For All

Elqfainllowtyさん・作

「ねぇ・・・・」
「あ?」

 寒いね、と、彼女は言って
 ああ、と彼は答えた。

 キュっと、踏み締めた地面に足跡。

「あたしね、告白されちゃった」

 何にもない、会話すらない穏やかな帰り道での、彼女の言葉。
 それは彼にどう受け入れられたのかは分からない、ただ、彼は

「そっか」

 と、だけ答えた。
 ふふっと彼女は苦笑して、鞄をギュっと抱いた。

「隣の組の子・・・結構カッコ良いんだ、私・・・・付き合っちゃうかもよ?」
「そっか」
「性格も良いし・・・あ、頭は良い訳じゃないんだけどさ・・・・でも、一緒に
いて飽きないような・・・そんな子から」
「そっか」
「告白受けた時、正直嬉しかった」
「そっか」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」


 それっきり、彼女は何も言わない。
 彼は、白い空ばかり見ていた。
 ぼんやりと降り積もる粉雪だけを、数えていた。

 ゆっくりと空がスクロールしていって、今見た中心は、次の瞬間中心ではなく
なってゆく。
 空を見上げて、彼は太陽を探した。

「アンタさぁ・・・・」
「あ?」
「モテないよね・・・」
「ああ・・・」
「ブサイクだし・・・」
「ああ・・・」
「性格悪いし・・・・」
「ああ・・・」
「馬鹿だし・・・・・」
「ああ・・・」
「鈍感、だし・・・・」
「・・・・・」


 コートの中で、二人分のチケットが握り締められていた。
『今度の日曜日、空いてるか?』の一言が言い出せなかった。
 改まって見つめ合う事が出来なかった。
 だからこうして変わらない日を願っていたけど・・・

「何さ」
「あ?」
「黙っちゃって・・・・何よ?」
「ああ」

「おまえさぁ・・・」
「何?」
「馬鹿だよなぁ?」
「え?」
「アホだし、鈍臭いし、トロいし、五月蝿いし、目障りだし」
「な、何よ突然!」
「言い返してみただけだ」
「なっ・・・!」

 彼女は紅潮して頬を染め上げた。
 そして何か言おうとして、しかしそれは出来なかった。
 彼の手は赤く染まった彼女の頬に触れている。

「おまえの面倒見れる奴が他にいるって云うのか?」
「え・・・」

「どうせ休日も暇なんだろうが? 俺が面倒見てやる、嬉しく思え」
 そう言って彼は歩き出した。
 彼女を置いて、速い足取りでその場から歩いてゆく。


「生意気・・・言うなよ!」
 と、笑って、彼女は走り出した。


the end

2002.10.22

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