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クレヨン王国という世界の色をすべて司っている王国にシルバー王女という笑顔のかわいい王女様がいました。その髪は月の光を集めたような銀色で、瞳は静かな湖畔の水を集めて作ったように澄んだ銀色をしていました。
かわいらしく、国民に愛されているシルバー王女でしたが、実は12の悪い癖を持つとんでもない王女だったのです。お城の人たちは王女の悪い癖に朝から晩まで振り回されており困っていましたが、王女の笑顔を見るとなぜかすべて許してしまうのでした。
「毎日毎日暑いわねーー。」
シルバー王女は、木陰でプーニャの持ってきたアイスティを飲みながら、そう言いました。
「本当でございますですねー。」
そういいながら、プーニャも一緒にアイスティを飲みました。冷たいアイスティは、のどを程良く冷やしてくれて、思わずプーニャののどがごろごろ鳴りました。
夏の昼間は木陰で読書をするに限ります。本当はクーラーの効いた部屋で、ごろごろしたいところですが、カメレオン総理が、
「クーラーの効いた部屋にばかりいたら、季節がわからなくなってしまうのでアール。」
といって、一日に3時間しかクーラーを付けてはいけないと決めてしまったのです。
なので、シルバー王女とプーニャは毎日その時間一番涼しいところを見つけて、過ごす事にしていました。 幸い、プーニャは猫なので、涼しいところを見つけるのは得意です。シルバー王女が木陰で読書をしていると、
「シルバー王女様ーー。今日はこちらがよろしゅうございますですーー。」
と、より涼しいところを見つけてきてくれるのです。
でも、プーニャはヒゲがないので、たまに間違えて、その日一番暑い場所に連れていってしまうこともあるのでした。
カメレオン総理の思いつきは、最初はシルバー王女にとっても、城のみんなにとっても困った物でしたが、だんだん慣れてくると、城の庭にどういう風に、風が抜けていって、どういうところが一番涼しいとか、庭のどこにどういう植物があるかとか、新しい発見が次々とありました。知らない植物や、昆虫に出くわすと、本を引っぱり出してきて、調べたりもしました。カメレオン総理のクーラーさよなら作戦は思いもかけない効果を生みました。
そんなある日、シルバー王女に一通の手紙が来ました。
「誰からかしら?」
シルバー王女がプーニャから手紙を受け取ると、その封筒には見覚えがありました。
黄色い封筒にP.Pの透かし。そして差出人の所には小さな足跡。
「あら?ポスペ国のサヤ姫からだわ。」
サヤ姫は黄色いウサギの姫でした。はじめシルバー王女は黄色いうさぎなんてと変に思いましたが、その国のウサギはみんな黄色いと聞き、びっくりしたものでした。そのポスペの国では、他にもベア(クマ)の国・カメの国・ネコの国・ハムスターの国・ペンギンの国・ロボットの国・イヌの国があると、カメレオン総理が言っていました。どの国も色彩豊かな国で、まるで遊園地がそのまま国になったみたいなところだということでした。国々が集まると、ちょうど花のような形をしており、その花びら一枚一枚が国で、真ん中に丸い中立のポスペパークという聖域があるらしい。そう聞いて、一度行ってみたいとシルバー王女は思っていました。
そのポスペ国のサヤ姫とは、以前ちょっとしたすれ違いから、喧嘩になった事があるのですが、誤解とわかり、サヤ姫はそれから、シルバー王女のことを「お姉様」と呼んで、したっているのでした。 その手紙の内容はこんな風でした。
おねぇさまへ
−−−−−−−−−−−
なつが来ました。
なつが来たら、 お日さまが来ます。
だから、カードに 気をつけて。
気をつけないと ねらってます。
そう、フロル様が いってます。
−−−−−−−−−−−
サヤ
「なんでございますか???」
プーニャは、シルバー王女がその手紙を読んだあと、難しい顔になっているので、思わず、王女の肩口からその手紙を覗き込んでしまいました。
「あ、すみませんでございますですーーぅ。私ったらつい・・。」
プーニャは、王女宛の手紙を許可もなく覗き込んでしまったのを謝りました。
「いいのよ。それより、プーニャ。あなたはどう思う?この手紙。」
「夏が来ると・・カードに気をつける・・でございますですか???」
「打ち間違いかしら。ワープロ打ちだから間違えて打ったのかもしれないわ。」
「どうでございましょうか?どなたかに知恵をお借りしては?」
「そうね。野菜の精に聞いてみましょう。」
