みしろ と みはく



真っ白に透けたお化けが一人居ました。
名前を、みしろ、と言いました。
白い身体を月に透かせて微笑む、みしろ。

気付くと、みしろは、この森で漂っていました。
誰も居ない、居ない、森で。
言葉を持たないみしろは、ただ静寂と共に。
みしろは、月や、華を見て、過ごしていました。

風がとても激しくて、世界ごと揺らしてしまうような夜。
みしろは、湖に浮かんで、いくつもの夢を見ていました。
ゆらゆら、白い身体をすりぬける風に身を任せたまま。
深い深い夢に堕ちていきます。

沢山の夢の内の一つで。
「・・・・みしろ」
夢の中で、みしろは、初めて名前を呼ばれました。
とても蒼い声のその人は、他には何も喋りません。
ただ、みしろの、名前を呼んでくれます。
みしろは、この夢が、とても、好きになりました。

風がとても強い夜にだけ見れる夢。

蒼い蒼い人に焦がれて、みしろは、朝も昼も夜も、ずっと夢に浸りました。

次に強い風が吹くのはいつ?

まるでその風さえもが蒼く感じるようになった、みしろは、ただ、焦がれて。

次に強い風が吹くのはいつ?

あれだけ毎日見上げていた月や空に見向きも出来なくなりました。

次に強い風が吹くのはいつ?

どんなに綺麗な華を見付けても、みしろはもうその透けた手を差し伸べません。

次に強い風が吹くのはいつ?

ただ、焦がれて。

次に強い風が吹くのはいつ?

そんなみしろを静かな森はただ見守っています。

次に強い風が吹くのは・・・

みしろは、翳した手のひらに、透けない点がある事にやっと気付きました。

次に強い風が吹く・・・

白く透けた身体のあちこちに、紅い斑点。

次に強い風・・・

みるみるそれは繋がって、みしろを紅く染め上げて行きます。

次に強い・・・・

みしろの中で、何かが、膨らんで。それは、蒼い人へ焦がれた、みしろ。

次につよ・・・・

どくん。

紅く染まったみしろの身体から、何かが、零れようとしました。

次に・・・・・

守るように、もがくように、蹲ったみしろのココロから。

次・・・・・・

抜け落ちて生まれる、紅い、みはく。
みはくは、みしろとそっくりな、紅いお化けでした。

・・・・・・・

蒼い人の記憶ごと意識を失ったみしろを見下ろして、それから、みはくは。

次に強い風が吹くのはいつ?

ザアッ・・・

突然吹き荒れた強い風に乗って、湖の底まで潜り、蒼い人の腕の中まで。
二度と目覚める事のない夢の中で、紅いみはくは、優しく微笑んでいました。

・・・・・・

真っ白に透けたお化けが一人居ました。
名前を、みしろ、と言いました。
白い身体を月に透かせて微笑む、みしろ。

気付くと、みしろは、この森で漂っていました。
誰も居ない、居ない、森で。
言葉を持たないみしろは、ただ静寂と共に。
みしろは、月や、華を見て、過ごしていました。



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