Disparity

Elqfainllowtyさん・作

日の沈む別れ際。
 繋いだ手をそっと離した彼は、私に微笑みかけていつも一言。

「それじゃ、また明日」

 わたしもそれに負けないように微笑んで、同じ言葉で彼と別れる。
 一応、これでも気が強い方で通ってるんだから、下手に弱気な顔しちゃダメ
だってことは分かってた。


 それでも、あの時。
 たった一言でも紡ぎ出す事が精一杯だった、あの時。
 強気で居る事が義務から自然になって、私は彼を受け入れる事ができた
 ずっと届かなかった優しさに出会えたような気がした。

 普段のしぐさ一つ一つが私の中に溶け込んでいった。
 笑った顔、怒った顔、困ったような仕草、動き、喋り方。

 全てがセピア色から抜け出す、遠い記憶そのままに・・・
 そんな彼が突然告白した同じ色の記憶。

・・・・
・・・・

「小夜美さん、今日の昼から暇?」

 誘われた時、外は雨で灰色に染まっていた。
 泣き出しそうな空を見上げる、見れば遠くの景色に淡い霞が掛かっていた。
 私は一呼吸置いて彼に言う

「暇だよ」

 不思議と私はその誘いに乗った。

 不思議・・・?
――――ううん、そうじゃないね。

 雨なんて彼も私も気にならない。
(二人が寄り添っていれば雨なんて)

「なんてね・・・」
 年甲斐もなく少し乙女気分?
 淡い恥じらいがどこか緊張した私の心に優しく染み込んだ。


 二つの色彩が色濃くなったコンクリートにパッと映える。
 それは寄り添いながら、決して離れない。

 私は繋いだ手を握り返した。
 存在を確かめたわけじゃない、伝えたい事があったわけじゃない

 過去の罪が最初から無かったしても、彼と私はこの場所で巡り合った。

(それでも、私たちって同じようにこんな関係になってたのかな・・・)

 二人同じ傷を負っていなくても、こうして手を繋ぐ事が出来たのかな・・・・

「もしそれが出来たんなら・・・・その時二人は『恋人同士』って言えるんだろ
うけどね」
 何時の間にかそんな事を呟いた。
 くるくると回る傘から雨粒が弾かれ、飛んでゆく。

「・・・うん? 何か言った?」

 呟いた言葉が彼にも届いた。

「・・・ううん、なんでもないよ。さっ、行こっ」
「あ、ああ」

 私は今と違った『今の恋人』の手を取る。
 だって、あの事件がなければこんなに切なくならなかったんだよ?
 蟠りだって無かったはずなのに・・・・

 でも、二人共恨んだりしない。
 決して過去を呪ったりしない、嫌いになんかなりもしない。

 こんな運命を背負っても、二人はこうして一緒に居る事が出来る。

 恋人なんかになら無くてもいい。
 たとえ、愛に辿り着けなかったとしても
 たとえ、それが歪んだ形での贖罪だったとしても

 二人は今、手を綱いで居る
 二人笑い合ってる。

 これだけは偽りの効かない真実だと言えるのだから


 仮初の愛じゃない。

 本当の恋でもない。



 雨はまだ止まない。

 片翼を失った鳥が、灰色の空を見上げている。
 遠くの空に、晴れ上がる青空を信じているから。


the end

2002.3.10

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