POWER OF LOVE
〜シルバー王女とサヤ姫

 3 


 その頃、王女達はお城の裏の花畑に来ていました。

 風が優しくふいて、花畑の花達は身を任せて揺られています。お城の裏は公園になっているのです。
 王女は花を踏まないように石畳の細い道の上を歩きました。
「誰もいないじゃないの。」
 王女は辺りを見回しました。
「あ、あそこに!」
アラエッサが人影を見つけて、指をさしました。そこには大きな木があって、金髪の少年がくくりつけられていました。
「クラウド!」
 シルバー王女の声に気づいて、クラウドは顔を上げました。
「王女!きちゃいけない!」
「え?」
 王女が駆け寄ろうとすると、いきなり石畳の真ん中に「井戸」が現れました。
「きゃーー。」
 間一髪の所で、3人とも井戸には落ちなくてすみましたが、
「なによぉ。何でこんな所に井戸が・・・。」
 そう思っていると、井戸は道に吸い込まれるように消えました。
「それはあいつの手なんだ!」
 クラウドは叫びました。
「おほほほほー。」
 突然、笑い声が響きわたりました。クラウドのくくりつけられている木の枝から、黄色い物が降り立ちました。それは黄色いドレスを着て、耳の根本にオレンジのガーベラをさした、ウサギでした。2頭身のくせに、動きはとても機敏でした。
「疾風のようにひらめきました。」
突然野太い声が響き、木の陰にもう一人金色のポストマンがいるのが見えました。
「彼はわたしの従者よ。わたしのことを実況中継しているだけで、あなたとは戦わないから安心して。わたしの名前はサヤ。ポスペ国のサヤ姫よ。」

 サヤ姫は、赤い目を細めて笑いました。そして愛らしい鼻を、ふむふむ動かして、ぱっと手品のように手の中から赤いバラを差し出しました。そしてそれをシルバー王女に投げました。
「会いたかったわ。シルバー王女。私の敵・・。」
「敵ってなんのこと?私はあなたに初めて会うし、何もあなたから奪ったことはないはずよ。」
 シルバー王女は、ひらがなばかり手紙の状態からは予想がつかないほどの、大人びたサヤ姫の雰囲気に驚きいて言いました。
「とぼけないで。私の愛しいペロペロ様をたぶらかしたくせに!」
 サヤ姫は、そう言うとぽろっと涙をこぼしました。
「ペロペロ様??」
「そうよ。あのこの世界中で一番素敵で、知的で・・。頭脳なんて博士並なのよ!それにあの方のあの優雅な物腰・・優しい言葉、無口だけどたまに話すとそれは素敵な(某内海光司君のような)魅惑のボイス!私、あの方のお嫁さんにと心に決めて、ずっと一筋できたのに、横からあなたに割り込まれて、ほんっと腹が立ってるのよ!行くわよ!この決闘でどちらがペロペロ様にふさわしいか、決めるのよ!」
「すばやくひらめきました。」
 ポストマンがそういうと、サヤ姫は、自分の肩の辺りをちょいちょいと触って、今度は「風車」を出しました。
「風車ブリザーーード!!」
 突然ものすごい風が吹きました。シルバー王女のドレスが激しくはためき、軽いためにとばされそうになったアラエッサはストンストンにつかまり、ストンストンはシルバー王女のドレスにつかまりました。
「シルバー王女!クレヨンペンなのだ!」
「わかったわ!」
 どこからともなく、シルバー王女はクレヨンペンを出しました。クレヨンペンはカメレオン総理がくれた秘密のアイテムで、いろいろな色を出して、光線を発し、その光線にあたった物の意志に関わらず、踊らせたり、笑わせたりできるのでした。シルバー王女は早速呪文を唱えました。
「えがおっ、あさがおっ、いいおかおっ!笑顔が一番!ピーーーンク。」
クレヨンペンの先からショッキングピンクの光線がでて、サヤ姫をおそいましたが、サヤ姫は間一髪よけて、持っている風車だけを吹き飛ばしました。サヤ姫はバランスを奪われて花畑に倒れました。
「よくも・・・。」
 サヤ姫は今度は爆弾を取り出しました。丸くて黒いボールのような爆弾です。サヤ姫はそれを思いっきりの力を込めてシルバー王女に投げました。
「ひょえーーー、爆弾なんだな!」
「やばいのだーーー!」
 アラエッサとストンストンは頭を抑えて、目をぎゅっとつむりました。シルバー王女もクレヨンペンで顔を隠しました。

