「カラオケ魔神の殺人」

母から手紙が届いた。
母らしい綺麗な文字で、こう綴られていた。

「チチ キトク スグカエレ ハハヨリ」

母は電報マニアだった。
私はすぐさま飼い馬のパリジェンヌを駆って、
母の元へと駆けつけた。
もちろんこの現代社会において、
道行く人から総勢で視線を浴びたことや、
警察の方々に厄介になったことは言うまでもない。

だが究極貧乏の私の交通手段は馬しか無かった。

実家に一週間かけて辿り着くと、
随分とやつれた我が母が、
目尻に涙を溜めながら出迎えた。

「お帰りなさい…」

出会い頭にそれだけ言うと、
次の瞬間まくしたてるように喋り始めた。

「父さんはね、会社が倒産してね、
あ、ギャグじゃないのよこれは。
ずっとお前を待ってたんだけれどもね、
つい三日前にとうとう息を引き取ったのよ。
なんでこんなに遅かったんだいお前は。
もう母さんどうしたらいいかわからなくてね。
参った参った、もう超MMよ。
そういえば一昨日新メニューを作ってね、
アサリのブラゴーニュ風ビビンバ鉄火丼っていうんだけど…」

私は一人で喋り続ける母を置いて、
数年ぶりの我が家へと入った。

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