あれ? 声が・・・。






声変わりなんてとっくに終わってた。

ちょっとハスキーな声だった。

地声で3オクターブ、裏声も混ぜて5オクターブ半の音域を持っていた。

長期休みになると連日のようにカラオケに行っていた。

友達との折り合いがつかない時は、一人で行って歌ってた。

BOXにいない時も頭の中は色んな歌が流れていた。





某日、いつものように友人数名とカラオケに行った。

何曲歌ったか忘れたけどちょっと喉が突っ張ったような感じがしたが

みんなとわいわいやってる中だったので特別気にはしなかった。

リスト本を見てGLAYのHOWEVERを入れる。

みんなしんみりと聞いてて、歌も終わりに近づいた時、

歌詞で言うと 「恋した日の胸騒ぎを」 のあたりでちょっと声がかすれた。

喉が痛かった。

でももう少しで終わりだからと思ってそのまま歌ってた。

そして最後の最後、 「ゆっくりと歩き出す」 の部分で天罰が下る。

咳が出る、声を出すと喉に痛みが走る、唾液を飲み込んだだけでも痛みが走る。

一番最後の部分は歌えなかった。

喉が痛いということをみんなに伝え、残り時間はみんなの歌を聴いていた。

カラオケが終了し、解散。

帰ってからも良くなる気配は無し、食べ物もうまく喉を通らない、

就寝して翌朝起床しても喉がおかしい、

食べ物が相変わらずうまく喉を通らない、声も出しにくい。

明らかにおかしいと思い、病院へ。

診察の結果、医者は言った。



「声帯ポリープのようなものがありますね、あと若干だけど喉に裂傷もあります。」



最初は納得したんだけど、ちょっと考えて思った。

(・・・・・・ようなもの? ポリープじゃないの?)

気になったので医者にその旨を聞いてみた。

医者は言った。



「声帯ガンの初期症状もポリープと似た症状が出るんですよ。

  少し様子を見て判断しますので、これから定期的に通ってください。」



まさかガンという単語が出てくるとは思ってなかったので驚いた。

通院期間はカラオケも行けず、声も心なしか出にくいし、

以前のような声なんてとても出るような状態じゃない。





数回の通院の結果、良性の声帯ポリープだろうと判断された。

通院期間が短かったので完全な結果とは言えないだろうが

とりあえずポリープに悪い方向への変化が見られないことから

医者はそう判断したようだった。

続けて医者は言った。



「放置しておいても悪くなることはないけど、声を良くしたいなら手術が必要だよ。」



そんな金を持ってるはずもなく、

自分で招いたこんなくだらない不祥事で親にせびるのも嫌だったし、

声が良くならなくてもそれなりには歌えるだろう、と思い手術は拒否。

放置の方向で通院を終えた。

本来は数週間〜数ヶ月に一度は通院が必要らしいのだが

俺はそれをも拒否したので、医者も匙を投げたのか



「じゃぁまたおかしいと思ったらきちんと来るようにね。」



と言い残して薬をくれただけで見逃してくれたのであった。

帰宅して声を出してみる。

もう痛みは無い、ただ思ったような声が出ない。

音域も裏声含めて3オクターブくらいに狭まった。

部屋で声をセーブして歌ってみる。

順調、好調、快調!

少しボリュームを上げる。

ん・・・問題なさそうだ。

歌ではないが、単純に声を張り上げてみる。

イケルかもしれない!

でも無理は禁物と思い、その日はおとなしく寝る。



翌日、実践投入。

単身BOXに向かう。

あまり声を張り上げないように、

音楽のボリュームを下げてマイクの音量を上げてゆるやかに歌う。

久々にBOXで歌えたことに素直に感動というか嬉しくて涙が出そうになった。

少しずつ音楽の音量を上げてマイクの音量を下げて声を張り上げて歌う。

地声も裏声も上の音域が少し出にくいし、声もなんか違う感じではあったが

歌えるようになったこと、音楽に声を重ねれることに喜びを覚えた。

何不自由無く歌いまくってた時には感じられなかった喜びだった。

辛うじて女性ボーカルも歌えたので、裏声も活用範囲内。

喜び勇んで帰宅した。





もう大丈夫、完全じゃないけど復活した!

