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広い議事堂が暖房で暖まるまでには時間がかかりましたが、大臣が全員集まるまでには、人のにぎやかさも手伝って、程良く暖まっていました。
「議会を開きます。」
カメレオン総理がトントンと皆の騒がしさを沈めるように、手元の木槌で机をたたきました。
「静粛に。」
もう一度カメレオン総理がそう低い声で言う頃には、議事堂は静まり返りました。
「では、議会を始めるでアール。えー、本日はゴールデン国王様・オパール王妃様は年末温泉旅行のため、欠席されるでアールが、代わりにシルバー王女様に参加いただくでアール。シルバー王女様、ご挨拶をお願いなのでアール。」
カメレオン総理がそう促すと、また議事堂は静かになりました。
「シルバー王女?」
皆の視線が集まる王女席には確かに王女らしき銀の長い髪に冠をいただいた女の子が座っていました。王女はちょっとうつむき加減で、返事をしました。
「は・・はい・・でございます。」
「?」
「えっと、本日はお日柄もよくーーじゃなくて・・うーん、大雪の所お集まりいただきましてありがとうでございますです。」
「王女??」
「変・・でございますでしょうか?」
あわてて口に当てた手を見て、皆は目を疑いました。その手は肉球だったのです。
「プーニャ?!プーニャではないのでアールか??」
「にゃーーー、ご、ごめんなさいでございますですーーー。」
「シルバー王女はどうしたのでアールか?!」
「王女様は議事堂は寒くていやだからと・・・。」
「で、困っておまえが来たのでアールな・・。全く王女は・・・。今王女はどこにいるのでアールか?」
「ご自分のお部屋でございますです。」
「まさか・・・まだ寝ているのでは・・・。」
「いえ、起きてはいらっしゃるのですが・・。ご用意が・・・。」
「おしゃれ3時間!!12の悪い癖の一つでアール!!それどころではないでアール。どんな格好でもいいからすぐに連れてくるのでアール!!」
あまりのカメレオン総理の勢いに、プーニャも驚いて、
「はいーー!でございますですーー。」
と、一目散に駆けていきました。
そうして呼ばれてきたシルバー王女は、ぷーーとそのかわいらしい頬を膨らませて議事堂の席に着きました。王女はまだしきりに髪を気にしているようでしたが、誰が見てもいつも通りで素敵な王女様でした。
「もうーー、なによー。議会なんて私がいたっていなくたって、変わらないでしょーー。それに臨時の議会だなんて一体何があったの?」
シルバー王女は何も連絡を受けてないのにという感じでカメレオン総理をにらみました。
「王女に連絡出来なかったのは、まだおやすみだったからでアール。プーニャに起こしにいかせましたが、ぜーんぜん起きないご様子だと聞いたものでアールからして。」
カメレオン総理は負けじとシルバー王女に冷たい視線を送りました。自分が悪かったことを知って、シルバー王女は反論できなくなり、いよいよぷーーーっとふくれました。
「では議会を始めるでアール。」
そうしてカメレオン総理は、今日の朝の一部始終を皆に話して聞かせました。そして、彼女を呼びました。あの雪のように白い彼女を。
「彼女の名前は、『サンタ・エリス』。誰もが知っているクリスマスにプレゼントを配るサンタ・クロースのお孫さんでアール。」
そう少女を紹介すると、会場は一斉にどよめきました。
「サンタクロースだって?」
「サンタ・クロースはんって、本当にいはるのどすか?」
「サンタさんのプレゼントは家族の誰かからのものじゃないの?」
大人のクレヨン達は口々に夢のない現実的なことをいいました。それを聞いたまだ子供の赤色クレヨン大臣は
「ええーー、サンタさんって本当にいるのではないのでちゅか〜〜!?」
とショックを受けたようでした。しかしそんな中にあって、シルバー王女だけはきょとんとして、
「何、みんないってるのよ。サンタさんは本当にいるに決まっているじゃないの。だって、私、毎年クリスマスの朝には起きると枕元にプレゼントがあるわ。一度サンタさんを捕まえようと思って、罠を仕掛けたんだけど、次の朝には綺麗にはずされて『いたずらしちゃ駄目だよ。』ってメモまであったわ。」
