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「クレヨン王国の使いです!サヤ姫にお話ししたいことがある!開門ねがいます。開門ーーー。」
次の日、クラウドとアラエッサ、ストンストンがポスペ・ウサギ国の城の前に到着しました。
「クレヨン王国の方がなんのご用でございます?」
ウサギの門番は、一瞬その身長の5倍ほどある槍でとめようとしましたが、クラウドが正式なクレヨン王国の身分証を見せたので、さっと引き、そう問いかけてきました。
「うんうん。立派に仕事をしているんだな。」
「吾輩達に負けぬ、いい門番ぶりなのだ。」
アラエッサとストンストンは感心しました。
「シルバー王女からの伝達だ。鏡の件とお伝え願いたい。」
3人が通されたのは城の大広間でした。広々としたその広間には入り口の所に「模様替え」というボタンがありました。
「これはなんなんだな?」
ストンストンは、ポンッと飛び上がって、それを押してみました。すると、一瞬キラキラと光が散ったかと思うと、ピカッと強く光り、そのまぶしさに目をつむった3人が、再び目を開けると、そこはさっきとは違った部屋の景色になっていました。
「ほえ!?白い大理石の広間だったのが、今度はキラキラカラフルな広間に変わったんだな。」
「ああ、さっきはギリシャやなんかの神殿のイメージだったが、今度はアラビアっぽい。」
さすがのクラウドもびっくりして目を見開きました。
「このボタンを押すといろんな部屋に模様替えするのけ?もう一度押してみるんだな。」
そんな調子で、何度もボタンを押してみると、ルーブル風、中国風、ハワイ風、カントリー風、平安風など、次々に部屋が光っては変わり、光っては変わりました。
「ひょーーー!面白いんだな。」
ストンストンは、うきうきステップを踏みました。
「だけんど・・部屋が変わるときにそれにあわせた料理なんてでてくると、ますますいいんだな・・。」
「そう言うと思った・・。」
アラエッサは、ストンストンを横目であきれたように見ました。
「本当にすごいな。しかし、この光・・。シルバー王女達は吸い込まれたときと同じ種類の光のような・・。何かを燃やしたような光でなく、空気を直接変化させて光らせているような・・・。」
「魔法の光です。」
そう、声がして、広間の奥からぴょこぴょこっと飛んできたのは、サヤ姫でした。
「ようこそ、ポスペウサギ国へ。」
「まったりとひらめきました。」
サヤ姫が挨拶したあと、野太い声で金色のポストマンがそう言いました。どうやら挨拶のつもりのようです。
「ところで、サヤ姫、我々がこちらに来たのは他でもありません。この鏡のことで・・。」
「ああ、やはりその鏡でなにか起こりましたね。」
そういって広間の入り口の方から、金色のしゃらしゃらとした衣装を身につけた、黄色と言うより、金色に近いような輝きの毛並みを持ったウサギが現れました。サヤ姫がそうであったように、ウサギならばぴょこぴょことあの独特の歩き方(?)をするはずなのに、そのウサギはすーーっとまるで動く歩道にのっているかのような歩き方で、音もしないのです。
「申し遅れました。私、この国の魔法使い、フロル=メッセージ=イン=ボトルともうします。クラウド公爵様。」
「どうして僕の名を?」
「それは承知しております。一緒におられるのはアラエッサ・・もといワシブサ伯、そしてストンス伯でございますね。」
「その名前で呼んでもらえると・・照れるんだな。」
「ああ、そうなのだーー。」
二人が呼び慣れない呼び方にもじもじしていると、
「国内でも知らないものが多いというのに、よくこの二人の正式名をご存じですね。」
と、クラウドが感心したように言いました。その様子にストンストンは