  しかし、いつまでたっても爆発しません。
 おそるおそる目を開けると、そこにはピンクのタキシードにピンクの靴。ピンクのテディベアがシルバー王女達の前に背を向けて立っていました。
「サヤ姫。」
そのクマの手には、先ほど投げられた爆弾がのっており、導火線は消えていました。
「君はどうして・・。パーティ会場にいないと思ったら・・・。」
 そういうピンクのクマを見て、サヤ姫はさっきの勢いはどこへやら、急にしとやかな顔に戻っていました。
「ペロペロ様・・・。」
「ペロペロ様!?じゃあ、このクマ、いや、王子が・・・。」
「シルバー王女、すみませんでした。どうやら彼女は思い違いをしているようです。以前、クレヨン王国のパーティに出席できなくなった僕は、あなたにピンクトルマリンの指輪を贈ったのを覚えていますか?」
「ああ、そういえば・・。」
「ピンクトルマリンは、ポスペクマ国の特産物です。最上級の物をお詫びにとお送りしたのですが、サヤ姫はそれを、私があなたに求婚したのだと勘違いしたのです。ポスペ国、とりわけウサギ国では異性に指輪を贈るときは、愛情の印と言うことになっていましたので・・。僕が迂闊でした。」
「では、ペロペロ様はシルバー王女を好きになったわけではないのね!?」
 サヤ姫はペロペロ王子をうるうるした瞳で見つめながら、言いました。
「ああ、僕は君のフィアンセなのだから。他の女性を好きになるわけがないじゃないか。」
「ペロペロ様・・。」
 サヤ姫は嬉し涙を流しながら、ペロペロ王子に抱きつきました。ペロペロ王子は優しくサヤ姫の髪をなで、二人で幸せを噛みしめました。
 その様子を見ながらクラウドは、こそっと言いました。
「・・・・・あのー、お取り込み中の所、悪いんだけど・・。この縄はやくといてもらえないかな・・・。」

「しっかし、驚いたわね。」
 シルバー王女はクラウドとダンスを踊りながら、言いました。
「ウサギ姫の婚約者がピンクのクマの王子よ。」
「お似合いじゃないか。」
「クラウドもウサギのお姫様につかまるなんて、だらしないわね。」
「よく言うよ。君だって、かなり苦戦してたじゃないか。ただのウサギじゃないんだぜ。」
「・・・まあね。死神よりも強かったかも・・。」
「・・まあ、女は怒らすと怖いからな・・。僕もそういうことはよーく学ばされたよ。」
「・・棘のある言い方ねー。私は怒ったりしないもーーん。」
「げらげら笑いのすぐ怒り、うそつき、いじっぱり、うたがいぐせ、すぐに人のせいにする。」
「な・・なによ・・。」
「全部君の悪い癖だろ。ま、君の場合特別だろうけど、これだけ揃ってれば、どんなことがあってももう慣れたな。不思議な物で、慣れるとまた、それが楽しみになったりもするんだよな。」
「え?」
 曲が終わり、次の曲になりました。次のダンス相手は待ちかねているフィレオ王子で、もうまわりにいっぱいハートマークを散らしながら待っています。
「ちょっと、今のどういう意味?!」
シルバー王女は、そうききましたが、クラウドは笑いながらダンスの列を離れて行ってしまい、追いかけようとするとフィレオ王子が手をつかみました。
「王女ーー。僕と踊るだおーー。」
 しかたなく、シルバー王女はフィレオ王子とダンスを踊り、ダンスの最後に、どさくさに紛れてキスしようとするフィレオ王子にまたもや鉄拳パンチを食らわせました。



 その後パーティは夜おそくまで続けられました。
広間では、幸せそうにダンスを楽しむ、ペロペロ王子とサヤ姫の姿がありましたとさ。

 おわり