◆「狂花前想 〜HIKARU Side〜」◆
(アキヒカ)
◆予告編◆
最終更新日:2003年9月12日 午前 1:07:39
本の詳細決定、表紙イラスト公開
【通販はこちらから】
「塔矢に嫌われたくない・・。嫌われるくらいだったら、この気持ちを閉じこめてしまおう・・・。」
【内容】
オフセット・A5・36ページ(表紙込み)・表紙1色・300円予定
(小説です)
書き上げましたが、予定より長くなっちゃって、
第1部のヒカル編でいっぱいいっぱいになってしまったので、
今回「HIKARU sid」という事で発行します。
次回、「AKIRA side」が出る予定です。
(イベントに出る予定ないけど、書け次第出すつもりです。遅くとも11月くらいまでには・・)
我がサークルの18禁シリーズ、「狂花遊戯」の前のお話。
今回18禁ではありません。
アキラとヒカルは17歳。お互いライバルと認め合い、普段碁会所でうちあう普通の友達。
しかし、マンションで二人で住むようになって、友達以上の感情を持ち、とまどうヒカル。
ヒカル視点の片思い切ない系ストーリー。
狂花遊戯では主にアキラの視点が中心な事が多いですが、これはヒカル視点中心。
ヒカルの心の変化がわかって、また狂花遊戯がより楽しめるかも・・。
【試し読み(一部抜粋)】 ヒカルがマンションにつくと、もうすでにいい香りが玄関先まで流れてきていた。
「ただいまー。」
「おかえり、進藤。少し遅かったね。もうすぐ夕飯できるから。」
アキラは笑顔でキッチンカウンターの向こうから顔を覗かせる。
『塔矢、いっつもこんな感じでオレには笑うよな。もしご飯作るのいやだったら、もっとむすっとすると思うんだけど・・・。あんな風に優しく笑うから、オレ、塔矢が嫌がってるなんて想像もしなかった。』
ヒカルは背中からリュックを降ろして、アキラをちらりと見る。真っ黒なエプロンをしているアキラはまるでおしゃれなカフェのウエイターみたいだ。ヒカルは素直に、 『かっこいいかも。』 と思わず見とれる。多少時代錯誤のおよそ十代らしからぬ服ばかり持っているアキラだったが、ヒカルはあまり気になったことがない。アキラの顔ばかり見ているからだろうか。
『なんていうか・・ほんと塔矢ってたまに佐為みてぇに綺麗っていうか・・髪がさらっとして目が澄んでて・・でもみんなそんなことに気付かねぇのな。塔矢のことみんな「きつい」とか「とっつきにくい」とか思ってて。和谷だって本当の塔矢を知ったら絶対好きになるのに。なんか塔矢が悪く言われるとオレも気分悪い。』
そう思いながらダイニングのテーブルで肘をついて、カウンター越しにアキラを見る。アキラはヒカルが見ていることなど気付かない。
『・・・でも塔矢の良さが本当にみんなにわかったら・・それはそれであいつ、結構人気者になっちゃって・・みんなから話しかけられたりするのかな。・・なんかそれもいやだ。』
ヒカルは皆がちやほやとアキラの周りに群がる様を想像してむっとした。なぜ腹が立つのかわからないが、気分が悪いのは確かだ。今のまま、他の人はアキラに一目置いて、遠巻きに尊敬や嫉妬のまなざしで見ていることしかできない方がいいような気がした。
『「いやだ」なんて・・オレそんなこと思うの変かな。・・でも塔矢の笑顔とかは、オレに向けるいつもの笑顔は・・誰にも向けてほしくない。だって、オレ達、こうして同居始めたんだ。友達の中だって特別だ。佐為もオレにしか見えなかったけど同居しててとっても特別だった。それと同じ事だ。一緒に住んでるんだもん。・・まだ住み始めたばかりだけど・・。でもなるべく長く塔矢と住んでいたいって思うのはオレだけかな。塔矢は幽霊じゃないから、急に消えていなくなったりもしないだろうし。塔矢はどう思ってるのかな。塔矢が食事作るのも分担したいっていうなら、オレ頑張るのに。』
「進藤?」
突然耳元で声がして、ヒカルはハッと我に返った。
「び、びっくりした!」
「びっくりしたも何も。ずっと話しかけているのに気がつかないのはキミだろう。何?考え事?」
アキラがテーブルをふきんで拭きながら尋ねてくる。ヒカルは考えていた内容が急に恥ずかしくなって、かぁっと顔を赤らめた。
「な、なんでもない!」
アキラは、ヒカルが大きな声でごまかそうとするので、驚いて目を見開いた。
「何か隠し事があるのか?進藤。」
「か、隠し事なんかないよ。それより、お前の方が隠し事あるんじゃねーの?」
「ボクが?」
ヒカルは売り言葉に買い言葉で言ってしまい、それを心外だとでもいうように厳しい目をするアキラに余計に止まらなくなる。
「お前、本当はオレと同居してさ、不満なんじゃねーの?掃除とか食事とか洗濯とか、オレ何にもできないし、お前ばっかりやってさ・・。」
「何を言ってるんだ。そんなの最初からそうするって言ったじゃないか。」
「でも、お前いやなんじゃないの?最初にそう言っちゃったから、本当は分担したいのに言えないんでいるんじゃないのか?せっかく同居してるのになんでも話してくれないなんて、オレ・・。」
ヒカルは涙が出てきた。アキラはヒカルが突然涙をこぼしたので驚いた。
「ど、どうしたんだ。進藤。」
ヒカルも自分で自分の涙にハッとなる。なぜか感情のストッパーがはずれたみたいに止めどもなく涙があふれてきた。
でもこの気持ちには覚えがある。佐為がいなくなった後、ヒカルは自分で自分を責め続けた。自分が佐為の不満に気付いてやらなかったから・・佐為の希望を叶えてあげなかったから・・自分のことで一生懸命で佐為の気持ちに気づけなかった自分・・なんて愚かだったのかと・・。その自責から立ち直るのに随分かかった。立ち直ってからは普段は忘れているけれど、時々夢やなんかで見ると思いだして涙が出る。
その佐為への悔いにドロドロとはまって、まるで底なし沼のようになり這い上がれないでいるヒカルに、その強力な力で光差す地上へ引き上げてくれたのは、他でもない、「塔矢アキラ」だった。
つづく表紙のイラスト(イラスト:ちゃがま)