「キミとひざまくら」
恋のシャレード番外編
《その1》
設定的には中学卒業後の今のジャンプ頃の設定で。
「おまえが公園に誘うなんてめずらしいな。」
ヒカルは待ち合わせ場所に現れてすぐにそう言った。
「そう?天気がいいし、公園でのんびりするのも悪くないと思って。」
アキラはにっこりと笑った。
「あっちに大きな公園があるんだ。結構広いし、たくさん人もいるし。ボクも子供の頃何度か家族でお弁当を持って来たことがあるんだ。」
「へぇ、お前んちも普通の家庭みたいな事するんだな。」
「?」
「いや、お前んとこ、親父も固そうだし、あんまりおひさまの下でピクニックというガラでもないと思ってさ・・。」
ヒカルはちょっとまずいことを言ったかなと苦笑いする。でもアキラはさして気にする風でもなく、
「ああ、そうだね。いつも言い出すのは母だったよ。張り切ってお弁当をつくってね。」
と、言った。ヒカルもなんとかごまかそうと、
「そういう時ってなんでか、お母さんって張り切るよなー。必要以上にさー。」
と笑った。
公園に着くと、広大な芝生に所々木々が植わっていて、レジャーシートを広げている親子連れやカップル、友達同士でバトミントンを楽しんでいる人たちなど、思ったよりたくさんの人でにぎわっている。
「ほんとだ。結構人がいるんだな。」
ヒカルはぽつりとつぶやいた。実はヒカルは公園に誘うなんて、アキラには失礼だが何か裏があるのではと少し警戒していたのだ。
『最近やたら独占欲つえーし、やけにいろんな所触ろうとしてくるからな・・・塔矢の奴。用心しねぇとと思ったんだけど・・これだけ人がいればそんな心配しなくてもいいかも。ほっとしたぜ。』
ヒカルは一気に気持ちが楽になった。
「あのバトミントンのラケットって持参してんのかな?」
「いや、あそこのログハウスで貸してくれるよ。ボールとかいろいろレンタルがあるんだ。」
「へぇー。」
ヒカルはわくわくした。いつもアキラと出かけるというと、碁会所とか博物館とか美術館とか日の当たらない所ばかりだ。久しぶりにおひさまの燦々と照る中で運動するのは想像するだけでも楽しそうだ。
「オレ達もやろうぜ!」
ヒカルは元気良く走り出す。にこにこ笑いながらヒカルを眺めてついてこないアキラに、
「早く来いよぉ。何突っ立ってんの?」
と、ヒカルが立ち止まって手招きすると、アキラは満足そうににんまり微笑んだ。
『早くぅ・・だなんて・・。進藤大胆だね・・。』
塔矢アキラは真っ昼間からちょっぴり妄想気味のようである。アキラの目には「進藤フィルター」がかかっていて、ヒカルの周りはいつも星を散らしたように見えているのだが、今まさに駆けていき立ち止まり振り返るヒカルの姿はまるで映画のワンシーンのように劇的に映っていた。そのシチュエーションにうっとりとしてしまう。
「いけない・・。まだまだこれから楽しみがたくさんあるというのに・・ボクはこんな序盤から嬉しくて天に昇ってしまいそうだよ・・進藤。」
アキラはブツブツつぶやいてちっとも追いかけてこないので、ヒカルはため息をついて、
「もうしらねぇ・・。」
と、構わずにログハウスの方へ駆け出す。
「あ、進藤。あんなに一生懸命走って・・。ふふ・・知ってるよ・・進藤。ボクも勉強したからね。それは、いわゆる『追いかけてごらんなさーい。うふふーあははー。』っていうカップルの定番、『追いかけっこ』だね!」
いったい何の媒体で勉強したというのだろうか。アキラはうんうんと一人頷いて、きらんと目を輝かせた。
「加速装置!」
そう叫ぶと、砂煙を上げてヒカルを追尾する。そして、あっという間にヒカルに追いついて、ヒカルの肩を掴む。
「ん?」
「つ・か・ま・え・た。」
アキラの無駄にすがすがしい笑顔とスタッカートの聞いた言葉に、ヒカルはなぜか寒気が走った。
「ひっ。」
「ん?『ひっ。』じゃないだろ?『きゃっ。つかまっちゃった。うふ。』だろ?全く進藤の照・れ・や・さ・ん。」
「その区切って話すのやめろ!」
ヒカルの怒鳴り声に、周りの目が集まる。ヒカルはハッとして、思わず肩に置かれたアキラの手から逃げるように身体を引く。
するとアキラはその宙に浮いた手を、ヒカルの手に伸ばして強引に繋いだ。
「おまえ!」
ヒカルは、焦ってその手を振り払うが、振り払うと同時に、瞬時にアキラは目にも見えない速さでヒカルのもう片方の手を捕まえる。
「!」
こうなるとイタチごっこだった。まるで少林寺のように端からはものすごい速さでチョップを繰り出しているように見えたが、実は、手を握り、振り払い、握りの繰り返しの戦闘を繰り広げているのだ。
「ママー、あそこのお兄ちゃん達変だよー。」
「まーくん、指差すのやめなさい。」
そんな声が周りから聞こえて、ヒカルが一瞬ひるむと、アキラはチャンスとばかりに、がばっとヒカルに抱きついた。
「うわぁ!!」
「本当に進藤は照れ屋さんだな。」
ヒカルは、反射的にアキラを張りとばす。心臓がバクバクいっている。アキラは芝生に倒れたままだ。ヒカルは真っ赤になりながら、無視してガシガシとログハウスの方へ歩き出す。
「ホント油断ならねぇ!人目があろうがなかろうがあいつには関係ねーみたいだ!!信じられねぇ!」
ヒカルは、そう言いながらも帰ろうとかは微塵も思わず、アキラととにかく何かして遊んでお茶を濁そうと考えていた。
--2へ続く--
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