復活後に友人と初めてカラオケに行った時は、ヘボくなったとかよく言われたもんだが

今の俺はこうなんだ! ってことが浸透するのに時間はかからなかった。

声は戻らずとも、楽しいカラオケ生活は戻ってきた、それだけで十分だった。





新しいカラオケ生活が始まってから数ヶ月、

声の変化と時の流れに伴って歌う曲も変わってきたけど

とにかく皆でBOXでわいわい歌えるのが楽しかった。

楽しい数ヶ月間だった・・・。










ある日、いつものメンバー+αでカラオケに行った。

+αのメンバーの中にとても気の合う女の子(以下A子)がいた。

カラオケもそこそこに話し込んでいた。

何か歌おうと思ってリスト本を見てた時、そのA子が覗き込んできて

リモコンを手にして曲を入れた。

入れた後に 「これ歌って!」 と一言添えた。

指差した先には 「紅」 の文字。

A子は俺の事情を知らない、知るはずも無い。

無理だ、と俺の事情を説明したのだが

どんな言葉を吐いても言葉だと軽く聞こえてしまう。

そこに友人も割り込んできて

「大丈夫だろ、歌える歌える!」 の一言。

聞きつけた他の人も歌えの一点張り。

盛り上がってるからコールまで起こる始末。

もう逃れられない。

「どうなっても知らねーぞ!」 とマイクで叫んで突入。

メロ部分は順調、快調、絶好調、ノリノリ!

ヤバイかと思われたAサビも普通に乗り切り

あぁ、いけそうだ、と思って歌って歌ってBサビに突入。

「紅に染まったこの俺を」 の部分、

これは今でもハッキリ覚えてる、忘れられない、 「染」 の部分を発声した時、



きた・・・・・・。



明らかに意図しない声が出た。

その思いっきり音の外れた声以降、発声不可。

声が出ない。

出そうとしても息を吐くように空気が出るだけのような状態。

よくわからないけど吐き気。

悟られたくなかったけど皆にもこの事態を悟られたみたいで紅は中断。

俺は出ない声で 「ごめん!」 と言ってトイレへ。

もちろん発声はされてないが、動きで伝わっただろう。

トイレに直行、吐いた。

特に具合が悪いわけでもなく、まだ未成年だったから酔っ払ってるわけでもなく、

それでありながら吐いた。

嘔吐物を見ると真っ赤。

だが特別驚くわけでもなく、 (やっちゃったか・・・) とだけ思った。

そもそも乗り気じゃなかったことをやったんだし、然るべき措置だと思ったのだろうか。

トイレから戻って、友人の一人に説明。

説明というよりは声が出ないので目と手話のような動きでわかってもらった。

さすが友人、と感謝した。

友人がすぐに皆に伝えてくれて俺はカラオケから撤退、時刻は夜中。

A子がかなり心配してて、付き添うと言ってたけど

別に今すぐに病院に行くわけじゃないし、付き添われるのが惨めに感じたから拒否。

BOXを出てから、夜が明けたら病院に行こうと思い帰路に着く。

帰り道で泣いた、泣きながら帰った。

どうなるんだろうという不安と、皆に余計なことさせちゃったという情けなさが交錯し

涙が止まらなかった。

病院に行かなくても、もうこのままでもいいとさえ思った。



だが、寝て起きたら少し気持ちが落ち着いていたので翌朝一番で病院に行った。

声もかすれ気味だけど出るようにはなっていた。

今回の担当医は前回もお世話になった先生だ。

診察結果、先生の顔が険しい。

開口一番



「手術しますか。」



俺は開口一番



「嫌です。」



先生は開口二番



「しないと普通に喋るのも難しいよ。」



先生が言ったことの詳細はこんなことだったはず。

通常は声帯上皮は丈夫なため裂けにくいから、上皮の下で血液が固まってしまう、

これが声帯ポリープの原因と言われてるんだけど、今回の場合、

前回の声帯ポリープが裂傷して出血してる上に新しい声帯ポリープが二つある。

このままだと声が変わるとかそういう問題じゃなく、普通の発声もまともにできなくなる。

手術が一番早く、確実に解決に至る道だ。


とのこと。

しかし、相変わらずそんなお金は無い。

親も同じ失敗を二度となると援助もしてくれないだろう。

(これは実際に親に相談したわけではないので俺の推測だったけど。)


少し考えて俺は先生に質問した。



「手術しないで何とかなりませんか?

