Elqfainllowtyさん・作
朝、目覚めた時に、目尻には少しの涙の跡が残っていた。
そうか、寝ている内に、私は泣いていたのか・・・
・・・・・しかし泣くって、何に対して?
さっぱり見当もつかない。
泣くって、何をだ?
・・・・・・・
・・・・・・・
まぁいいか、考えても仕方が無いし。
上体を起こし、辺りを見渡す。
ビルの入り口や、外回りの外壁には廃ビルの張り紙が所々に張られていた。
入り口も開いており、だから私はこの場所を寝床に選んだわけなのだが・・・・
・・・・とりあえず異変はなさそうだった。
「やはり、誰もいないのか」
寝ぼけた意識は中々戻らない。
きっと外が冷え込んでいる所為だろう、まだ朝の六時を過ぎておらず、外は朝焼けを待っている程だった。
とりあえず洗面所に向かい、朝の手入れを簡単に済まそう、そう思って洗面所に向かう。
途中の廊下では、照明の幾つかは破損して、或いは点滅点灯していて、大凡完全に点く物は殆ど無かった。
その数を数えて、洗面所までの道を探す。
天井を見上げれば、自然と階段の位置とか、ロビー、非常口やトイレの場所もわかってくる。
そんな中、ようやくそれは見つかった。
『御手洗場』
ジジジ、と鳴らせる照明が、私にヘンな違和感を持たせた。
「何?・・・・・何か・・・・引っ掛かるなぁ」
何だろ?
わかんないな。
・・・・・まぁいいか。
大した事じゃないと思うし。
早速洗面所で顔を洗う。
散っていた髪を纏めて、とりあえず髪を纏めようと思って、気付く。
「あ、ヘアピンもバンドも、ゴムもリボンも何も無いか」
と、丁度クロスが手すりにかけてあったのを思い出して、それを上手く引き千切って使えばいいや、と思いつく。
「先の違和感は、これか」
やっぱり大した事無かったな。
大好きな歌を口笛で謡いながら、荷物の纏めてある部屋へ向かう。
踵を返して、洗面所を出る。
洗面所から、廊下へ出て、部屋へと続く長い道で、私は又、低い天井を見上げていた。
コンコンと、電子がガラス管を叩く音が、蛍光灯から鳴っている。
割れているガラス屑を見て、私はその先で点滅している蛍光灯に目を移した。
「ったく・・・・修理くらいしろよ・・・」
そんな事思っても、どうせ廃ビルだし、どうせ誰も居ないし、どうせ誰も使わ―――――。
「あ・・・・・」
分かった。
さっきの違和感が、背筋を走った。
それは寒気とか悪寒とかじゃなくて、ある意味『恐怖』ですらあった。
「どうして、廃ビルなのに・・・・誰も使わないのに、電気が点くんだよ」
そもそも何で、水が蛇口から出ている?
何も有り得ない筈の、部屋へと辿る道が長い。
そして何よりも最悪なのが、ナグレットを置き忘れたと言う事だった。
「くそっ!」
小さく、とりあえずそう吐き捨てて単は部屋へと走り出した。
途端に胸騒ぎと焦りが湧き出す。
(どうか、私を部屋までお連れ下さい!)
何処の教えか、単は誰かへと頼み込むように、そう思いつづけながら部屋を目指した。
あの曲がり角を越えて、少し行けば私が今日目覚めた部屋だ。
角に近付くにつれ、徐々に不安と恐怖が胸を内側から強く叩く。
胸が痛い。
でも止まる事は出来ない。
恐怖とか不安材料は見つめれば見つめるほど、大きくなって行くと知っているから。
立ち止まれば、きっと私は考えてしまうだろう。
だから、その先に何が待ち受けていたとしても、私は部屋への足を止め無かった。
「あと十メートル」
「あと五メートル」
曲がった先にはガラス越しに太陽の光が飛び込んできた。
(しまった!)
咄嗟にかがみ込んでそのままもう一つの曲がり角を越して、廊下に転がり込んだ。
「ッ!!!」
ふと、顔を見上げる。
・・・・・何もなかった。
すばやく上下左右、前後を確認して起き上がり、部屋の扉をあけた。
幸い、荷物も何も異常は無かった。
ただ、それは直ぐに消えてしまっていた。
何故なら、隣のビルに
単を真っ直ぐ捉える瞳を二つ、単は見つけてしまったから