呪いの水車−vol.03

Elqfainllowtyさん・作

 朝、目覚めた時に、目尻には少しの涙の跡が残っていた。
 そうか、寝ている内に、私は泣いていたのか・・・
 ・・・・・しかし泣くって、何に対して?
 さっぱり見当もつかない。
 泣くって、何をだ?
 ・・・・・・・
 ・・・・・・・
 まぁいいか、考えても仕方が無いし。


 上体を起こし、辺りを見渡す。
 ビルの入り口や、外回りの外壁には廃ビルの張り紙が所々に張られていた。
 入り口も開いており、だから私はこの場所を寝床に選んだわけなのだが・・・・

 ・・・・とりあえず異変はなさそうだった。

「やはり、誰もいないのか」
 寝ぼけた意識は中々戻らない。
 きっと外が冷え込んでいる所為だろう、まだ朝の六時を過ぎておらず、外は朝焼けを待っている程だった。
 とりあえず洗面所に向かい、朝の手入れを簡単に済まそう、そう思って洗面所に向かう。

 途中の廊下では、照明の幾つかは破損して、或いは点滅点灯していて、大凡完全に点く物は殆ど無かった。
 その数を数えて、洗面所までの道を探す。
 天井を見上げれば、自然と階段の位置とか、ロビー、非常口やトイレの場所もわかってくる。
 そんな中、ようやくそれは見つかった。

『御手洗場』

 ジジジ、と鳴らせる照明が、私にヘンな違和感を持たせた。

「何?・・・・・何か・・・・引っ掛かるなぁ」
 何だろ?
 わかんないな。


 ・・・・・まぁいいか。
 大した事じゃないと思うし。

 早速洗面所で顔を洗う。
 散っていた髪を纏めて、とりあえず髪を纏めようと思って、気付く。

「あ、ヘアピンもバンドも、ゴムもリボンも何も無いか」

 と、丁度クロスが手すりにかけてあったのを思い出して、それを上手く引き千切って使えばいいや、と思いつく。

「先の違和感は、これか」

 やっぱり大した事無かったな。
 大好きな歌を口笛で謡いながら、荷物の纏めてある部屋へ向かう。
 踵を返して、洗面所を出る。

 洗面所から、廊下へ出て、部屋へと続く長い道で、私は又、低い天井を見上げていた。

 コンコンと、電子がガラス管を叩く音が、蛍光灯から鳴っている。
 割れているガラス屑を見て、私はその先で点滅している蛍光灯に目を移した。

「ったく・・・・修理くらいしろよ・・・」

 そんな事思っても、どうせ廃ビルだし、どうせ誰も居ないし、どうせ誰も使わ―――――。






「あ・・・・・」






 分かった。


 さっきの違和感が、背筋を走った。
 それは寒気とか悪寒とかじゃなくて、ある意味『恐怖』ですらあった。




「どうして、廃ビルなのに・・・・誰も使わないのに、電気が点くんだよ」


 そもそも何で、水が蛇口から出ている?
 何も有り得ない筈の、部屋へと辿る道が長い。
 そして何よりも最悪なのが、ナグレットを置き忘れたと言う事だった。

「くそっ!」

 小さく、とりあえずそう吐き捨ててヒトエは部屋へと走り出した。
 途端に胸騒ぎと焦りが湧き出す。

(どうか、私を部屋までお連れ下さい!)

 何処の教えか、単は誰かへと頼み込むように、そう思いつづけながら部屋を目指した。
 あの曲がり角を越えて、少し行けば私が今日目覚めた部屋だ。


 角に近付くにつれ、徐々に不安と恐怖が胸を内側から強く叩く。
 胸が痛い。
 でも止まる事は出来ない。

 恐怖とか不安材料は見つめれば見つめるほど、大きくなって行くと知っているから。
 立ち止まれば、きっと私は考えてしまうだろう。

 だから、その先に何が待ち受けていたとしても、私は部屋への足を止め無かった。

「あと十メートル」



「あと五メートル」



 曲がった先にはガラス越しに太陽の光が飛び込んできた。
(しまった!)



 咄嗟にかがみ込んでそのままもう一つの曲がり角を越して、廊下に転がり込んだ。
「ッ!!!」



 ふと、顔を見上げる。




・・・・・何もなかった。

 すばやく上下左右、前後を確認して起き上がり、部屋の扉をあけた。
 幸い、荷物も何も異常は無かった。


 ただ、それは直ぐに消えてしまっていた。
 何故なら、隣のビルに


 単を真っ直ぐ捉える瞳を二つ、単は見つけてしまったから


to be continued...

2002.11.21

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