恋のシャレード5
「恋のABC節分事件」

3月9日発売の「恋のシャレード5巻」の告知ページです。

A5・36ページ(2段組)・300円
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■試し読み(途中抜粋)■

13巻はじめの方の時期のお話。
ヒカル中2の2月頃。
節分の頃、アキラはヒカルともっと親密になろうと画策して・・。

(途中抜粋)
 約束の日、父の経営する碁会所「囲碁サロン」のドアを開くと、市河さんが、
「アキラ君、いらっしゃい。芦原さんが奥でお待ちかねよ。」
とウインクした。アキラは、
「あれ?いつも時間より前には来ないのにめずらしいな。」
と、碁会所の奥へと進んだ。父が経営する碁会所は高級感のある作りになっている。奥の方は一段高くなっており、観葉植物で仕切ってあって、誰にも邪魔されずに打てる場所となっている。そこなら芦原さんとゆっくり話もできるだろうと事前に場所をとってあった。
 数段の階段を上がると、芦原の少し癖毛がかった頭がちらりと見える。しかし、その横に少し明るめの茶髪が見えてアキラの足が止まる。いやな予感がしてアキラは静かに後ろ足に後ずさりしたが、その茶髪の主が気がついて、
「よう、アキラ君。」
と、すかさず挨拶をしてくる。アキラはあからさまに顔を曇らせて、
「緒方さん・・。」
といけすかない相手を見た。緒方はアキラのおしめも代えたことがあるせいか、アキラに対して妙に見下した態度をとる時がある上に、アキラにちょっかいを出して楽しむ節がある。十四歳という微妙な年頃のアキラにとってそれが何よりも迷惑だった。以前もアキラが葉瀬中に押し掛けた際もなぜか現れて、ヒカルにわざとちょっかいを出してアキラをいらつかせた。
 そんな奴にヒカルのことを相談しようものなら確実に邪魔してくるに違いない。ここは逃げるが勝ちだ。アキラはとっさに営業スマイルを作り、
「あ、ボ、ボク急に用事を思いだしたので・・。芦原さん、ごめん。また今度!」
と逃げようとした。しかし、後ろから緒方にがしっと羽交い締めにされる。
「!」
「まぁまぁそう言わずに。アキラ君、キミの兄代わりとしてオレたち二人で相談に乗ってやるよ。」
 そう言いながら緒方はずるずると奥にアキラを引っぱっていった。
「どうして、緒方さんがいるんです?」
 むすっとしてアキラは向かいに座った芦原と緒方を睨んだ。
「だって、緒方さんがどうしても相談にのりたいって言うからさぁ。」
「ふふふ。アキラ君。キミの相談内容はきっとオレの得意分野だと思ったのさ。最近どこでも思い悩んでいるようだからね。」
「・・・魚を飼いたい訳じゃありませんよ。それに女性のことでもありません。残念ながら緒方さんの得意分野ではありませんのでどうぞお引き取り下さい。」
 アキラは強気でそう言った。どうせ緒方はカマをかけているだけだ。ただの好奇心で人の相談になどのって欲しくないものである。
「さぁ、さっさとお帰り下さい。緒方さん。」
「ふふふ。そんなこと言っていいのかな?アキラ君。オレは何でも知っているんだぜ?」
 緒方は自己陶酔気味に顎をしゃくりながら、アキラをニヤニヤと見る。
「塔矢アキラを悩ませていること・・それはずばり『恋』だ!恋がうまくいかなくて悩んでいるんだろう!ふふふ。オレにはわかるぜ。勉強やなんかは大概自分の努力でなんとかなるが、『人の気持ち』だけはどうにもならない。・・アキラ君は人の気持ちが知りたいんだろう?特に恋する相手『進藤ヒカル君』の気持ちが・・。」
「ど、どうしてそれを・・。」
 アキラは思わずつぶやいてしまい、ハッとなる。緒方はますます調子にのって、大げさに足を組み替え前のめりになる。
「ええー、本当に恋なの?アキラがぁ?」
 芦原が興味津々という感じで急に乗りだしてくる。
「緒方さんの言ってる事ってイマイチデマが多いから、オレ信用してなかったんだよね。でも今回は当たってるんだぁ。」
 そう言いながら芦原は「すごいすごい」と緒方にささやかな拍手を送った。
