3.AKT(02.08.30) プリンセスの誓い
〜Darnraschen:Panorama〜
《いばら姫:パノラマ》
「『美貌』と『かしこさ』と『強さ』は与えられたけど、ただ一つ、王子様とは結ばれない運命を背負ったお姫様・・。
告白した途端、光の粒になって消えちゃうのよ。」

(るう)
 暖かな日差しが降り注ぎ、とてもいいお天気です。
 なのに、あひるはかわいそうに、薄暗いレッスン室で頭の上に本を乗せて歩く稽古です。見習いクラスに落とされたあひるを心配して、友達のぴけとりりえが特訓してくれているのです。
 しかし昨日は『プリンセスチュチュ』になって、みゅうとに初めて心のかけらを返すことができたあひるは、浮かれ気味。勘のいい二人の友達はあひるに詰め寄ります。
 あひるは、本当のことを言うわけには行かないので、夢の中のお話と言うことで心を失った美しい王子様の話をしました。すると、ぴけもりりえも、それは有名な物語「王子とカラス」のぱくりだと言うではありませんか。この世界では、その物語は常識だったのです。
「でも、みゅうとがお話の中の王子様と知っているのは私だけ・・。そして救えるのも私だけ・・。」
 あひるは、そう思うことで自分を励ましました。

 レッスン室の窓から、るうとみゅうとが、一緒にピクニックに出掛けるのを見かけたあひるですが、レッスン室にみゅうとを探しに来たふぁきあには嘘を言って知らないふりをしました。ふぁきあの態度が偉そうだからです。
 あひるは、やっぱり気になって、みゅうととるうが行った方向へ向かってみました。公園の大きな木の陰で、いい雰囲気のみゅうととるうを見つけると、やっぱり声はかけられなくて、植木の影に隠れてしいました。
「私のこと好きって言って。」
 るうの言葉に、素直に「好き」と答えるみゅうと。でも、るうは心のこもっていないオウム返しのその言葉にむっとしたのか、わざと持ってきたジュースをこぼして、その瓶に水をくんでくるようにみゅうとに命令するのです。

 その様子を見ているしかないあひるは、あきらめて帰ろうとしますが、途中水をくんで戻る途中のみゅうとに偶然ぶつかってしまいました。見ると、みゅうとは枝で手の甲を怪我して、血がにじんでいます。しかし、心がないみゅうとは、
「好きって事も、痛いって事もわからない・・。」
と、悲しげに言うのです。あひるは、みゅうとに心のかけらを戻せるのは自分だけという使命に決意を新たにします。
 ところが、みゅうとの汲んできた水をみゅうとの傷の手当てに使ってしまい、あひるは水を汲みに行かなければならなくなりました。しかし、なかなか水をくめるところが見つかりません。

 あきらめかけた頃、レストランが見えました。
 そのレストランの名は「EBINE」。あまりはやっていないようで店はひっそりしています。水をもらおうとノックすると、中から女の人がでてきました。女の人は、このレストランのコック「えびね」。レストランと同じ名前です。
 水をもらうだけのつもりで来たレストランですが、えびねの熱烈な歓迎に断り切れず、二人はご馳走になることにしました。しかし、えびねのはしゃぎようは異様でした。

 えびねに触れた時、あひるのルビーのペンダントが光りました。えびねに「王子の心のかけら」が入り込んでいると直感したあひるは、様子を見ます。えびねはどんどん料理を運んできます。それはどれもおいしそうです。
 しかし、湯気が立っていた料理も、テーブルに置いた途端氷のように冷たくなってしまうのです。
 どんどんどんどん料理を持ってくるえびねに、あひるは、「ヘンゼルとグレーテル」のお話を思い出します。あひるとみゅうとはこのままどんどん食べさせられて、最後には丸々太った自分たちが食べられてしまうのでは・・。あひるは庭にあるお墓を見て、ぞっとしました。あわてて、逃げようとするあひるですが、みゅうとは全然気にしてない様子で冷たい料理を黙々と食べていて逃げようとしません。

 そんなあひるをいぶかしげに呼び止めるえびねの目には何か異様な物を感じました。あひるが必死に「もう料理はいらない」ということを説明すると、えびねの目はきびしく光り、あひるだけを追い出して、食べ続けているみゅうとだけをレストランに鍵をかけて閉じこめました。

