと口端を持ち上げた。

「なしゆの持っている『鍵』を渡せ。
そうすれば大切な姉貴は無傷で返してやる」

「か、鍵…?」

何のことかわからない様子のなしゆを見て、
男に焔が問いかけた。

「時計塔地下の鍵のことか?」

「違う!運営チームが…世界が暴走してから、
手に入れた『鍵』があるはずだ!
わからないとは言わせないぞ!それを俺によこせ!」

突然堤が壊れたかのように檄を飛ばす男に、
そのまま続けて焔が言い放つ。

「お前の要求はよく分かった!
今から渡すから、代わりにスフィアさんをこっちに渡すんだ!」

俺はびっくりして、小声で焔に語りかけた。

「…おい!鍵って一体何の事なんだ?
俺も時計塔の鍵しか思い当たらないんだが…」

「ああ、俺もわからないよ。
ああいう電波は適当にウソついてやり過ごすのが一番だ。
まぁ、見てな」

そういうと焔は、懐から一本の人参を取り出した。
俺はもっとびっくりして語りかける。

「…おい!なんだそれは!
まさかそれが鍵だとか言うつもりか!?」

「大人しく見てろっての!こういうの慣れてるんだ。
…おい!お前、名前はなんて言うんだ?」

焔が男に問うた。

「言う必要は無い。さっさと『鍵』を渡せ!」

「それじゃ交渉は続けられないな」

焔がどんどん話を進めて行く。
なんかリアルにある『交渉人』という映画で、
犯人の要求に対して決してNOと言ってはいけないとか
そんな話があったような気がする。

「…チッ!生意気な奴め…。
俺の名前はbriskだ」

「何!?brisk!?」

突然様子を見ていた紅炎が叫んだ。
焔もなしゆも一旦そちらに眼を向ける。
その間もスフィアは、憎らしそうにそのbriskと名乗った男を睨みつけていた。

「どうしたんだ紅炎?」

「brisk…もしやNO.008.briskか!?」

「チッ、やっぱり知っている奴がいたか…ああ、そうさ。
俺は“DJ”brisk。………この鯖のGMの一人」

「GM!?」

俺、なしゆ、焔、
そして縛られていたスフィアまでもが驚きの表情を隠せなかった。

GM…正式名称ゲームマスター。
サーバーのチーター取締りやバグ確認、
その他各イベント時等に登場するゲーム管理者だ。
つまりは…重力社の人間。

「GMが…一体何をしているんだ?」

「何もしていない…大体俺は元GMさ。
今こいつを渡す、鍵をよこせ」

「バカ言え!俺はGMに言いたいことが山ほどあるんだ!
一体何でこんなことをしたんだ?世界の暴走とは何だ!
死んだ人はどうなったんだ!?このリアルさは一体…」

「…黙れ!女を殺すぞ!!」

突然男は乱暴に矛先をスフィアの首へと押し付けた。
その白い首に一筋の赤い線が出来る。

「…や、やめろ!」

「俺に対して一切質問するな。お前達を殺して鍵を奪う事も出来るが、
それはしたくないんだ、いいな」

「わかった…」

焔は右手にしっかと人参を持って歩き出した。
なしゆと紅炎は見ていることしか出来ない。
…もちろん俺もだ。
briskと名乗った男の方も、
スフィアの縄を解き、後ろ手に掴み上げながら、
こちらに向かって歩き出した。

そして、やがて対峙する謎のGMと焔。
焔はおくびも無く人参をbriskの前に突き付けた。

「これが鍵だ!」

これにはさすがに面食らったようで、
相手はハトが豆鉄砲食らったような顔をした。

「…人参じゃねえか」

「ハッ、カモフラージュなのさ。
見かけは人参だが、これは間違いなくあの鍵だ。
さあ、こいつをやるからスフィアさんを渡せ」

briskはやや考えるような表情をしたが、
やがて乱暴にスフィアをこちらに突き飛ばした。
それと同時に焔は人参を相手に向かって放る。
二人は望んだ物を手に入れた。
そして、焔はそのまま素早く
ぐったりしたスフィアを抱えてこちらに戻る。

なしゆはようやく待望のスフィアと再会が果たせた。

「お姉ちゃん!」

「なしゆ…こんな所まで来てくれたんだね。
ありがとう…」

だが一日炭坑に居てモンスターと戦い、人質扱いもされ、
肉体的に、又精神的にかなり辛かったのだろう。
傍目にも物凄く弱っていることがわかる。
なしゆが肩を貸し、なんとか立たせている状態だ。
早いうちに首都へ戻って医者に見せないといけない。