シルバー王女は、カメレオン総理から旅に行く前にもらった香水瓶のいっぱい入ったコンパクトを手に乗せて、真ん中のボタンを押しました。するとくるくると香水瓶が点滅し、3つの瓶が立ち上がりました。ふたがシュルシュルッと開いて、中から、3人の野菜の精が出てきました。
まず一人目は、ほうれん草の精の「ホーレソレ」。「どうでもいいけど」が口癖な、女子高校生です。投げやりなフリをしていますが、本当はすごく他人思いの女の子です。きっと、サヤ姫の気持ちになって、この手紙を解読してくれそうです。
二人目は、ナスの精のソソソナスでした。せっかちでいつもせかせかしているサラリーマンのナスです。話し言葉も早口で、時間を無駄にしない生活を送っています。なので、早く考えてくれそうです。
三人目は、キャベツの精のキャーベッタで、おしゃれと歌が大好きな芸能界にあこがれる女の子です。色々舞台にもでてファンレターをもらっているので、手紙を解読するのは得意そうです。
「この手紙なのよ。」
シルバー王女が手紙を差し出すと、ソソソナスがいち早く手に取りました。ささっと文面を読むと、ホーレソレに手渡しました。
「手紙を解読するというのもへんな話でナス。」
「そうですわ。手紙というのは、相手のハートが詰まっている物。自ずと言葉が心にしみこんでくるはずですわ。」
キャーベッタも、夢見心地な瞳で、いいました。でもホーレソレから手紙を手渡されると、途端に目が点になりました。
「な・・なんですの?この手紙・・・。」
「全然わかんない、どうでもいいけど。」
ホーレソレもお手上げというように深いため息をつきました。
「順番に行くでナス。『夏が来ました』というのはわかるナスな。じゃあ次。『夏が来たら、お日さまが来ます。』これはお日さまの日差しが強いということナスか?」
「夏のお日さまは女性の敵ですわ。紫外線がお肌を黒くしてしまいますもの。シミそばかすの原因になりかねないですわ。」
「・・そばかす・・いやーーっ。」
どうやら、ホーレソレには、そばかすに苦い思い出があるようです。
キャーベッタは、ピンと何かひらめいて、
「わかりましたわ!次の『だからカードに気をつけて』と言うのは、きっと『ガード』の打ち間違いで、紫外線のガードにきをつけろっていうことではないかしら。」
「なるほどー」
「一理あるでナス。」
一同は感心しました。
「じゃあその続きは?」
「『気を付けないとねらってます。』は、気を付けないと紫外線はどこででもねらってるよ。と言うことでは?」
「フロル様っていうのは?」
「人の名前でナスな。きっとサヤ姫の周りにいる美容にうるさい人なのではないナスか?」
「人の名前なら気にすることはないかも、どうでもいいけど。」
シルバー王女は納得して、野菜の精に御礼を言って、コンパクトの中に戻しました。
シルバー王女は、それからは日に当たるときは日焼け止めをぬって、お日さまの紫外線に気を付けるようにしました。
それから何事もなく数日が過ぎました。
「シルバー王女様、シルバー王女様。お起きくださいませ。朝でございますよーー。」
いつものようにプーニャが起こしに来ました。しかし、シルバー王女は
「うーーん。もうちょっとーー。」
「もうちょっとと言われていつも何時間もお休みになるではありませんか。にゃーー。困ったでございますですーーぅ。」
プーニャは、背をむけて寝ているシルバー王女を眺めながら、どうしたら起きていただけるかと思案に暮れていました。すると、はっと名案が思いうかびました。
「そうでございます。アラエッサ様とストンストン様なら、きっと良い起こし方を知ってみえるに違いありませんでございますです。だって、ずっと一緒に旅をしてこられたんですもの。」
そう思いつくと、プーニャはアラエッサ達が門番をしている門へ急ぎました。二人は伯爵になってからも、たまに気ままに旅をしては、帰ってくると門番をしているのです。
「プーニャ。どうしたんだー?」
「家に忘れ物け?」
「おはようございます。アラエッサ様。ストンストン様。実はかくかくしかじか・・・・・なのでございますです。」
二人はプーニャと一緒にシルバー王女の部屋まで来ました。
「あいかわらず、散らかってるなーー。」
「散らかし癖は相変わらずなんだな。」
「私が片づけても、王女様はすぐにこうしてしまうのでございますです。」
「プーニャも大変だなぁ・・。」
アラエッサとストンストンは心底同情しました。
そんな報われないプーニャのために、二人は役に立とうと思いました。
アラエッサとストンストンはありったけの大きな声で
「シルバー王女ーー。起きろーー。」
「王女ーー、起きるんだなーー。」
と王女の横で言いましたが、王女は安らかな寝息を立てているだけでした。
それから色々手を尽くしましたが、起きなかったので、アラエッサとストンストンは視線を合わせてうなずきました。