 あひるは、みゅうとの危機を救うため、プリンセスチュチュになりました。赤い光に包まれたチュチュは、レストラン内に入り、えびなの『本当の心』を見つけるために、踊りに誘います。みゅうとを離したがらないえびねからみゅうとをツタで作ったカゴの中で眠らせ、チュチュはえびねの心を知るために、ツタの船で近寄ります。
 えびねは、最愛の夫を病気でなくし、一人レストランを切り盛りしました。しかし、夫を失った寂しさから、なるべく長い間食事を楽しんでもらおうと、どんどんどんどんお腹いっぱいにさせて幸せにしようとしました。そのせいで料理は料理の力を失い、冷たくそして味のしないものになってしまっていたのです。えびねの本当の心は、この料理のように「寂しさ」から、悲しみという名の冷たい氷に閉ざされ、まるでイバラに囲まれて眠る「いばら姫」のように心を閉ざしていたのでした。
 チュチュは死んだ夫が残してくれたのは、悲しみや寂しさだけではなく、暖かい思い出や楽しかった記憶・・そして、愛のこもったレシピの数々を残してくれていたことをえびねに気づかせました。えびねの心は「寂しさ」と引き替えに「強さ」を手に入れ、えびねの心の隙間にいた『王子様の心のかけら』はチュチュの手からみゅうとの心に戻りました。
「ありがとう。」
 手をとられお礼を言われるものの、チュチュはこのままみゅうとと一緒にいられません。急いで逃げだし、あひるの姿に戻りました。

 そこへ、るうとふぁきあが一緒に、みゅうとを探しに来ました。みゅうとのいつもと違う言葉と態度に、二人は不審感を抱きました。
「プリンセスチュチュがボクに触れていった・・。」
 みゅうとの言葉にるうは馬鹿にしたように笑い、
「チュチュは物語上の人物じゃないの。賢さと美貌は持っていても決して王子様とは結ばれない。悲劇のお姫様で王子に告白すると光になって消えてしまう。」
と言うではありませんか。
 プリンセスチュチュであるあひるは確かにここにいます。物語の人物ではありません。しかし、もし物語と同じ運命ならばどうでしょう。あひるは悲しみのあまり駆け出しました。何度も何度もるうの言葉が頭をこだまして、あひるの心を締め付けるのでした。

 さぁ、まだ物語は動き出したばかり。物語の船に乗って、水面を滑ってゆきましょう。
とり戻した心のかけら■寂しさ
《織夜的チュチュ感想》
 今回のお話はものすごく話の中に引き込まれました。えびねの本当の心をしるくだりでは、涙が出そうになりました。大切な人を失ったその悲しみが痛いほど伝わってきたからです。そして・・その後のチュチュの真相。チュチュも形は違えども大切な人とずっとずっと幸せには過ごせない運命にある。
 大切な人を手に入れて、無くしてしまう悲しみと、最初から手に入れられない悲しみ・・その二つがぐさりぐさりと私の心にきました。
 私は賢さも、美貌も、強さもないけど、大切な人と今一緒にいます。でもえびねさんのように亡くしたら・・と思うとその悲しみは本当に人生を壊してしまうかもしれないと思いました。
 そして、大切な人とは、ダンナさんだけでなく、友達や親や兄弟も同じです。誰を失っても膨大な悲しみがやってきます。大切な人がいない人はいないでしょう。誰かを大切に思っているはず。その大切な人を大事にしなくてはいけないし、大事にしあうということは思いやり以前の当たり前の心の美しさを与えてくれるはずだと思いました。
 だから、きっとけなげで一生懸命に他人であるみゅうとを思いやり、そのために何かしたいと望む姿がこんなにまぶしいのでしょう。自己犠牲というときれい事のように聞こえるかもしれませんが、それは、大事な人を大事にすると言う当たり前でありながら、人が忘れがちな心の一部分なのだと思います。

 ちょっとくだけた感想としては、みゅうとに『好き』って言ってもらえたら・・と、想像して暴走しているあひるちゃんがめちゃめちゃキュートでした。
 そしていつになくたくさんしゃべったみゅうとが良かった。トイレに行くあひるに向かって、「どぞ」っていったのが最高にツボでした。かわいいーー!(かわいいばっかりだな)

 えびねさんは、カントリー人形みたいでしたね。中はわら?みたいな。ちょっとオズの魔法使いのかかしに似てるような感じで・・。妻の名前をお店につける辺り、相当のラブラブ夫婦であったことがうかがえますね。

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めにゅー