「ちょっと・・それは失礼でないのけ?」
と、クラウドにちろーんと視線を送りました。
「フロル様の魔法を用いれば、なんでもわかるのです。」
「魔法?そうか・・、あのひかりは魔法の光・・。しかもとても強い魔法を使ったときにでる物だったのか。僕の家はクラウス公爵家ですが、クラウス公爵家も少しですが魔法の心得がありますので・・。」
クラウドは、フロル様をじっと見ました。
「では、もうおわかりでしょう。シルバー王女様がその鏡を使われて起こったことが魔法の仕業であることを・・。」
「王女と侍女プーニャはサヤ姫様からもらった鏡からの光で、カードの中に閉じこめられてしまったのです。」
「太陽の光に当てたのではありませんか?」
「その通りです。」
クラウドは力の強い魔法使いがいることだし、これは王女達を救うのに期待がもてると、目を輝かせて言いました。しかしサヤ姫から返ってきた答えは
「それでは、私たちにはどうすることもできません。」
でした。
「どうして?」
「その鏡はメーリング石で出来ています。メーリング石の別名を魔法をたしなむ人ならわかるでしょう。」
「『太陽の石』・・・。太陽の気持ちを固めた石・・。」
「そう。太陽の気持ちを固めた物です。気持ちの入っていないメーリング石はすぐに壊れてしまいます。そして、よりたくさんの気持ちが入っていれば、そのメーリング石は最高級品となる。シルバー王女様に献上した鏡は最高のものですから、より大量の気持ちが入っている・・つまり、太陽の心を映しているような物なのです。」
「太陽の気持ちを移しているとどうなるのけ?」
「夏、お日さまは一生懸命輝くのが仕事です。しかし、一生懸命輝けば輝くほど、地上に住む物にはいやがられます。暑いとか日焼けするとかいって、日陰に入ろうとします。つまり、お日さまから逃げようとするのです。そのため、お日さまが一番頑張って働いているとき、地上の人たちは数が少なくなります。するとお日さまは寂しく思うのです。そして、寂しくて寂しくて仕方なくなると、その寂しさを知ってもらおうと太陽の日がメーリング石に当たったとき、鏡をを通じていたずらをするわけです。」
「それがこのカードにするっていうことなのかー。それは困った石なのだー。お日さまは気の毒だが・・。」
アラエッサは腕組みをしてそういいました。
「しかし、太陽がかけた魔法であっても、解く鍵はあるはずです。」
クラウドはフロル様とサヤ姫を交互に見ながらそう言いました。
「カードに入れられた人は今頃太陽と同じ孤独感を味わっているはずです。孤独感というのは、他に誰もいないということを悲しく思うのではなく、自分の中身と戦うということです。自分しかいないということは自分と戦わねばなりません。」
「じゃあ、今、王女達は自分と戦っていると言うことですか?」
「そうです。」
「戦ってると言うことは、勝ち負けがあるのけ?」
ストンストンは、いやな予感がしながら言いました。
「そうです。」
あっさりと答えるフロル様にアラエッサはびっくりしながら言いました。
「ということは、勝ったらカードからでてこれるとして、もし負けたらどうなるんだ?」
「一生カードに閉じこめられ、そのうち本物のカードになります。それは人によって3日でカード化してしまう人もいれば、2年・3年とかかる人もいます。」
「ひょえーーーー!!それは大変なんだな!!」
ストンストンは飛び上がりました。クラウドも急いで王女達の入ったカードを折れないようにと入れていたケースから取り出しました。
すると、中で二人ともまだ人間のままで、動いています。 ほっとするのもつかの間、クラウドはこのことを王女達に伝えようとペンを取りました。しかし、王女もプーニャもこちらを見ようとしません。もしかして見えなくなっているのでしょうか?
