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1.消えた公爵令嬢
クレヨン王国という世界の色をすべて司っている王国にシルバー王女という笑顔のかわいい王女様がいました。その髪は月の光を集めたような銀色で、瞳は静かな湖畔の水を集めて作ったように澄んだ銀色をしていました。 かわいらしく、国民に愛されているシルバー王女でしたが、実は12の悪い癖を持つとんでもない王女だったのです。お城の人たちは王女の悪い癖に朝から晩まで振り回されており困っていましたが、王女の笑顔を見るとなぜかすべて許してしまうのでした。
そのシルバー王女の元に一人の使者がやってきました。使者は鮮やかな緑の長い髪をした若者でした。身なりはしっかりしていて、上等な黒い馬に乗ってやってきました。
「シルバー王女はどうしているのでアールか?」
カメレオン総理は、使者が待たせてある広間に向かいながら、緑のクレヨン大臣に聞きました。草色のクレヨン大臣は元気良く答えました。
「へい!シルバー王女様はただいまおしゃれ3時間中でぃ!!」
それを聞いてカメレオン総理は短くため息を付いて、
「・・・15分で切り上げるように、王女にお伝えするのでアール。」
と、草色大臣に王女の部屋に急がせ、自分は一足早く使者の元へ向かいました。
「野菜の国の使者でアールな。えー、その身なりは・・。」
カメレオン総理は使者をよーく見ました。どうもその髪の緑は菜っぱ系のようです。
「そのギザギザはほうれん草でアールか。」
「そうです。ほうれん草自治区のスピニッチ=ホーレン公爵付きの小隊長ホール=スピナールと申します。」
「ほうれん草公爵はお元気ですかな。彼とは大学時代に同期だったのでアール。」
スピニッチ=ホーレン公爵は、「ほうれん草公爵」と言うあだ名が付いていました。野菜の国はそれぞれ野菜の種類で自治区に分かれて生活しており、自治区といえどもその中では独自の政治が行われていて、国のような物でした。各自治区は、昔から代々公爵家が実権を受け継いでおり、一国の王様と同じくらいの権力がありました。でも、国の王様より民衆に近く、代々、民に慕われている家が受け継いでいるので大変平和なのでした。
ほうれん草公爵はカメレオン総理と同じ年で、大変穏やかでありながら、民のためには尽力を惜しまず、大変尊敬されている人物でした。
歳から言えば、もうそろそろ跡取りに実権をうつしてもおかしくない頃でしたが、ただ、彼の不幸は跡取りがいないことでした。
「ホーレン公爵はお元気でいらっしゃいますが、最近めっきりふさぎ込んでおみえです。というのもお耳に入っているでしょうか?2週間ほど前に公爵は養子をおとりになりまして・・。」
「養子?!それは知らなかったでアールが・・。」
「その方が1週間前から行方不明になられたのでございます。全力を尽くして探したのですが、見つからず・・そこでクレヨン王国の方でもお力を貸していただけないかと・・。」
そう、スピナール隊長が話し出したところで、草色大臣が走って広間にやってきました。
「シ・・シルバー王女をお連れしやした!」
「スピナール隊長殿、遅れましたが王女がいらっしゃったようでアール。是非このお話は王女とともにお聞きしたいでアールからして・・。」
「おお、王女様直々にご相談にのっていただけるとは光栄でございます。ここまで足を運んだ甲斐がありました。」
スピナール隊長は感激のあまり目を潤ませました。
しかし、一向に広間の入り口から王女は現れません。
「・・草色大臣?王女は・・。」
そうカメレオン総理が問うと広間の色口からちらりとネコのしっぽが見えました。プーニャです。
見ると、プーニャは何かを引っ張っているのですが、引っ張っては反動で戻されると言うことを繰り返していました。
「王女様!もうここまできたのですから広間へ入ってくださいでございますですーー。」
「いやよぅ!まだ身支度が完璧じゃないのよー。草色大臣がせかすから、余計にうまくいかなくて・。きゃっ!」
プーニャの引っ張る力に負け、シルバー王女は体勢を崩してプーニャに倒れ込み、広間の入り口に二人で転がりました。
「王女・・・。何やってるでアールか・・。」
カメレオン総理はそれを見て、冷や汗を流しながら、目を見開きました。
格好悪いところを見られてしまったシルバー王女は、急いで起きあがり、ドレスをぱんぱんとはらい、小さく咳払いして、覚悟を決めた様子でカメレオン総理と使者の隊長に近寄りました。
「お、お待たせ、ですわ。ほほほ。」
シルバー王女はさっきの事を振り切るように笑顔を作りましたが、いまいち引きつった笑いになっていました。
「王女、こちらはほうれん草自治区の使者、スピナール隊長なのでアール。ほうれん草自治区のホーレン公爵が養子をとったらしいのですが、1週間前からその彼が行方不明なのだそうでアール。それで、クレヨン王国にも協力をして欲しいと言うことなのでアールが・・。」
そう、カメレオン総理がシルバー王女に説明すると、隊長は
「え?彼?!」
と、驚いた顔をして、あわてて、
「・・ああ、言ってませんでしたか。すみません。養子はお嬢様で・・。こちらがお嬢様のお写真です。」
と、写真を差し出しました。
