5.AKT(02.09.13) 火祭りの夜に
〜Bilder einer Ausstellung: Die Katakomben〜
《展覧会の絵:カタコンベ》
「私はただ誰かのために輝いていたいだけ・・優しく暖かい光で包み込んであげたいだけ・・。
それなのにいつしか私は忘れられた・・。」
(ランプの精)
 あひるはバレエのレッスンを受けていました。順番に壁から壁をクルクル回るステップで行き来する練習です。突然、ぴけとりりえが、
「今晩の火祭りに着ていく衣装は決めた?」
と聞いてきますが、あひるは本当はただのアヒル。この町の祭りの事など知りません。
 火祭りというのは、金冠町のお祭りで、昔の人の格好をして、たき火を囲んで踊るのです。そして、そのメインイベントは、カップルで火の周りを踊り、一番素敵だったカップルには『金の林檎』が贈られ、その二人は永遠に結ばれるという言い伝えがありました。
 授業中に別の事を考えていたあひるに、ネコ先生は罰として上級クラスの練習室を掃除するように言いつけました。あひるがバケツとモップを持って練習室にいくと、そこには寂しそうに窓辺に立つ、王子様のような格好のみゅうとがたたずんでいます。
「るうをずっと待っているんだ・・。」
 今晩の火祭りの練習にるうと待ち合わせているみゅうとですが、ずっと一人で待っていて寂しさがピークに達しているようでした。あひるの手をとり、二人で踊りを踊ります。夢のようなひとときに、あひるは幸せいっぱいになりました。しかし、それはるうの代わりでしかありません。嬉しい反面、落ち込むあひるですが、みゅうとを探しに来たふぁきあの姿を見て、二人のやりとりに興味津々です。
 あひるとみゅうとが踊っていたところを見ていたふぁきあは、
「あんな奴に頼まれたからって踊ってやる必要はない。」
と怒っているようです。しかし、次にみゅうとが発した言葉にさらにふぁきあは激昂しました。みゅうとからあひるを誘ったと知り、ふぁきあは怒りにまかせてみゅうとに詰め寄ります。
「お前の名前を付けて、救ってやったのはオレなんだぞ!」
 ふぁきあはるうと火祭りに行くというみゅうとの腕を掴み、図書館へ連れて行きました。
 今は放課後で図書館には誰もいません。ふぁきあは逆らうみゅうとを図書館の倉庫に閉じこめて鍵をかけました。それを見ていたあひるは、必死にみゅうとを助けようとドアを引っ張りますが、ぴくともしません。
 思わず「心のかけらを取り戻したんだから!」と口を滑らせたあひるを、ふぁきあは乱暴に壁に押しつけ、
「何を知っているんだ?!るうが話したのか?」
と、詰め寄ります。あひるは、そのふぁきあの一言で、ふぁきあも・・そしてるうも、みゅうとが物語の中の王子様だと知っていると言う事を知りショックを受けました。心を戻すなどくだらない・・戻してもオレがみゅうとを閉じこめて感覚などなくしてやると、ふぁきあは冷たい目であひるを睨み、去っていきました。非力な女の子のあひるにドアは開けられないと思ったのでしょう。

 その頃、倉庫の暗闇におびえるみゅうとに、地下からの声が届きました。その声は不思議な響きで、暖かさを持っています。床のブロックが赤く光り、みゅうとをいざないます。
 あひるは、倉庫の外の窓が割れているのに気づき、アヒルの姿になってその割れているすき間から入ろうとします。ところが立て付けがゆるんでいた窓ごと落下し、そのまま地下に転がっていってしまいました。
 地下の壁を伝う水滴のおかげで人間の姿に戻ったものの、地下の空間に響く妖しい女の人の声にあひるはとまどいながら進みます。声はなぞなぞをあひるに投げかけてくるのです。
 町の地下は迷路のようになっているようでした。棺桶があったり骸骨が通路を転がっています。忘れ去られたような印象の地下道はどこまでも続き、あひるは暗闇の中、なぞなぞを考えながら進んでいきました。広いところに出ると、壁が迫ってきて、密室になってしまいました。しかし、そここそがみゅうとが閉じこめられている場所だったのです。
 プリンセスチュチュになったあひるを、暖かな光が照らします。いろいろななぞなぞの答えはすべて「ランプ」が答えだったのです。
 ランプの精は悲しんでいました。昔・・まだ電気やガスががなかった頃、自分は人々に必要とされていました。自分は人々を照らし、ただ誰かのために輝きたいだけなのに、人は自分を捨て去ってしまい、忘れていった。本当は必要じゃなかったのだと自暴自棄になっているようでした。チュチュはランプの精の暖かい光の中で踊りながら、ランプの精の本当の気持ちを見つけました。
 暖かさや輝きを人に押しつけても、それは本当の意味でランプの精の目的を受け入れてはもらえない事を・・そして、みゅうとを解放して欲しいと。ランプの精から心のかけらが離れました。心のかけらは「慈しみの心」。心のかけらがみゅうとに戻ったとき、みゅうとは目を覚ましました。
「待っている人がいるんでしょ?」
 チュチュは、優しく微笑んで、みゅうとをるうの元へ行かせます。るうのもとに行かせる事に決して迷いがありません。例え、それが自分とみゅうとの時間の終わりを告げようとも。
 しかし、火祭りの終わった広場で、素敵に踊るるうとみゅうとを見て、あひるの心は少し痛むのでした。

 その様子をもう一人見ている人がいました。ふぁきあです。
 ふぁきあはるうがみゅうとに心のかけらを戻しているのではないかと疑っていて、離れさせようと思っていました。昼間、るうが図書館で「王子とカラス」の本を読んでいたのも気になります。ふぁきあは一層みゅうとの周りに気を配る事を決意するのでした。


 さぁ、指し示す暖かな光の奥底にある暗闇を目指して、一歩一歩恐れることなく進んでいきましょう。
とり戻した心のかけら■慈しみ
《織夜的チュチュ感想》
 みゅうとを閉じこめるという強行に出たふぁきあですが、差し入れを持ってくるなど案外みゅううとを気づかっている事がうかがえます。
誰とも関わって欲しくないと願う独占欲はただの独り占めしたいわがままではないようです。
 金の林檎というキーワードが出てきましたが、これはバレエにそう言うのがあるのでしょうか?私が知っている金の林檎は、『花物語』
に登場していて、神様の庭になっており、どんな病気も治るとされた果実でした。女神に思いを寄せる青年が、女神の病を治そうと、禁断の果実である金の林檎をもぎとり、その青年は罰としてある花に変えられてしまうというものでした。
 今回、何気なく出てくる金の林檎にも何か、深い意味があるのではと勘ぐってしまいます。
 ランプに精霊が宿る事を考えると、このランプは相当大事にされていたのでしょう。大事にしていると、物には霊が宿ると日本でも古来から信じられています。(千と千尋にも出てきてたような『つくも神』というやつです。)使い捨ての世の中ですが、物は大事にしたい・・売る方も長く使えるいい物を提供して欲しいと思いますね。そして、物を大事にする心も忘れてはいけないなと思いました。
 また、人もそうです。都合のいいときだけ利用したり、簡単に縁を絶ちきったり・・裏切ったり・・。裏切られた事で信用できなくなって疑い・・人とのつきあいを避けたり・・そんな悪循環にならないためにも、自分を無条件で心配してくれるような友達を少なくてもいいから持つ事が自分の心を暖かく照らしてくれる光になると思います。

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めにゅー