「まずいな・・。王女達から見えていないみたいだ・・。このことを伝えられない・・。」
3人は、途方に暮れてカードを見つめるだけでした。
カードの中のシルバー王女は、座り込んでいました。クラウドが助けてくれると言った以上、助けてくれるはずですが、外の様子も次第にぼやけたようにしか見えなくなり、なんだかとても不安になってきました。
「クラウドは助けてくれるって言ったけど、どうしてこんな事になったかわからないのに、助ける術がわかるのかしら・・。」
シルバー王女は、黙っていると余計に孤独を感じるので、しゃべることにしました。もしかしたら、この闇のどこかに誰か他に閉じこめられた人がいて、気づいてくれるかもしれないと思ったし、しゃべっていると、黙っているよりは気がまぎれるからです。
「大体あんな鏡をよこしたサヤ姫にも問題があるわね。鏡さえなかったらこんな事にはならなかったし、大体あの姫は最初から変だったわ。この前よこした手紙だって変だったし・・。」
そこまで言って、シルバー王女ははっと気づきました。
「・・もしかして、太陽に気を付けなさいと言うのは、鏡を太陽にあててはいけないっていうことだったのかしら・・。そうだとしたら、私は手紙を読み違えてこんな事になったことになるわ。」
シルバー王女は怖くなりました。怖くてたまらないので、座っていた足を延ばして、立ち上がりました。
「だとすれば、太陽に近づくと余計に駄目なのかも・・。じゃあ、ここにいてはいけないわ。だってここは太陽の光の匂いがするもの。暗い方へ行けば、太陽の光も届かないわ。」
シルバー王女は歩き出しました。奥の方に行くにつれて闇は濃くなります。もう自分の手さえ見えません。
「違うのかしら・・・。」
シルバー王女は座り込みました。もう疲れて歩けないと思いました。すると、こんな声が聞こえてきました。
「シルバー、シルバー。」
「だれ?」
「あなたは皆に愛されていますか?」
「誰なの?!」
「愛されているならなぜここにいるの?ここは孤独な場所なのに。」
「・・好きで入ったんじゃないわ。成り行きで入ってしまったのよ。それより誰なの!?しっつれいじゃないの、名乗らないなんて。」
「私はシルバー。あなたです。」
「私?」
「そう。私はあなたです。あなた自身だから色々わかるわ。あなたが本当は周りの人を疎ましく思っていて、自分が一番かわいいんでしょ?」
「違うわ!」
王女がそうして戦っている頃、クラウドの持っていたプーニャのカードがもこもこと動き出し、ぽんっと、プーニャが出てきました。
「プーニャ!」
「あら〜〜?わたくし・・どうしたのでございますですかぁ?」
「良かったんだな!無事でれたんだな。」
「?」
「どうやってでれたんだい?」
「私のお父様が中にいらっしゃって、色々私に尋ねるものですから、それに思った通りに答えていたら・・知らない間に・・。」
プーニャは不思議そうな顔をしました。
「どうやらプーニャには孤独は存在しなかったんだ。というか、親元離れて、もうすでに孤独を克服していたんだな。」
クラウドはそう言いながら、 『王女は大丈夫だろうか。』 と思いました。
「大体あなたが私のわけがないじゃないのーー。だって私はここにいるんですもの。それにあなたの姿だって見えないし、声だって・・。」
「声だって?」
そう返してきた声はシルバーそっくりになっていました。
『私のマネをして、怖がらせようとしているのかも。妖怪・・とか・・。』
と思いました。昔読んだ本にまねっこをして終いにはその人になりすまして本物と入れ替わってしまうという妖怪がいると見たことがあったからです。
『暗闇だし、そういうオバケのたぐいがいてもおかしくない・・。私は死神だって倒したんだもん。オバケなんて死神に比べたらなんでもないわ!。』
そう思うと急に強気になってきました。
