迷い猫

ぽむさん・作

私は今日もここに来ていた。
最近ここに住み着いた子猫がとてもかわいいから。
自分が猫みたいと言われるせいか、猫には妙に好かれる。
私としても動物は大好きだし、猫も例外ではない。
特に行く当ての無さそうな子は放っておけない。

で、今日も食べ物を持ってきたわけだけど、どうやら先客がいたらしい。
件の子猫はまさに食事中だった。
その隣ではショートカットの小さな少女が猫の背を撫ぜている。

「あら、あなたもその子に食べさせてあげてるの?」
「え!?」
「あ、ごめん。驚かせちゃったかな?
あなたも猫、好きなのね。
よくこの子のところに来るの?」
「いえ、今日はたまたまこの子を見かけたから…」
「そう、猫ってかわいいわよね。
私は犬も好きだけど」

「……私、犬は嫌いです」
それまで朗らかだった彼女の表情が急に険しくなり、
怒ったような声で言った。

「なんでそんなに怒るのよ。
こんなに猫が好きなのに、どうして犬は嫌いなの?
そんなに変わらないと思うけど?」
「理由なんかありません。
とにかく嫌いなんです」
「深く訊くつもりはないけどさ、あまり無理しないほうがいいわよ」
「無理なんかしてません」
「そうかしら。あなた、嫌いだって思い込もうとしてるみたいよ。
思い込みって怖いんだから。
嫌いだ嫌いだ、って言ってると本当に嫌いになっちゃうわよ」
「私はもう嫌いになったんです」
「ていうことは、もともとは好きだったんでしょう?
だったら意地を張らずに素直になれば、また好きになれるわよ。
忘れた気持ちなら思い出せばいい。
なくした気持ちなら取り戻せばいい。
そういうことよ」

「私は嫌いなままでいいんです」
「そんなこと言ってるといつか後悔するわよ。
いろいろ難しく考えたってね、やっぱり素直になるのが一番なんだから」
「……そういうもの、ですか?」
「そういうものよ。
私の知ってるヤツにもそういうのが居てね。
普段はテキトーに生きてるくせに肝心なことからは逃げようとするんだから。
あなたも意地を張ってばかりいると、周囲の人まで悲しませることになるわよ」
「……優しいんですね」
「放っておけないだけよ。
あなたのような迷子の子猫みたいな子はね。
迷ったときはまず自分を見つめて認めるところから始めなさい。
人生の先輩からの忠告よ。
じゃ、私はそろそろ行くわ」
「あ、こんな時間!
私ももう行かなきゃ。
あの、ありがとうございました」
「私はただおせっかいをしただけ。
どうするかはあなた次第よ。
じゃあね」




思い込みって本当に怖いんだから…。
信はあの事故を自分のせいだと信じ込んで、自分を責め続けて、
結局今も迷路から抜けられずにさまよい続けてる。
いつも近くで見ている私に気付かずに。

でも
いつか
救ってやれる日が来るといいな。




the end

2001.10.21

一応後書き:

八神さん、10000ヒットおめでとうございます。\(^o^)/
開設当初からまるで居候のようにお世話になっております。

今回は真冬と希の話でしたがどうでしたでしょうか?
自分なりに真冬を書いてみましたが、
八神さんの真冬と矛盾する点があるかも知れません。
それはごめんなさい、ということで。(ぉ

希についてはボクの一押しですが八神さんは書きにくいということだったので、勝手に書かせて頂きました。
しかし会話ばっかですね…。(汗)
そんなに地の文が嫌いか?>自分

それでは「八神家書斎」のさらなる発展を祈ってます♪

トップページへ戻る