4.AKT(02.09.06) ジゼル
〜Giselle〜 《ジゼル》
「きらいだ・・この顔。くだらない感情「寂しさ」 なんかを取り戻したこんなイヤな顔・・。
心などお前には必要ない!必要ないんだ!!心など欲しがるな、いいな!」
(ふぁきあ)
 チャラララーチャチャ♪
 練習場のホールには、午後の優しい光が差し込んで、ペンギン先生の奏でるピアノの伴奏が響いています。
 ホールの真ん中では、特別クラスの授業中。踊っているのはるう。綺麗に楽しそうに踊るるうを、あひるたちは教室の2階から見ていました。さすがに特別クラスでもトップのるうです。踊りは細やかで優雅でした。
 あひるは、自在に踊るるうを見て、自分は「プリンセスチュチュ」になればなんでも踊れるけれど、本当の自分はちっとも上手に踊れない・・「プリンセスチュチュ」である自分は確かに本当だけど、それは本当に「真実の自分」なのか?と、自問自答していました。
 長時間のソロパートに、とうとうるうも疲労の色が隠せなくなってきていました。そして、とうとう限界が来ました。るうの足がガクッと崩れたのです。それにいち早く気づいたのはあひるでした。
「あぶない!」
 ついつい上げてしまった大声。みんなはその声のせいでるうが集中力をなくし、転んだと思いました。
 ネコ先生にあひるは居残りを命じられました。特別クラスの授業を邪魔した罰として。しかし、ネコ先生にはわかっていました。本当はるうはあひるの声のせいで転んだのではないことを。居残りは口実で、本当は頑張るあひるに「見習いクラス」から「普通クラス」に戻してあげようという優しさでした。
 あひるが一人で居残り練習していると、窓の下で、みゅうととるうが腕を組んで出掛けていくのが見えました。
「告白すれば光の粒になって消えてしまう。」
 そんなるうの言葉を思い出し、せつなくなるあひるですが、
「告白なんかする気ないんだもん!」
と、強がって練習に身を入れることでふっきろうとしました。途中友達のぴけとりりえも一緒に練習に加わり、ペンギン先生が特別にピアノを弾いてくれて、とっても踊りが楽しくなってきたところに、ネコ先生が現れました。そして、あひるを、「普通クラス」に戻してくれるのでした。

 一方みゅうととるうはデート中。みゅうとは、寂しいという気持ちを思いだしたために今まで言わなかったようなことを口に出すようになりました。
「るうに会っても『寂しい』という気持ちは消えないんだ・・。」
 そう言われて、るうは愕然とします。確かにみゅうとに変化が訪れています。ふぁきあが心配していたように。
 ふぁきあは、るうがみゅうとに気持ちを思い出させているのでは・・と詰め寄りますが、るうは知らないと真っ向から対立します。ふぁきあは寮の部屋に戻っても、みゅうとに執拗に迫りました。
「心など欲しがるな!」
 ふぁきあの言葉に、うなずくみゅうとですが、その瞳はどこかうつろなのでした。


 あひるは夕方、寮の前で誰もいない空中に向かって謎の言葉を話しているみゅうとを見つけました。すごい風が吹いて、急いで追いかけるのですが、見失ってしまいました。探しに行こうとすると、るうと出会いました。
 るうはあひるがみゅうとを探していると知ると、一緒に探すと着いてきました。
 町に霧が立ちこめてきました。辺りも暗くなり、人捜しには向かない時間が近づいているのを感じます。
 そんな中、葬儀の列が現れました。列をなして泣き歩く人々の真ん中には棺桶・・その棺桶の傍には捜し人がいました。
「みゅうと!」
 急いで追うのですが、みゅうとと葬儀の列がすすんでいった先は行き止まり。塗り固められた壁があるだけで何もありません。
「どういう事?」
 そこへ、エデルがやってきました。エデルはある物語の話をしてくれました。エデルが言うには、恋人に裏切られ絶望して死んだ乙女が、身代わりに違う男をあの世へ連れて行く・・そんなお話と同じ運命をたどった乙女がこの町にはいて、物語と同じように身代わりの男を捜しているというのです。
「お話は本当になるわ。お話と現実が混じり合うこの町で・・。」
 突然、町の鐘が不気味に鳴り響き、突き当たりだったはずの壁に通路ができています。あひるとるうは、みゅうとがその身代わりとなる男なのだと察しました。急いで助けに行かなければなりません。

