1.AKT(02.08.16)あひると王子さま
〜Der Nuβknacker:Blumenwalzer〜
《訳:くるみ割り人形:花のワルツ》
「水は流れはじめた・・時間は動き出した・・。さぁお話を聞かせておくれ・・。」
(ドロッセルマイヤー)
 金冠町・・それは不思議が不思議でない世界。その世界は死ぬことを拒んだ物書きが書いた物語と現実の世界が入り交じったちょっと変わった町・・・。

  その町の金冠学園に通う「あひる」はちょっとおっちょこちょいでドジな女の子。長いおさげがかわいらしく跳ね、元気いっぱいです。
 今日も朝6時の起床の鐘を、学校の「始業の鐘」と勘違いしてしまいました。急いでバレエの練習着に着替えて、ホールへと飛び込みます。しかし、時は朝の6時。ホールはがらんと静まりかえっているのでした。
 あら?ホールに誰かいます。あひるのあこがれの人「みゅうと」先輩です。みゅうとは学園でも一・二を争うバレエの上手な男の子です。白い髪は柔らかく、無口でぼんやりしている事が多いので、学園の中でも誰も彼のことを詳しく知りません。いつも寂しげな表情のみゅうと。あひるはその表情に惹きつけられます。
「笑って欲しい・・。」
 そう思ううちに、いつしかあひるの心はみゅうと先輩とパ・ド・ドゥを躍れたら・・と憧れているのです。でも実際、あひるのバレエはへたくそで、それは今は遠い夢のようにも感じられるのでした。それにみゅうとには学園一のバレリーナで美人の「るう」という恋人がいることは周知の事実でした。
 柔らかな朝日さすバレエホールで、みゅうとは華麗に踊ります。その美しさに、まるで何も迷いのないようにも見えるのですが、あひるにはみゅうとがちっとも楽しそうに踊っていないと思えるのです。
 誰も気づかない・・あひるだけが気づいているのでしょうか?みゅうとの瞳には何の感情もないようにいつもさざ波一つたっていなくて、まるでお人形のよう・・。

 あひるがみゅうとの踊りにみとれて歓声をあげると、みゅうとがあひるのことに気づきました。目と目が合い、あひるの胸は高鳴ります。あせってその場を去ろうとするあひる。しかし、あせりすぎてすってんころりん。
 しかし、転んでもちっとも痛くありません。みゅうとがさっと駆け寄って、あひるが床に激突しないように支えてくれたのです。突然の大接近に真っ赤になるあひるですが、その夢のような出来事も長くは続きません。
 ホールの扉が開いて、黒い髪の男の子がむっつりとした顔で入ってきて、みゅうとをしかりつけます。
「出掛ける時は言っていけ!」
 その男の子は学園でも女の子の人気が高いふぁきあ先輩。みゅうととは寮が同室で、いつも一緒にいます。ふぁきあは始終怒っているような態度で、みゅうとと関わったあひるを睨み付けます。
 あひるをかばった時に足をくじいてしまったみゅうとは、何日か学校を休むことになりました。謝りに行こうと思うあひるですが、ふぁきあに邪魔されて会うことさえできません。
 あひるは寮の自分の部屋から向かいのみゅうとがいる寮の部屋の窓の灯りを見ながら、ため息をつくように言葉をつぶやきました。
「みゅうと先輩のために私が何かしてあげたい。何かしてあげられるなら死んでもいい・・。」
と・・。
 何気なく何気なく言った言葉。しかし、その言葉を聞いている者がいました。その者の影はあやしく現れては消え・・現れては消え・・。身の回りをとりまく影の中に現れ、次の影に映っていくあやしい気配。それはあの物書きの影。死を拒んだ・・あの物書きドロッセルマイヤーの・・。
 ドロッセルマイヤーはあやしい言葉をあひるに浴びせかけます。その言葉はあひるに届いたり届かなかったり・・。あひるには誰だかわからないのに、ドロッセルマイヤーはあひるのことを良く知っているようです。
 あくる朝、巣から落ちそうになった雛を助けようと窓から飛び降りたみゅうとを目撃したあひるに信じられないことが起きます。頭の中で昨晩の老人の声が響き渡り、自分も知らなかった自分の秘密を突然に思い出したのです。自覚によって引き起こされるメタモルフォーゼ。あひるは「プリンセスチュチュ」へと変身したのです。
「あの人を救いたい。」
 その一心が彼女に力を与えたのです。
 みゅうとを救ったプリンセスチュチュ・・しかし名前を聞かれても・・名乗ることができません。同時に思い出してしまったのです。自分はプリンセスチュチュであるのと同時に・・本当は人間の女の子ではなかったことを・・・。

 さてさて、お話はまだ始まったばかり。心躍らせて、ゆっくりお話の小道をすすんでいきましょう。
《織夜的チュチュ感想》
 不思議が不思議でない金冠町は、第一話を見ていくうちにすっかり私の心の中にある町となりました。バレエの先生が猫でも全然驚きません(笑)。なんだか、不思議といえば不思議なんですけど、ちっとも不思議じゃないような気がしてくるのです。だって、私が知ってる常識が本当の世界を作っているなんて、私の思いこみかもしれませんもの。

 バレエは全然わからないので、バレエ的な伏線はまったくわかりませんが、画面的なお話的な伏線はいくつか感じました。ちょっとした小物にたくさん伏線がはってあったように思います。
 何でもない当たり前の小さな事でも全部特別・・それが物語の世界。たくさんある世界の偶然から、選ばれた必然だけが画面をいろどる。それはとてもさりげなく。
 そんなところも、すっごくメルヒェンだと思いました。

次のお話へ

めにゅー