あらすじナビ:ガラスのヒツジ
私はヒツジです。
他になにと言われても困ります。
私はただのヒツジです。
体はすりガラスでできており、水色の光沢で
月夜の光をよく含みます。
私はそんな、ただのヒツジなのです。
私は、ただ、毎日、夜に角笛を吹き鳴らし、
行き場のなくなった悲しい手紙達を
楽にする手助けをしているのです。
そんなある日、クレヨン王国のシルバー王女様の一行が
郵便村へやってきました。
郵便村では、おにぎり国とハンバーガー国の軍隊の競りあいに
巻き込まれた集配車が水びたしになったり、壊されたりして
宛先や差出人住所さえも消えてしまい
配達できない郵便が毎日山のようにでていました・・。
思いをしたためた手紙たち。
でも宛名が消えてしまえば、その思いも届けることはできません。
そんな郵便物を見るのは郵便屋にとって、大変辛いことでしょう。
しかし、当の手紙達の方が何万倍も辛いのです。
届けられない思い。
それは手紙の中で重く、そして使命をも全うできない悲しみに
うちひしがれ、苦しみながら
それでもどうにも成らないいらだち。
手紙は何も言わないけれど
自分の中で、そうして辛さに耐えているのです。
彼らは戦争の被害者なのです。
暗く悲しい、手紙のそんな一生を見て見ないふりはできません。
シルバー王女達は郵便ポスト回収のヤギのおじいさんから
山の中のポストの前で数日前に
訳ありげな二人のカップルがものすごく決心をした顔をして
手紙をポストにいれ、
神妙に「私達の手紙きっと届けて下さいね。」
と言っていたのを良く覚えていました。
その後二人は「迷いの森」へいったと聞き
シルバー王女・クラウド・アラエッサ・ストンストン・
トモロコフスキー・ゴマータ・レンコポッチ・ディックは、
迷いの森へ向かいました。
おそらくそのわけありげな二人というのは
探しているグッド王子とサラド姫だからです。
暗い森の中はシルバー王女達にとっては
怖ろしい場所でした。
私の角笛を聞いたときも、きっと怖ろしかったでしょう。
それに森の中は水色の霞のようなけむり人間達が飛んでいましたから。
けむり人間は、ふわふわと迷いの森に入ります。
そして私の元へ集まり
角笛の音色で、手紙という使命から解放してやり
雲にしてやるのです。
もう彼らは十分苦しみました。
迷い苦しむのにも限度があっていい・・。
手紙を手紙でなくしてやり、
楽にしてやるのです。
そしてただの紙となった手紙はプライバシー保護のために
私が食べてやっています。
しかしシルバー王女達は
私のこの話を聞いて
「苦しくても私は私のままでいたい。」と言います。
私は目の覚める思いでした。
私は私のやっていることが間違っているとは思いません。
しかし、苦しみながら自分のままであり続ける強さは
私にとっては新鮮でした。
それは当たり前でありながら一番できないことだと思うからです。
私がヒツジでなくなったとき
私は幸せか不幸せかと聞かれたら
どちらでもないと答えるでしょう。
それはきっと私は私であり続けるための
強さをとうに忘れてしまったからか、
私の中に悲しみや苦しみを手紙のようにためているからかもしれません。
しかし、シルバー王女達は
苦しみや悲しみを、元気や勇気にする術を知っている。
手紙にもそういう気持ちの手紙がいるようでした。
彼らは解放されることを望みながら
しかし使命を手放すことができなく、
木の枝に必死につかまっていたのです。
シルバー王女達がその手紙を見ますと
宛名も差出人も消えていましたが
封のワックスシールがおにぎり国王家とハンバーガー国王家のものでした。
きっとお探しのグッド王子とサラド姫の書いたものに違いありません。
私はその手紙の封を切ってやりました。
他人の手紙の封を切ることはタブーですが、
彼らのような手紙はありのままである方がいいと思ったからです。
中にはやはりグッド王子がおにぎり王にあてた内容と、
サラド姫がハンバーガー王にあてたものでした。
二人とも「両国が仲良くならないと帰らない」と
書いてあります。
シルバー王女達はその手紙を両国の王様に見せるべく
ディックに乗って国境へ急ぎました。
戦争を始めさせるのを伸ばすことができるかもしれません。
私も、早く平和が訪れることを願っています。
平和になって、郵便が滞りなく配達されれば、
手紙達の悲しみもなくなりますから・・。