「ただいま戻りましたぁ」
「おう、坊、お疲れ」
『ふうらい』編集部のドアを肩で押し開けつつ、相馬轍が帰ってきた。両手は取材器具でいっぱいなのだ。
脇に抱えたヘルメットを机の上に置き、現像室へ直行しようとする。そこへ、編集者の村瀬が声をかけた。
「おい、相馬。これって、例の子じゃないのか?」
手にした週刊誌を持ち上げ、手を振ってみせる。
なんです?と轍がそちらへ行こうとしたとき、編集長の川上の怒声が響いた。
「よけぇな話してんじゃねえ! 坊、お前もさっさと現像上げちまえ!」
慌てて首を縮める村瀬。しかし、川上のその声の調子で、何の話題か轍にはわかってしまった。
「……変な気の使い方しないでくださいよ、おやっさん。らしくない」
苦笑しつつ轍がそう答えると、川上は鼻を鳴らして横を向いた。
てめえが未だにそんな表情(かお)してるからよ。
横顔でそう語りながらも、それ以上は何も云わなかった。
「なんなんです、村さん?」
「……ああ、これなんだけどな……」
川上と轍の顔色を交互に見比べながら、村瀬は週刊誌を広げてその記事を見せた。
『滝沢財閥総帥倒れる』
轍の目に最初に飛び込んできたのは、その大きな見出しだった。続いて、
『揺れる後継候補。お家騒動か?』
そして記事の最後に――。
忘れるはずのないひとの姿が、あった。
「……」
何も云わず、じっと紙面を見つめる轍。
村瀬がやや上目遣いにその表情を伺うと、轍はまた小さく笑って、その雑誌を手に取った。
「村さん、これ、ちょっと借りてもいいすか?」
「あ、ああ、いいよ。やるよ」
「すんません」
雑誌に目を落としたままで、轍は現像室へ向かった。
その後姿を見送った村瀬は、現像室のドアが閉まると、川上のほうへ視線を転じた。
「……やっぱ、まずかったですかね?」
「知るか」
川上は、横を向いたままだった。