<始まりのお話>




「オマエ、野良か?」
開口一番にそう聞かれてもなあ。第一、そっちは俺の言葉分かんのか?ゼスチャーでもしろってか。野良のゼスチャー・・・難しいって、それ。うしゃぎの言葉なんて変なもん、大人にしか通じた試しはないし、それも耳を傾けてくれる物好きなんか会った事ないし。大抵は聞こえない振りするだろ、こんな弱いもんの声。
「・・・野良だったら、何だよ」
俺は考えた末、普通に答えてみた。それでこいつが言葉分からなくても仕方ないし俺のせいでもないからな。
「野良っぽいなあ。何や雰囲気すさんでるんちゃう?なあ?」
見た目は可愛い普通の人間の女のコなのに、言葉遣いがおかしい。小学生?全く変な子供が増えたもんだ・・・。
「オマエ、友達なって」
がしっ
「うおΣ( ̄□ ̄;)!?」
いきなり身体を鷲掴みにされる。お前どんな教育受けたら、これが友達にする仕打ちだって思えるんだっ!!(じたじた)
「キョーイク、なあ」
「(ぎょっ)!?」
俺は驚いて暴れるのを止める。今、こいつ、俺の思った事が分かったのか?
「キョーイク、あんま受けてへんねん、私。あ、大人しなってくれるん?」
「・・・・?」
ほんの少し笑っただけのその表情は、何故か俺の気を引いて。そのまま、そいつの家に連れて行かれる間も、大人しくしていた。

「ゆきっ!!!」
「(びくううっ)」
そいつの家(多分)につくなり、一人の大人の声が怒鳴り響いた。思わず身を強ばらせていると、その声がちょっと溜め息まじりになって続く。
「・・・・お前、今日も学校行かなかったんだって?」
(キョーイクあんまり受けてへんねん)
さっきの言葉を思い出す。いわゆる、登校拒否ってやつか・・・?
「そんなんっ、おとーさんに関係ないやろっ」
「関係ないことないだろうっ!」
(まあ、子供の事が親に関係ないって事はないだろ)
俺は心の中で思いながら、ふと、いつまで鷲掴まれ状態でいなきゃいけないのか不安になった。
「学校からお父さんの会社に電話が来るんだっ」
「そんな電話の相手くらいしたってええやろっ、おかーさんとよう仲直りせんかったくせにっ」
(おかーさん?)
微妙に込められる手の力。離婚というやつだろうか。登校拒否に離婚。あまり明るい家じゃないらしい。
「・・・まだお前はそんな事言ってるのか。もう仕方ないんだ。お前もいつまでもそんな言葉使ってないで・・・」
「イヤや!」
「いい加減にしろ!」
ビクッ
小さな身体が強ばるのが分かった。大きく見開いた目からは、今にも涙が溢れ出しそうだ。父親にもそれが分かったのか、少し語尾が柔らかくなる。
「なあ、ゆき」
ゆき、と呼ばれるこいつは、もう半分涙に崩れかけた顔を、食いしばった歯だけで必死に押し止めていた。その横顔を見て、俺はこいつが泣くのを見たくないと思った。こいつ・・・ゆき、って、名前らしい。
「ゆき、ごめ、ちょっと痛い」
「え、あ・・・」
わざと気をそらさせて、泣くのを止めさせたいと思った俺は、もごもご暴れて、ゆきの注意をひく。汗ばんだ手から降りて、改めてゆきとその父親を見上げた。
「・・・またそんなもの拾って来たのか」
また声の調子を荒げる父親。どうやら小動物は好きじゃないらしい( ̄▽ ̄;)。
「・・・・」
「何度言えば分かってくれるんだ」
何も言わずに俯いているゆきに、父親は溜め息と共に慣れた口調で言う。
「そんなもの拾って来る前に自分の事を出来るようになりなさい・・・世話もろくに出来ないのに、飼ってもかわいそうなだけだろう」
「・・・世話、できるよ」
「自分は学校さえ行けないのにか?」
「・・・・」
何か言いかけたゆきに言い聞かせるように続ける父親。
「ちゃんとした誰かに拾ってもらえたかも知れないのに。さっさと戻してきなさい。お前が捨てたわけでもないのに、捨てたような気分になるのはイヤじゃないのか?」
「そんな・・・・」
あ、何か気分悪い。
「悪いけどさ」
俺は口籠ったままのゆきを見つめていたけど、その一言はちょっとムカついた。
「拾われたくて野良やってるわけじゃないんだ」
聞こえたかどうかは分からないけれど、とにかく俺はそう言って、すぐ側にある窓から逃げた。
「あっ・・・」
後ろで、ゆきの声が聞こえた気がしたけど、俺は振り返らなかった。あいつが泣いても、俺がいなきゃ見なくて済む。父親だって、アレ以上不機嫌にならなくて済むだろう。
『拾われたくて野良やってるわけじゃない』
もう1度、心の中で繰り返す。そうだ、誰かに拾われたいわけじゃない。ちょっと気になったからついていっただけで(と言うか、連れてかれた)、俺が行きたかったわけじゃない。
『キョーイク,あんま受けてへんねん』
最初の台詞を思い出して、つい、足が鈍る。けど。
「・・・・そんなの、俺には関係ないし」
言いながら、つい振り返ってしまう。「・・・・・」
別に、何を期待するでもないんだけど。