  元には戻らなくてもいいです。

  普通に喋れるくらいになればいいですから!」



先生は、新しい声帯ポリープも前回のと同じような感じだから恐らくは良性。

新しい方は早めの投薬で抑えれるかもしれない、と言ってくれた。

ただし、前回の声帯ポリープは裂傷してるから

投薬では回復は見込めない、以前の声には戻らないとも言っていた。

もちろん精密検査とかはしてないから

今回のが”本当に”前回と同じ良性のポリープなのかはわからない、とも加えた。


ただ、気休めでもいいから

投薬で抑えれるかもしれない、という言葉にすがりたかった。

前の声じゃなくてもいい、普通に会話できる程度になりたい、そう思った。



長い話し合いの結果、投薬の方向で進めていくことになった。

先生は手術を強く勧めていたが、俺は拒否。

定期的な投薬と診断ということで合意してもらった。





数ヶ月にも及んだ投薬と診断。

その間、声を出すことを控えてるうちに、必要以上に喋らない人間になっていた。

そして先生からついに通院は終わりの報告を受けた。

裂傷してる前回の声帯ポリープは裂傷の跡は残っているが

出血は収まってるので大丈夫、今回の声帯ポリープは

完全には無くなってないけど縮小した状態で安定してるからもう大丈夫、とのこと。

裂傷したポリープは喉に負担がかかると

すぐに出血する恐れがあるから気をつけてね、とも加えられた。










そして現在、通常会話は問題ないレベルになってます。

でもあれ以降何回かはカラオケに行ってるがほとんど歌わず、

歌ってもちょっと無理と感じたらすぐにやめるような感じです。

喉に強い負担のかかる時、主に高い音域の時が声が出ないので

ほとんどの歌がまともに歌えません。

他の人が歌ってる曲をマイク無しでそっと歌ってみたりするのですが

やはり少し高音域に入っただけでも喉に厳しい感じは拭えません。

音域は変わらずの3オクターブくらいだと思うのですが

発声した時の喉の感じが以前とは全く異なってます。

歌に限らず、通常会話でも声を張り上げると喉がやばくなります。










この話はこれで終わりですが、

ここまで読んだ人の中にはこう思う人もいるでしょう。


「出ないならオクターブとかキーを下げればいいのに。」 と。


それは嫌なんです。

こんな喉になっても原曲と同じオクターブと言いますか声と言いますか

そう、声です、原曲と同じような声の質で歌いたいし、

そんなだから当然同じキーで歌いたいとも思うんです。

と言うよりは、それ以外では歌いたくないんです。

この余計なプライドのために、カラオケに行ってもまともに歌えないんです。

ここまで読んだ人から見たら単なるバカにしか見えないかもしれません。

ただ、

全盛期の自分も好きだった、そして今の自分も好きなあの声を今でも覚えてるから、

今の声があまりにもショックなので歌いたくないんです。

弱虫、いくじなしと言われても全然OKです。

それが今の俺ですから。

声を張らなくてもいいところでならそれなりに歌えますよ。

車内とか部屋とかならね・・・。










まとめ。

この物語を経て、喉に関連することで全盛期と現在で変わったところはと言うと

・声を張り上げれない

・思った通りの音階が出せない(音痴とも言う)

・発声のみならず、咳とかでも喉に強度の負担がかかると出血

・音域は裏声含めても約3オクターブ

ってなところでしょうか。










でも、本音を言うと大声で歌いたいんですよ。

だからこそ、カラオケに行くのが嫌になっちゃったのかもしれません。

ただ、歌わないかもしれないという条件がまかり通るなら

喜んで同行させていただきますよ。





上手くまとまってませんがこのお話はこれで終わりです。


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