 屋敷の中庭には、数人の白いチュチュを着た女の人がいて、その真ん中に地面から現れたウィリの乙女が立ちました。ウィリの乙女はみゅうとを誘い、手にしたローズマリーの一枝をみゅうとに渡そうとします。
「ジゼルのローズマリー?!いけない!あれを受け取ったらあの世に連れて行かれるわ!」
 るうは乙女の手からローズマリーを払い落とし、みゅうとを救い出そうとします。ウィリの乙女は激しく踊り、るうもそれに対抗するように踊ります。しかし、るうには体力が足りません。るうが踊りきれず倒れてしまい、踊りの対決は、ウィリの乙女が勝利しました。ウィリの乙女は再びローズマリーの枝をみゅうとに手渡そうとしています。

 あひるは、踊りの上手なるうでさえかなわなかった相手に、「プリンセスチュチュ」に姿を変えて、挑みます。
「私もあなたと同じ、愛する人とは結ばれない運命なの・・。」
 チュチュの言葉にウィリの乙女は、チュチュに問いかけます。
「あなたは私と同じ運命なら、どうしてあなたの踊りは悲しみに満ちていないの?」
「それは、私の心に悲しみに負けないたくさんの思いがあるから・・。」
 ウィリの乙女はハッとしました。自分は今、悲しみにさいなまれてはいますが、以前はもっとたくさんの思いがあったはず・・そして、身代わりの男をあの世に連れ去っても、決して自分の悲しみは癒されないことを知るのです。
「あなたの悲しみは私にはわからない。でもあなたが十分悲しんだことはわかる・・。」
 チュチュの言葉によって、ウィリの乙女は悲しみから解放され、チュチュの手には『悲しみ』という心のかけらが残りました。
 みゅうとに『悲しみ』の心のかけらを返すと、みゅうとはその心の感覚に涙を流しました。涙・・それは心がないと流すことのない真珠の輝き・・。

 しかし、ドロッセルマイヤーは不気味につぶやきます。
「王子に戻る心は、「悲しみ」「寂しさ」・・そんなつらいものばかり。果たしてそれが王子様を幸せにできるのかね?」
 あひるはその事に気づいているのでしょうか。王子の心に人間の負の気持ちばかりが戻っていることを。


 さぁ、横たわるミルク色の霧の中を、一歩一歩手探りで進んでいきましょう。
とり戻した心のかけら■悲しさ
《織夜的チュチュ感想》
 ローズマリーの花言葉は「記憶」「思い出」「私を思って」。しかし、亡者であるウィリの乙女が差し出すローズマリーを受け取るみゅうとは、本当に思いだして欲しい人ではない赤の他人である。それでも連れて行こうとする乙女と、同じ寂しさを持っている乙女に、自分の身がどうなるか構わずついていこうとするみゅうと・・。かつて、みゅうとにも悲しい恋をさせてしまった後悔の念が、心の底の記憶のかけらにあるのだろうか・・。その相手がお話の中でのプリンセスチュチュだとしたら、王子様は本当はチュチュを愛していたことにはならないのか・・。

 あひるちゃんがチュチュとなって取り戻す心のかけらは確かに『マイナスの感情』ばかり。できればだれでも忘れていたい心。そういう心ばかりを見つけてしまうあひるちゃん・・それは残酷な物語の結末への暗示ではなく、『プラスの感情』である、「楽しさ」「やさしさ」「嬉しさ」はあひるちゃん自身がみゅうとと触れ合うことによって、みゅうとの中から春先の草木のように新芽がでてくるから、与えなくてもいいのだ・・という事になるのだと信じたい。
 「悲しさ」「寂しさ」「くやしさ」というものは、誰かと触れ合うことで生まれる感情。それは、誰かに与えられる感情。
 でも楽しさや優しさは泉のように湧き出してくる感情であり、誰かに与えることができても、与えられるものではないと思うから・・。

 ジゼルのお話をネットでいろいろ調べて読んだが・・。男って奴は・・・・。婚約者いるのに純真な乙女に手を出して・・、そんなの後悔してても、ジゼルは許さずにあの世へ連れて行くべきだと思った。(そういう奴はこの先また同じ事を繰り返すよ!)
 いやむしろ、見限るべきだと思った。・・・怖い?
参考:「ジゼル解説
ジゼル・ストーリーランド

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めにゅー