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 あっという間に日が過ぎて、とうとうクリスマスイブになりました。
「だから、どうして僕が呼ばれてるんだよ・・。」
 クラウドは、突然シルバー王女に呼び出され、いぶかしげにしていました。
「だいたい、今まで準備は僕も手伝ったし、もう完了してるじゃないか。そりにも人は足りてるようだし・・・。」
 城の広い庭にはもう準備万端というように、そりが並べられ、トナカイたちに特製の元気の出る餌を与えているところでした。
「クラウド、あなたには私の仕事を手伝って欲しいのよ。」
 そういって、シルバー王女はちょっと照れたようにそっぽを向きました。
「君の仕事?なんだよ?君は監督だから城に残るんだろ?まさか退屈だから話し相手になんて事じゃないだろうね。」
 クラウドが
「全くわがままなんだから。」
とため息を付きそうになったところで、ようやくシルバー王女は手をクラウドにむけて差し出しました。
「?」
「手を繋いで。」
「!?。なんだって??」
「手を繋いでいて欲しいのよ。」
 シルバー王女は、どういう表情をしていいかわからないといった様子で、ぶっきらぼうに手を差し出しました。庭は篝火だけで対して明るくないのでよくわかりませんでしたが、寒さのせいなのか、シルバー王女の頬はほんのり赤らんでいるように見えました。
「寒いのか?」
「私とも手を繋いでください。クラウドさん。」
 右からシルバー王女、左からエリスに手を差し出されて、クラウドは面食らいましたが、
「3人で手を繋いで、幸せなことを考えるのです。とても幸せな気分になったら、私たちの想いで、あのそりが浮き、空を駆けめぐることが出来ます。」
というエリスの説明を聞き、クラウドは納得しました。
 合図の花火が青く雪を照らしました。
「メリークリスマス!!世界の人々に幸せを!」
 エリスが不思議な声でそう叫ぶと、シルバー王女は
「さぁ。クラウド。」
と、クラウドにむけて、さらに手を差し出しました。
 クラウドには、シルバー王女のその笑顔が花火の光で浮かび上がり、とても美しく見えました。
 3人は堅く手を繋ぎ、円になって目を閉じました。
 クラウドは一番幸せなことを考えようと、心の中を見回しました。するとさっきのシルバー王女の笑顔が頭にこびりついて、次から次へとシルバー王女との旅の思い出がよみがえりました。シルバー王女のいろんな笑顔はもちろん、泣き顔、びっくりした顔、そしてよく見た怒り顔、どれを思い出しても不思議とクラウドは心にポッと光が射すように感じるのでした。
 不意にエリスが二人から手を離しました。
「終わりました。」
 どれくらい時間が経ったのでしょうか?手を繋いでいる間は全く寒くもなく、シルバー王女にもクラウドにもあっという間に感じました。  二人が目を開けると、先ほどと何ら変わらないようにそりが広場に並べられ、皆それぞれのそりに乗っていました。ただ一つ違ったのはそりの後ろにプレゼントがのっていないことでした。
「本当に終わったのね・・。」
 シルバー王女はほっとした顔になりました。
「お二人の純粋な幸せのパワーが皆をスムーズに配達させたようですよ。ありがとうございました。」
 エリスは、にっこり笑いました。その色素の薄い青い目は不思議な光をたたえて、二人を見ていました。


 それから城では打ち上げもかねてクリスマスパーティが開かれました。
 王女もおニューの赤いドレスを着て、いつもより大人っぽく見えました。クラウドは、シルバー王女の手を取りました。
「・・どうして君はさっきの仕事に僕を呼んだんだい。きっと君一人でも十分そりを浮かせることが出来たんじゃないのか?」
 クラウドはシルバー王女の手の甲にあいさつのキスをしながら、小声で聞きました。シルバー王女も小声で、クラウドにだけ聞こえるように、
「だって、クラウドがいた方が幸せな気分になれる気がしたのよ。」
と言いました。
「あなたって、いつも顔を合わせるとお互い喧嘩になるけど、他の人と喧嘩をするときとは全然違うの。嫌なことも、いらいらした時のことでも、あなたとだったら楽しい思い出になるもの。」
 どうやらシルバー王女には、サンタさんから子供がもらえる「おもちゃのプレゼント」とは別に、大人のもらえる心の幸せもそっと届いたようです。

 バイオリンの音色がホールに響き、音楽が始まりました。
 そうして二人はさっきと同じ幸せな気分で皆が見守る中、ダンスを踊りました。


 あなたの心にもサンタさんはきましたか?


                                             <--- END--->


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