「ほんとになくなっちゃった、智ちゃんの中に、唯笑の居場所」
「え……?」
 バカみたいに問い返した俺に、唯笑ちゃんは微笑んで頷いた。
 そう、微笑んで。その笑顔のままで。
「そこにはね、今はもう、音羽さんしかいないみたい」
「な、それって……」
「……」
 彼女の表情が、ゆがむ。
 それでも、彼女は笑おうとしていた。
 瞳いっぱいの涙が、どうしようもなくこぼれ落ちていても。
 紡ぎ出そうとする言葉が、嗚咽でかすれていたとしても。
 ただ笑っていられるように。その名前に込められた願いのまま。
 だけど、もう、限界だった。
「ごめんね……信くん……、唯笑は……ずるいね……」
「唯笑ちゃん……」
「信くんに甘えるなんて……そんなの……。でも……でもね……唯笑は、もう……」
「唯笑ちゃん!!」
 ――限界だった。
 彼女の笑顔も、俺の気持ちも。
 それ以上、唯笑ちゃんが何かを云う前に、俺は彼女を抱きしめてた。強く強く。
 智也のことも、真冬のことも、今は考えられなかった。
 ただ彼女の涙を止めてあげたかった。
Memories Off EX
      『あんなに一緒だったのに』
信編「罪に濡れたふたり」