隊長が出した写真には、セーラー服・ルーズソックスの女子高校生が写っていました。そしてその顔を見て、シルバー王女と、カメレオン総理は思わず大きな声を出しました。
「ええっ!ホ・・ホーレソレ!?」
その少女は見慣れた顔、そう、あの
「どうでもいいけどー。」
が口癖のなげやりな女子高校生ホーレソレなのです。総理と王女は混乱しました。
「あ、でも、他人のそら似ということもあるのでアール。世の中には3人同じ顔の人がいるそうでアールから・・。」
と、カメレオン総理が気のせいにしようとすると、二人の動揺を知らない隊長は不思議そうに、
「え?どうしてホーレソレお嬢様をしってみえるのですか??」
と聞きました。
シルバー王女は興奮して、
「どうしてって、それはこっちが聞きたいわ。どうしてホーレソレが公爵の養子なわけ?!ええーー、信じられないーー。」
「え?え?どうしてシルバー王女はそんなにホーレソレお嬢様のことをお友達みたいに・・。」
「友達も何も、ホーレソレはいつも私のコンパクトで呼び出す・・・・。」
「わーーー。」
シルバー王女が話そうとすると、カメレオン総理は叫んで、王女と隊長の間に両手を振り回して、割って入りました。
そして、さっと、シルバー王女にむかい、
「王女、ちょっと。」
と隊長から、王女を離してこそこそ話しました。
「王女、王女が呼び出すコンパクトと野菜の精のことは、王国機密だからして・・。他の人には話しちゃ駄目でアール。」
「えー、どうしてー?」
「とにかく駄目だったら駄目でアール。王女のために開発した特殊装置でアールからして、絶対に秘密なのでアール。」
「わかったわ・・。」
「それにホーレソレが行方不明ということは、コンパクトで呼び出せばすぐに来るのでアールからして、ここは、隊長殿にはうまく言って、ホーレソレをあとで呼び出して、それで公爵家に返せば一件落着でアール。」
「なるほどー。それはそうね。わかったわ。」
そうして二人はそれからスピナール隊長をうまくごまかし、クレヨン王国の方でも捜索するということを約束して、ほうれん草自治区に返しました。
隊長が帰ってから、王女はプーニャにコンパクトを持ってこさせて、カメレオン総理が見守る中、真ん中のボタンを押しました。ホーレソレを呼び出すのです。
十二色の香水瓶がキラキラと点滅し、緑色のビンが一つ浮きました。
ポンッ!
緑色のビンのふたが開いて、虹色の光と星の形の光が花火のように飛び散りました。
しかし、その光の先が床に届いてもホーレソレの姿はありませんでした。
「ホーレソレがいないわ。」
「おかしいのでアール。このコンパクトはどんなところで何をしていてもシルバー王女の元に飛んでくる事が出来るようになっているのでアール。こんな事はあるはずがないのでアール。」
「壊れてるんじゃないのー?」
シルバー王女は、コンパクトを振り回しました。カメレオン総理はあわてて王女からコンパクトを取り上げました。
「そんな乱暴にしたら壊れてしまうでアール。」
「だーかーらー、もう壊れてるってば。」
「王女ー、ホーレソレがいなくなったって本当なのかー?」
話を聞いて心配になったアラエッサとストンストンがやってきました。
「そうなのよ。おまけにコンパクトも壊れてて呼び出せないしー、困ったわ。」
「呼び出せないのけ?」 「おかしいでアール・・。壊れてはいないようなのでアールが・・。」
「壊れてないならどうして呼び出せないのよ!」
「そうだ!それなら今度は違う野菜の精を呼びだしてみてはどうなのだ?他の人も呼び出せないなら本格的に故障してるって事になるのだー。」
アラエッサは名案とばかりに羽を高々とあげて言いました。
「そうね。そうしましょう。」
そうして、王女は今度は香水瓶の全員を呼び出すことにしました。
全部のビンが宙に浮き光がはじけました。
ところが出てきた野菜の精は11人いませんでした。
「えーと、誰が足りないのかしら?」
「ホーレソレに、キャーベッタがいないっぴ・・。」
「レンコポッチに・・ゴマータ・・それにトマトマトもいないぜ、ベィビィ。」
「ウメケロ婆さんもいないようじゃのう。」
「僕が考えるにどうやら女性が全員いないようですね。」
ネギックがメガネを人差し指であげながらそういいました。
「どうも変でアール・・。」
「どうして女の子ばっかり出てこないわけ?」
「これはコンパクトが壊れたというよりも、野菜の精が皆神隠しにあっていると考えた方がいいかのしれないのでアール。しかし、クレヨン王国を初めこの世界のどこかにいれば呼び出しがかかるはずでアールからして、それでもこちらにこれないと言うことは・・。」
「世界に存在しないと言うことになるね。はっきり言おう。ということは命がないか・・。」
「そ・・そんな・・そんなのいやじゃーー!!」
「ノビルジャー、落ち着くナス。そうと決まったわけじゃないナス。」
「コンパクトの呼び出しに答えられない場所・・例えば異次元に飛ばされたとか考えられるでアールが・・。」
「異次元?!」
カメレオン総理の夢のような話に皆目を丸くしました。
「とにかく異次元に飛ばされたかどうかは別にして、皆で呼び出されない6人の行方を追いましょ。『いつからいない』とか、『おかしいことはなかったか』とか聞き込みをするのよ。」
シルバー王女の意見に皆賛成しました。
そうして皆で手分けして、6人の足取りを追うことにしたのです。