「芦原ぁ・・お前・・オレをバカにしているのか?」
 緒方は芦原の反応に苦笑した。
「えー、褒めてるんじゃないですかー。で?なになに。アキラ、『シンドウヒカル』ちゃんってどんな子?かわいい?」
 芦原の問いに、アキラはポッとなる。
「かわいいですよ。この世のものとは思えないほどかわいらしいです。」
「へぇー。同級生?」
「学校は違いますが、同い年です。」
「学校は違うんだ。ふーん。どうやって知り合ったの?」
「この碁会所で・・小6の時に初めて打って・・。」
「へぇ、囲碁やるんだ。・・・そういえば、同じ名前の子が今度プロになるよね。その子は男の子だけど。この前、塔矢先生と新初段やったじゃん?あの子、同じ名前だねぇ。」
「本人ですよ。」
「へ?」
 芦原は不思議そうな顔をして、アキラと緒方の両方を見比べる。どっちも目が笑ってない。
「本人です。この前お父さんと打ったのが、ボクの愛しの進藤です。」
「マジ?」
「芦原、お前はちょっと黙ってろ。何にもしらん奴だな。何で塔矢先生が新初段を指名したと思う?アキラ君の特別な存在だからに決まっていようが。」
「そっか。で、ところでもう告白はしたの?」
「黙ってろと言っただろうが。もう告白はすんでいるさ。なぁ?アキラ君。」
「ええ・・・。今はもう結婚してしまいたいと考えています。」
「結婚!?随分話が飛ぶねぇ。」
「しかし、アキラ君。進藤君はなんて言ってるんだい?オレが見たところによると・・進藤君は結婚まで考えているとは思えないんだが・・。」
 緒方がそう聞くと、アキラはカッと目を見開いて、ガタッと立ちあがった。
「ふざけるな!何を根拠にそんなことを・・!」
「いや、アキラ君こそ何を根拠にそんなに自信満々なんだ?」
「進藤はボクに「嫌いじゃない」と言ってくれました。」
「嫌いじゃない・・か。」
「嫌いじゃないっていうのは微妙だねぇ。」
 芦原がのんきに笑ってそう言った。アキラは大人二人が自分たちの愛を疑っていると思い、さらに力説する。
「それに進藤はボクを追ってプロになったんですよ。いつもボクのことを思って対局し・・ボクとなるべく一緒にいたいがためにあんなに健気に頑張って碁を始めて2年でプロですよ!これが愛の力でなくてなんだと言うんですか!」
「愛ねぇ・・。」
「それにボク自身にとって進藤は特別です。進藤のことを考えるとこんなに胸が張り裂けそうになる・・。こんな毎日じゃ健康に悪い。ボク達は離れていちゃいけないんです。すぐにでも結婚すべきなんだ。」 「でもアキラぁ、結婚は十八歳にならないとできないんじゃない?」
 芦原がそう言うと、緒方ががしっと芦原の口を大きな手で塞ぐ。
「芦原、ちょっと耳を貸せ。」
 緒方は、こそこそと芦原に耳打ちする。芦原は緒方の話を聞いて、パッと顔が明るくなる。
「オレ達大人が、アキラ君を正しい道に導いてやらないとな!」
「オッケー!オレ達、初めて気が合いましたね。」
 そう言って二人はウインクしながら親指を立てて合図を送った。アキラはいぶかしげに二人を見ながら、席に着く。
「アキラ君、『恋のABC』というものを知っているかい?」
「恋のABC?アルファベットですか?英語の授業では習いませんでしたが・・。」
「英語じゃ習わないだろうな。恋にはABCの手順があるんだ。それも知らずにアキラ君は結婚するつもりなのかい?いやはや、先が思いやられるな。」
「そんなんじゃ、進藤君に嫌われちゃうよ〜。アキラ。」
「えっ!そんな重要なことなのですか?」
 アキラは興味津々だ。ヒカルに嫌われるとあれば、これは是非とも聞いておきたい。
「恋愛は囲碁と同じだよ。アキラ君。何事も順番があるんだ。その手順を踏まないでいきなり結婚しようなんて言ったら、進藤君だって困惑するだけだ。恋のABC・・知りたいかい?」
 緒方はメガネをあやしく光らせながら、そう言った。


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