…ん?医者?
なしゆのヒールで大丈夫なんじゃないか?
…いや、今はリアルに実に忠実な世界だ。
何があるかわからない。
ひょっとしたら今のラグナロックなら
“病気”の概念すらあり得る。
本来医者なんかどこにもいないが、
NPCを適当に当たれば大丈夫だろう。

「…本当にこれは『鍵』なんだろうな」

ハッと我に返った。
そういえばbriskの方には人参を渡した直後だったのだ。
当然のことだが、ありゃ単なる人参だろう。
そう、HPをちょっと回復するだけのアイテム。
にしても、もうちょっとまともなアイテムは無かったのか…。
焔は自信満々の様子で答えた。

「ああ、そうだ。じゃあ俺達は鍵取られて悔しいけど
何も出来ないから首都に帰ることにする。バイバイ」

焔が小声で囁く。

「GMを前にして悔しいけど、
今はスフィアさんが心配だ。
早い所なしゆのポタで帰ろう」

一同はそれを承諾した。
狭い廊下でポータルを使うことは出来ないので、
俺達は一度近代的な照明の取りつけられた
廊下を出て、炭坑の方へ戻ることにした。

後ろの方ではbriskが人参を持って
変な機械と向かい合っているが、
今となっては関係無い事だ。

怪我人を連れているので急ぐ事こそ出来ないが、
それでも一歩一歩確実に歩みながらスフィアが話し出す。

「きっと…ここはGMがサーバを管理する為の
隠し部屋なんですよ…」

「なるほど…しかしあいつは何がしたいんだ?
GM…元GMと言っていたが、ユーザーにこんな事していいのか?」

「さあ、それはわかりませんけど…、
なしゆの…妹の事は前から知っていたみたいです。
私は…おびき寄せる為に利用されたんです」

「私の事を…?『鍵』とか言ってたけど…それが関係あるんでしょうか」

「『鍵』…一体何のことだ?」

「私にもわかりません…、ただ、
あのGMが必要としている物であることは間違いないはずです」

そんな会話をしていると、
ようやく暗い空間へと抜け出た。
ついに廊下を抜け、炭坑内に戻って来たのだ。

「よし、後はなしゆのワープポータルで…」

そう言った瞬間だった。
突然背後に凄まじい闘気…、
いや、そんな物を感じれる程人間離れはしてないが、
何ていうか、存在感のようなものを感じたのだ。

ふと廊下の方へ目を向けると、
あのbriskと言う男が、槍を構えて凄まじいスピードで
こちらへ向かって駆けて来るではないか。
俺は咄嗟に叫んだ。

「気付かれた!!早くしろ!!」

「えっ!?」

「焔がウソ付いたってバレたんだ!
急げ!追い付かれるぞ!!」

「でも、今ポータルを使っても、
首都まで追って来るぞ!!」

「私が最後に入ればポータルは消えます!
そうすれば追いつけないはず!」

「で、でもなしゆだけ逃げ遅れたらどうなるか…」

俺達は一瞬の出来事でパニックに陥った。
その間もbriskは恐ろしい早さでこっちに向かってくる。

「お前らぁぁぁ!俺を騙したなッ!
俺は人を騙すのは好きだが騙されるのは大嫌いだ!
許せねぇ!こうなったら力づくで『鍵』を頂くッ!」

「まずい!先方とっても御怒りでらっしゃる!」

「駄目だ!ポータルじゃ全員入るのに間に合わない距離だ!
歩きで逃げるしかない!」

「ぬおぉぉ!走れ!走るんだ!!」

俺達はその場から脱兎の如く走り出した。
なしゆがスフィアを連れては早く走れないので、
二人で肩を貸しながら。

とは言っても、briskは猛烈な勢いで追走して来る。
このままでは追い付かれるのは時間の問題だ。
それに、逃げてる最中にイービルドルイドにでも
遭遇したら目も当てられない。

何かいい考えはないか…そう考え始めた矢先。
一個のトロッコが目に入った。
しかもそのレールの側には「外行き」と書かれた看板が…。

「あれは…いや待てよ。そんなインディージョーンズみたいな
アクション出来る訳…でも助かるにはあれしか…」

焔が叫んだ。

「何ブツブツ言ってるんだ血水さん!」

「だあああ!もういいヤケクソだ!あそこのトロッコで逃げるぞ!」

「え、ええ!?」

「あのトロッコに乗れば外に出られる!
幸いプログラムだから何人乗っても壊れる事もない!
つうかそれしかいい逃走方法が思い付かん!」

「わかった、それに賭けよう!どの道このままじゃ追い付かれる!」

俺達は転がり込むようにトロッコへ飛び込んだ…。

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