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クレヨン王国という世界の色をすべて司っている王国にシルバー王女という笑顔のかわいい王女様がいました。その髪は月の光を集めたような銀色で、瞳は静かな湖畔の水を集めて作ったように澄んだ銀色をしていました。
かわいらしく、国民に愛されているシルバー王女でしたが、実は12の悪い癖を持つとんでもない王女だったのです。お城の人たちは王女の悪い癖に朝から晩まで振り回されており困っていましたが、王女の笑顔を見るとなぜかすべて許してしまうのでした。
「大変なのでアール。すぐに議会を!!」
カメレオン総理は、「おお寒い」とばかりに、手をもみながら、白い息を吐いて、伝令係に伝えました。伝令係の鳩は、 「ポッポー!」 と独特の敬礼をして、すぐに飛び立ちました。
今日は日曜日。お休みで、大臣達はみんな家にいたからです。
外は一面銀世界で、大臣達が大雪の中を集まるには時間がかかりました。カメレオン総理はこの突然の一大事に、一刻も早く話し合いをといらいらしながら待ちました。
「まぁ、そう焦ってもしょうがないざます。」
休日も王国図書館に出勤していたキラップ女史は、カメレオン総理をなだめました。
キラップ女史も、その大変なことが起こったとわかった時、カメレオン総理と一緒にその話をきいたのです。そう、あの不思議な少女から。
* *
事の起こりは朝でした。いつものようにアラエッサとストンストンが門の雪かきにやってきました。アラエッサとストンストンは、シルバー王女との旅から帰り、貴族の称号をもらいましたが、今でも気ままに旅をし、そして旅に出ていないときは門番をしているのです。それに何より、二人は朝の雪かきが大好きでした。なぜなら、夜のうちにつもった新しい雪のその美しい神聖な感じのする景色を心ゆくまで眺め、、そして思う存分雪の上に誰よりも早く足跡を付ける事が出来るからです。朝寒い中、早起きするのは辛いのですが、それ以上の楽しみが朝の雪かきにはありました。
その日も二人はシャベルを持って、門までやってきました。ひとしきり白だけの景色を楽しんでから、シャベルで雪を四角く切っては、門の橋に積んでいきました。
「?なんかきこえないか??」
アラエッサは静かな冬の朝に変な気配を感じていました。
「・・なにも聞こえないんだな・・。強いて言えばひゅーーーーって・・・。風の音じゃないのけ?」
「うーん。」
二人がそんなことを話していると、おもむろにどさっと何かが二人の目の前に落ちてきました。
「うひょーーーー!」
ストンストンは驚いてアラエッサに抱きつきました。二人は、はじめ雪の固まりかと思いましたが、駆け寄るとすぐに違うとわかりました。
それは、金髪の10歳くらいの女の子でした。
「この子が空から降ってきたというのでアールか??」
城の中に運び込まれた女の子は、真っ白い肌でぴくりと動きもしませんでした。知らせを受けたカメレオン総理は、暖かくした部屋に彼女を寝かせました。毛布や湯たんぽを持ってこさせて、彼女の周りを暖めました。
「顔色が悪いんだな・・・・。生きてるのけ?」
ストンストンはアラエッサの後ろに隠れながら、おそるおそる様子をうかがいました。
「脈は確かにあるし、息もしています。」
王室の主治医をしているゲートック医師は聴診器をかたづけながらいいました。
「しかし、体温がとても低いし、まるで雪みたいだ。」
アラエッサはいぶかしげに女の子を眺めました。
「雪ん子け?雪ん子なら暖めたら死んでしまうって、よくばぁちゃんが言ってたんだな・・・。」
確かに彼女はとても低い体温で、体温計の青い棒がぴくりとも動かないほど低温でした。そして雪のように白い肌、わた雪のような真っ白な召し物を着ていました。
その場にいた全員で彼女をしげしげと眺め、本当に雪ん子なのだろうかと誰もが思いました。誰も雪ん子の話は知っていても、実際に雪ん子を見たことがある人がいなかったので、誰も判断できませんでした。
そこで、クレヨン王国王国図書館館長のキラップ女史が呼ばれました。キラップ女史は、がに股でひるむ事なく眠る白い彼女にちかづきました。
そして、顔よりも、興味深げに衣類を触り始めました。
「これは・・・この服は普通の服ではないざます。」
「というと?」
「この生地は、ある特定の地域でしか取れない水から取る繊維で出来ているざます。」
「水から取る繊維だって?そんなの聞いたことがない。」
「シルクのようにさらりとしているのにほわほわして、柔らかく暖かい。そう。ちょうど雪の結晶のように。」
キラップ女史は確信を持った目でいいました。
「じゃあ雪ん子なのけ?」
ストンストンはキラップ女史に聞きました。
「いいえ、彼女は北の奥の奥の奥地の空の上にあるというサンタの国から来たに違いないざます。」
キラップ女子がえっへんと胸を張ってそういいきるとしばらくの間、皆の間に沈黙が走り、誰かがぷっと吹きだしたのを機に、どっと皆の間に笑いが走りました。
「サンタの国??」
「サンタってあのサンタクロースなのけ??国って事はサンタがいっぱいいるのけ?」
「その通りです。」
後ろでそう声がしました。それは北風を思わすような澄んだ声でした。
振り返ると、そこには眠っていたはずのあの少女が起きあがっていました。