ギリギリのところで避け損なった刃が、私の頬をかすめた。
彼女愛用のスティレットに、紅い雫がしたたる。彼女は軽く腕を払って、その雫を地に落とした。
「本気なの?」
チェインを構えながら、訊いてみる。
答えは、すでに彼女の目の中にあったけれど。
「もちろん」
「……」
「一度、あんたとは本気で戦ってみたかった」
「どうして?」
私の問いかけに、彼女はにっこりと笑顔を向けた。
それは、二年前、別れたときに見せたのと同じ笑顔。前へ前へ進む、強い意志の現れ。
「この二年の成果を、あたしは試したい。そして誰より、それを真冬、あんたに試してほしい」
「……葉月……」
「だから、行くよ」
葉月が腰を落とし、スティレットを構え直す。
少しも隙が見えない。あの頃とはまるで力量が違っているのがわかる。
そして、あの頃とまるで同じ、瞳の光。
「……わかった」
微笑んで、私は詠唱に入る。ブレッシングに、速度増加。今の彼女の前では、手加減なんて一切できないから。
「本気でぶん殴るわよ」
そう宣言すると、葉月は、私の相棒は、本当に嬉しそうに笑った。