「それは、王女は子供だからですよ、マドモアゼール。それに厳重な警備の城にどうサンタさんが入るというのですか。入ってこられるわけがないでしょう?ショコラー。」
きざな黒色クレヨンがそういいました。すると、王女は、黒色大臣の方にむき、
「いるに決まってるわ。そうやって言ってる人は良い子にしてなかったから何ももらえないからひがんでいるのよ。」
と、きっぱり言い切りました。
すると、
「素敵です。シルバー王女様、さすがクレヨン王国の王女様。」
と、金髪のサンタ・エリスがキラキラとした笑顔をこぼしながら言いました。
「この任務、是非ともシルバー王女様にお願いしたく思います。どうでしょうか?カメレオン総理様。」
エリスは、カメレオン総理にそういいました。
「うーむ、しかし・・・。」
「任務って?」
「実は皆に集まってもらったのは他でもない。これは知っている人は少ないが、空の上にサンタの国という所があって、そこではサンタクロースの一族が住んでいるのでアール。彼女はそこから来た正真正銘本物のサンタの血筋の女の子でアール。彼女がこのクレヨン王国に来たのは助けをもとめに来たのでアール。皆も知ってのとおり、もうすぐクリスマスでアール。そのためにサンタさんはフル稼働で皆の希望の叶うように働いているのでアール。ところが、サンタの国では今強力な風邪がはやってしまい、皆、熱を出してプレゼントの配達に行けないのでアール。そこで、彼女が下界におりる危険をおかして、このクレヨン王国にやってきたのでアール。」
「私たち、サンタは夢の結晶で出来ているようなものです。一族の皆がひくはずのない風邪をひいたのも世界の夢の力が弱まっているのかもしれません。このままプレゼントが世界のすべての子供達や大人の心に届かなければ、ますます夢の力がなくなり、私たちのいる意味が少なくなり、ただの雪の結晶になってしまうかもしれません。そこで、このクレヨン王国に来ました。下の世界の中で一番純粋で、色で心を和ませるこの国に。」
議会に集まった皆は、信じられない思いと、この夢のように美しい、白い少女の真剣な眼差しに納得できる思いと二つの間で揺れ動きました。小さくざわつきだした頃、総理は言いました。
「そこで、大臣皆に手伝ってもらいたいのでアール。そしてエリスさんたっての願いでその総指揮者をシルバー王女に任命するでアール。意義のあるものは意見を言うでアール。」
「え?私を総指揮者?」
「そうでアール。」
「この王国で、一番純粋な方ですわ。シルバー王女様は。」
エリスはそうほほえみました。どう見てもシルバー王女より年下のエリスですが、実にしっかりしていました。あとで聞いた話では、サンタの一族は長生きで、1000年ほどの寿命があるということでした。だから、エリスも10歳くらいの姿をしていますが、実際には100年世界を見ているのです。
誰も異論を唱えないまま、議会は終わりました。
それからの1週間は大忙しでした。大臣達は木のおもちゃを作ったり、お菓子を焼いたり、得意分野で頑張りました。12人の野菜の精とアラエッサやストンストン、プーニャはトナカイをぴかぴかにして、そりを引く練習をしました。
「そりって、なかなか難しいものでナスねぇー。でも結構スピードが出て、私的には気に入ったでナス。」
「トナカイって結構かわいい。どうでもいいけど。」
「当日はあのサンタの服を着るのケロ?。まぁこの年になってもワシは赤色が似合うからいいケロも。」
「お外を飛ぶと寒くないだっち?心配だっち。」
「うーん。かわいい女の子の所ならどんどんプレゼントはこんじゃうよー、僕は。」
「サンタになってそりを引けるなんて長生きはするもんじゃわい。」
「こんな便利な乗り物があれば、雪の日もすいーーっと買い物に行けるねぇ。」
「ホワホワちゃんの所にも、僕・・プレゼント届けたいっぴ。」
「重い荷物は任せとけでごわす!」
「私はクリスマスソングを歌ってみなさんの心に夢を与えますわーー。ららららーー。」
「効率のいい配達経路なら僕に任せたまえ。この僕の明晰な頭脳で考えてあげるよーー。」
皆、とてもやる気でそう口々に言いました。しかし、ゴマータの
「あたいが道案内してやるだゴマ!」
にはみんな、いやーな顔をしました。ゴマータは方向音痴だからです。