epilogue...

Elqfainllowtyさん・作

 澄空駅。
 現在、午前10時半。
「はぁ・・・」
 改札口側を向いて電車が来るのをじっと待つ少女は、ため息をついてもう一
度、時計を見直した。

「はぁ・・・」
 篭った息は白く、冬の空へと消えていった。
 灰色に少しだけ涼色を混ぜた様な不安定な空模様。
 それでも 少女の心内は、軽く弾んでいた。

(なんで?・・・って言われても・・・)
 それは待ち人が必ず来る、という確証の無い確信。
 無償の信頼を寄せているから、そして・・・
 その信頼に、応えてくれる人だから・・・

「あ、智也〜!」
 改札口を潜った三上 智也は声の主、音羽かおるの方へ駆け寄ってくる。

「悪い悪い!遅れちまって・・・」
「ううん、平気だよ、だって・・・」
 そういってかおるは、街並みに歩き出した。

「もう慣れちゃってるから」
「喜んでいいのか? それ」
 かおるのペースに見事につられながらも、智也はそれを笑顔で返す。

『なんだか急に会いたくなっちゃって・・・』
 かおるからの誘いの電話は、そんな内容だった。
 ストレートな意見に戸惑いながらも智也は今日、ここで会う事を約束した。

 二人は商店街へと足を向ける。
 町並みは冬化粧の真っ盛りだった。
 街路樹は装飾が施され、商店街は、クリスマス、大晦日、元旦と大忙し。
 正に『師走』の風景。
 道行くカップルは智也たちだけじゃなく、恋人達の語らいはどれも色彩豊か
な花を咲かせていた。

 かおるは街頭のショーケースをじっと見つめながら、時折智也に話し掛ける


「ねぇ、これ・・・どうかな?」
「ああ、いいんじゃないか?」
「あ〜、もうっそんな簡単に返して・・・・私、真剣に聞いてるんだよ?」
「分かった、分かった・・・・どれどれ?」
 智也はショーケースを覗き込んだ。
 ケースの中には今冬のファッションが陳列されている。
 その中で、智也はかおるに合った服を探した。

 そして、ふと思う。
(俺・・・本当に、変わったな・・・)


『ねぇねぇ、智也、この服、どうかな?』
『ああ、いいんじゃないか?』
『あ・・・・もうっ、簡単に流して・・・・真剣に聞いてるのに』
『ああ、悪い悪い・・・そうだな・・・彩花に似合うのは・・・・』

(同じような事を、昔も一度、やってたっけ・・・)


 彩花は今でも瞼を塞げばそこに現れる。
 どんな時でも、何処にいても、それは俺の中に必ず居た。
 でも、それを大切にしながら 新しい生活に生きていく事が出来たなら、俺は
・・・・


「今日も遅刻したからには当然!・・・奢って貰うからね?」
 突然かおるは、智也の腕に絡んで来る。
 無邪気な笑顔を向けて
 そして、無垢な心で

「仕方ないな・・・じゃあ、コンビニだな」
 智也も負けじとそう突っ返した。

「あ〜、酷いなぁ〜」
 かおるは口を尖らせた。
 けれども、それは幸せに満ちていて・・・・


 それはまだ始まったばかり
 二つの宝石へ寄せた、淡く、甘い 恋の語らい
 願わくば二人、何時までも

 この幸せが、二度と引き裂かれる事が無いように・・・・




the end

2001.11.10

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