「もうあの手しかないな・・。」
「なんでございますですか?」
30分後、アラエッサとストンストンが連れてきたのはクラウドでした。
「なんだーー?!なんで、僕がこんな事!それに一人で起きられないなら、ずっとほっておけばいいんだ!!いい年して!」
「でもそれでは、王女様は夕方まで寝ているでございますですー。」
プーニャの必死の言葉に、クラウドは冷や汗を流しながら
「その通りだと思えるところが怖いよな・・・。」
と言いました。
「クラウドが起こせば、一発だと思うんだな。」
「・・そうか・・。じゃあ、やってみるけど・・。」
クラウドはシルバー王女の横に立って、
「シルバー王女ーー!!起きろーーー!」
と怒鳴りましたが、王女は
「うるさいわね・・。もうちょっとって言ってるでしょーー。ん??」
と、つぶやいて、王女はこの声が誰なのかとちょっと考え、
「えーー、ちょっと何よーー。なんでクラウドがここにいるのよーー!!」
と、飛び起きました。
「効果てきめんなんだな・・。」
プーニャとアラエッサ・ストンストンは、万歳して喜びました。
「きゃーー、いやーー。寝起きのレディの部屋に黙って入ってくるなんて!なんてエッチなの!?見損なったわ、クラウド!」
「何がレディだ!レディならレディらしく自分で早起きしろ!」
「もう!鏡もまだ見てないのよ。やーーん。」
シルバー王女は、ベットの脇にある袋から鏡を取り出しました。
「なんでそんなところに鏡が・・。」
「いいじゃないの。便利でしょ?」
「しかもその鏡、サヤ姫にもらった物だろ!ウサギのマークが付いてるぞ。」
「もう、いいじゃないのよー。うるさいわねー。まぁ、クラウドなんかは、こんな立派なメーリング石の鏡なんて持っていないでしょうけど。」
「また始まった・・。」
「12の悪い癖の一つ。自慢癖なんだな。」
シルバー王女がその鏡をクラウドの方にむけたとき、背後の窓のカーテンをプーニャがあけたので、お日さまの光がその鏡に当たって光りました。
ピカーーーーー
「チューー、じゃなくて、まぶしいでございますですーー。」
プーニャが目を閉じるが早いか、不思議なことが起こりました。
鏡から鋭い光線がプーニャめがけて一瞬で進み、あっという間にプーニャを光で包むと鏡の中に吸い込んでしまったのです。
「プ、プーニャ!?」
シルバー王女はあわてて、鏡を覗き込みましたが、そこにはシルバー王女の顔が映っているだけでした。しかし、覗き込んだシルバー王女の背後から日の光が射し込み、また、強い光線がでて、今度はシルバー王女を直撃しました。
「きゃっ。」
「王女!?」
クラウドが手を伸ばしましたが、一瞬で王女も鏡に吸い込まれてしまいました。
「しまった!」
クラウドは、鏡を見て呆然としました。そしてクラウドは、アラエッサにはカメレオン総理にこの一大事を知らせに行くように、そしてストンストンには部屋のカーテンを閉めるように言いました。
クラウドがカーテンが閉められて光が入らないことを確認して問題の鏡を手に取ると、ひらりと一枚のカードが落ちました。 同時に、
「ほえ?なんか落ちてるんだな。」
とストンストンもカーテンの付近でカードを拾いました。それはちょうどプーニャが消えたところでした。
「え?王女?!」
「プーニャなのけ?」
クラウドの拾ったカードの中には、カードの大きさに小さくなったシルバー王女と、ストンストンの拾ったカードにはプーニャがこちらを向いて何か言っています。でもその声は聞こえません。
一方、カードの中のシルバー王女とプーニャは、外のクラウドやストンストンは、ガラス越しのようにして見えるのですが、声が聞こえません。
「ちょっとーー。どうなってるのーー!これ。クラウド、クラウド!?聞こえないの?」
「た、大変でございますですーー。ああ、どうしましょう!?こういうときはえーと、えーと、そうだ!とりあえず助けを呼ぶでございますです。おーーいーー!でございますですーー。」
どうやらあちらも声は聞こえないようです。
「困ったわ。両方とも声が聞こえないのね。」
すると、クラウドが声が聞こえないと言うことを素早く察知し、紙を持ってきました。紙にクラウドは
『まってろ。助けてやる。』
と、書き、カードの中のシルバーに見せました。
「わかったわ。」
と、シルバー王女は、うんうんと縦に首を振りました。
「ストンストン、アラエッサ、どうしてこうなったか、心当たりはないのか?」
「うーん。別にこれといってははないんだな・・。」
「王女には心当たりがないのか、きいてみよう。」
そこで、クラウドは、また紙に
『心当たりはないのか?』