「はあ、何か疲れた・・・」
いつもの寝床に転がって、一息つこうとしたその時、騒がしい声が耳に飛び込んで来た。
「あっ、あっ、」
「あぁ?」
寝転がったばっかりの俺を起こすな(怒)。「・・・んだ、とろうしゃか」
名前のなかった、ここらの野良うしゃ連中にはみんな俺が勝手に呼び名を付けてやった。別に名前なんか誰も気にしてないのか、不満もなさそうで。嫌なら本人が考えた名前を名乗ればいい。俺は、この街に来てすぐに、野良だから名前がない、それが気に入らなかった。ちなみに俺は、産まれて気付いた時、誰かに、確かに名前を呼ばれた気がしていて。ずっとそれが頭から離れない。だからだろうか、妙に名前を気にする。確かにあるはずの、俺の、名前。
「あにうしゃ、あにうしゃっ」
・・・名前が思い出せないんだ、仕方ないだろ( ̄▽ ̄;)。ボス、って柄でもないし、親分ってほど偉そうでもないし。何故かここの奴ら(うしゃぎ)は友好的で。名前を付けた俺を、『あにきうしゃぎ』、つまり、『あにうしゃ』、と慕ってくる。
「あにうしゃっ、起きてますっっっ?」
バタバタと寝床に駆け込んでくる、とろうしゃ。とろとろうしゃぎ、どう考えてもそれ以外の呼び名を思い浮かばなかった奴。
「・・・寝てても起こそーとしてんだろ( ̄▽ ̄;)」
「さっすがあにうしゃ♪」
(ノ_ _)ノ べしゃ。
「・・・とろうしゃ〜〜( ̄▽ ̄;)。お前、ほんっとに」
「あは(〃⌒ー⌒〃)ゞ 」
褒めてないっての(苦笑)。それでも俺は結構コイツが気に入っている。憎めない、という得な性分のコイツは、ここらでも可愛がられている方だ。
「で?何慌ててたんだ?」
結局聞く俺。俺、実はいい奴なのかも・・・(予想・笑)。
「あ、そうだそうだ。何かね、変な関西弁喋るニンゲンがいて」
「・・・関西弁って、何とか、ねん、とか、何とか、やな、とか?」
(。・・。)(。..。)(。・・。)(。..。)、と頷くとろうしゃに、まさか、と思いながら、先を聞く。
「そっ、そいつが、どうした?」
「んとねえ、あれ?何でしたっけ?」
( ̄ー ̄)o゛プルプル・・・こ、これでも、憎めない、キャラ・・・
「まあいっか」
(ノ`´)ノミ┻┻がっちゃ〜ん!!
「いいことあるか!ちゃんと思い出せ!」
「何でそんな怒るんですかぁ(ToT)」
「お前、そんな、気になるだろっ」
「だって忘れたし・・・」
「あー、おったぁ」
我慢の切れた俺と、とろうしゃの間に割って入ったのは、やっぱり、あの声だった。「見付けたで、親友♪」


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