「あなたねぇ、私が孤独だっていうけど、あなたこそ、周りに誰もいないんじゃないの?私の周りにはお父様、お母様、カメレオン総理にプーニャ、アラエッサにストンストン、クレヨン大臣に、野菜の精・・・そうね、クラウドも入れてあげてもいいわ。こんなにたくさんお友達がいるのよ!」
「でもあなたはここに一人でいるじゃないの。お友達は誰もいないわ。あなたこそ、うそつき!偽物よ!」
「うそつきですって?!悪いけど、私、嘘なんて今まで言ったことなくってよ!!それに、ここには好きでいるわけじゃないの。私は必ずここから出るわ。そしてみんなのいるところへ戻るの!あなたはきっと勇気がなくてここから出られないんでしょうけど、私は違う。私は武烈女王様の再来と言われるシルバー王女よ!甘く見ないでちょうだい。」
「でも誰もあなたを必要としていないかもしれない。あなたがいなくなったって誰も困らないかもしれない。それって孤独な事よね。」
「いなくなって困らない人なんていないわ。誰もが生きているとき、何かをしているでしょ?だって、道に生えている草だっていなくなった方がいい?違うわ。草だってそこにあれば、酸素を作ってくれるし、風をなめらかにしてくれるのよ。乾いた風だって植物がそばにあれば、しっとりと息が吹き込まれるわ。何でもね、一人じゃ駄目なの。誰かと影響しあって、自分が出来ているの。私だって、そりゃあ、今は立派な王女だけど、一人でいたって今の王女にはなれなかったわ。お父様の笑顔や、お母様の優しさ、カメレオン総理の厳格さ、プーチ夫人とキラップ女史の厳しさ、そしてお友達との旅で私は一人で出来ているんじゃない、ってわかったの。いろんな人の心をもらって生きているの。私が私でいる限り、私は一人じゃないわ!」
パチン
何かがはじける音がしました。
「ありがとう。」
その音と共に、偽のシルバー王女の声がそう聞こえたような気がしました。
「え?」
シルバー王女がそうつぶやき終わるか終わらないかで、ふと気が付くと、クラウドの顔が目の前にありました。
「王女!」
「シルバー王女!!」
「あれ?私・・。」
シルバー王女は目をぱちくりさせました。そこにはクラウドをはじめ、アラエッサ、ストンストン、プーニャ、そしてサヤ姫ともう1匹のウサギの顔がありました。
「よかったんだな。」
ストンストンはそう言って涙をほろりと流しました。
「ああ、私、帰ってきたのね。」
といって、シルバー王女はハッと自分の着ている服を見ると、寝間着であることに気が付きました。
「やだーー!私こんな格好でーー!!」
「ドレスでしたらご用意しますわ。鏡のお詫びにお好きな物を用意させます。せっかくですから、今晩園遊会を開きましょう。今日は十五夜ですし。」
サヤ姫はそう言ってにっこりと笑いました。
「あなたの手紙、このことを忠告してくれてたのね。私ちっとも気づかなかったの。今度からもっとわかりやすく書いてちょうだい。」
「はい。シルバーお姉様。」
その後、シルバー王女は園遊会の時に、クラウドたちを前に、鏡の中での武勇伝を聞かせました。
「疑い癖に意地っ張り癖。」
「それに嘘つき癖もなんだな。」
「いや、すぐ人のせいにする癖もだぞ。」
「あららーー、でございますですーー。」
4人は口々に話聞き終わってそう言って、あきれていました。
「よくそんなんで、魔法を解くことが出来たな・・。」
クラウドは馬鹿にしたようにそう言いました。
「しっつれいねーー。私がどんなに大変だったか聞かせてあげてるのにーー。」
「それが自慢癖だ。全くいつになったら12の悪い癖が直るのか・・。」
「もう!」
シルバー王女がプンとしたので、プーニャは話を変えようとしました。
「あらー、それにしても月が綺麗でございますですね。ね、シルバー王女様。」
「本当だーーー。綺麗ーー。」
シルバー王女はまん丸な白く輝く月を見上げました。
クラウド達に鏡の中の太陽の思いのことを聞いていたシルバー王女は、心の中で、
『あの、オバケは太陽の心だったのかもしれないわ。太陽だって、いなかったら、月が輝けないって事、わかってくれたかしら・・。』
と、思いました。
END