と書いて、シルバー王女のカードとプーニャのカードに見せました。
「こころあたり?そんなのあるわけないじゃないの。」
「心当たりでございますですか?えーと、鏡が光ってここに入ったわけだから・・。鏡に秘密があるのではないのでございますですか?」
プーニャはそう思い、一生懸命身振り手振りでそのウサギの鏡を指しました。クラウドはそれに気づいて、
「ん?・・鏡?そうか。王女達を吸い込んだ、この鏡に謎があるのかもしれない。この鏡はポスペ国のサヤ姫にもらった物だと言っていたな。」
「そうなんだな。」
「そうと決まれば、サヤ姫の所に謎を解きに行くのだーー。」
「おーー!」
そうして、3人はシルバー王女とプーニャの入ったカードと、問題の鏡を持って、ポスペ国へ急いだのでした。
その頃、ポスペ国では、サヤ姫に妙な予感が走っていました。
「あら?」
「どうしました、姫様。」
「疾風のようにひらめきました。」
いつもおそばに使えている金色のポストマンが野太い声で、サヤ姫の頭脳の様子を中継しました。
「そうよ。疾風のようよ。ちょっとこれはただごとではない感じのひらめきよ。誰か、誰か、フロル様をここへお呼びして。」
「ふにふにと何かひらめきました。」
「そう。ふにふにと何かいやな感じなの・・。もしかしてあの魔法が作動したのかしら?太陽のいたずらの魔法が・・。」
サヤ姫は、午前中のお裁縫のお勉強の時間にも関わらず、魔法の先生のフロルという城一番の魔法使いを呼びつけました。
「サヤ姫様、お呼びでしょうか?」
「フロル様・・。あの鏡にかけた魔法を覚えているかしら。」
「はい、サヤ姫様。」
フロル様は、サヤ姫が婚約者のペロペロ王子以外に、「様」を付けて呼ぶ尊敬すべき先生でした。その力は天地をとどろかせ、海を割るほどの魔力の持ち主なのです。若いのになぜ、そんなに強いかというと、彼はマザーまりりんの元で、十年以上修行をし、その並はずれた才能から、普通は三十年かかるという免許皆伝を、わずか十年で取得してしまったのです。しかし、彼は若く見えるだけで、本当はものすごく年をとっているとか、誰もそのマザーまりりんに会ったことがない、そして本当は存在しなくてフロル様は自分だけで、元々持っていた力であったが、あまりに強大なため、師匠がいることにしてごまかしているなど、いろいろと言われていました。
なので、フロル様のことをいぶかしがる大臣もいましたが、サヤ姫は絶大な信頼を置いており、自分もいつかはフロル様のようになりたいと思っていました。
フロル様の本当の夢は、「世界一の魔法使いになること」なんて、ちっぽけな個人的な物ではなく、「世界平和のためにロマンチックを普及すること。」を最終目標としていました。なので、ロマンチックで世界が救えた暁には、自分は消滅するかもしれないと言っていたのです。
サヤ姫はフロル様がいなくなるのがいやなので、
「世界にロマンチックが普及しないでいて、ずっとここにいてくれればいいのに。そうしたら、きっとずっと皆はフロル様の力になすすべがなく、平和になるでしょうに。」
と思っていました。
しかし、サヤはロマンチックも好きでした。フロル様に近づくためにはロマンチックが必要です。しかも揺るぎないロマンチックが。
クマのポスペ国の王子ペロペロ様との婚約もフロル様のすすめがあったからでした。サヤ姫はその約束が交わされた時、まだ5歳でしたが、フロル様のいうことなら間違いないだろうと思いました。それにロマンチックを極めるためにはやはり、恋する心が必要だったからです。
でもサヤ姫はこの頃気づきました。あのシルバー王女にペロペロ様が心変わりしたと勘違いしたときのことです。(「POWER OF LOVE」参照。)あのときの自分はなんと心乱れたことでありましょうか。あのとき、サヤ姫は知ったのです。自分がそんな国同士の約束事で決めたと言うことよりも、自分の意志でペロペロ様が好きだということを。あの紳士的な物腰、優しい瞳。どれも、だんだんペロペロ様が大人になっていくなかで、とても輝いてきたのです。
今まで対して努力しなくても欲しいものが手に入っていたサヤ姫が、はじめて感じた執着感でした。
それ以来、サヤ姫は、ペロペロ様が大事と思う気持ちと共に、それを気づかせてくれたシルバー王女に感謝をし、あの鏡を贈ったのです。幸い、シルバー王女も恋をしているようで、自分と話も合いそうだと思いもしました。
「でも、あの鏡は夏になると少々危険な物。メールでご忠告さしあげましたけれど、手遅れだったのかしら・・・。」
「・・しかし、あの魔法が作動してしまうと、我々にはどうすることも出来ない・・。」
「そうですわね。魔法にかかった人次第ですから・・。」