クリスマス集結指令

−前編−

小俣雅史さん・作

―序―

 張り詰めているような冬の空気。一つ街に足を踏み出せば、皮膚を裂くような冷た さが自然と身震いさせる。
 それでも澄空駅の周辺にある商店街はいつにも増して電飾が存在を強調し、ケーキ 屋には『クリスマスケーキ注文承ってます』など、街の全てがクリスマスムードに染 まっていた。あちこちから人々の笑みがこぼれ、寒さを無視するかのように温かみを 醸し出していた。
 クリスマスは近い。
 ここにいる限りクリスマスソングが途絶えることはなく、だがそれを不快に思う人 は一人もおらず、聖なる夜へ向けて皆心を弾ませていた。
 そんな商店街の一角で、三上智也は一人の女性と会話を交わしていた。

「クリスマスパーティ……ですか?」

「そう、クリスマスパーティ」

 顔立ちが整っていて、大人の雰囲気を持っていつつも寒い中エプロン姿で、そこら 辺の主婦となんらかわならい買い物袋を下げながら、女性、霧島小夜美は智也の疑問 を鸚鵡返しに答えた。
 今日、なにとなく澄空駅に足を運んだ智也は、CDショップで気に入ったジャケッ トのCDを衝動買いし、丁度店から出たところで小夜美に会った。お互い会うのは久 しぶりではあったが、もともと仲は良かったので気兼ねなく小夜美は智也に声を掛け られたのだ。そこで会話が弾むうちに、小夜美は今年のクリスマスに智也の家でパー ティをすることを提案した。

「うーん……まぁ両親は向こうに永住が決まっちゃって完全な一人暮らしといえば一人暮らしなんですけど……」

 しかし智也はその提案にあまり乗り気ではないようで、言葉を濁していた。

「なーにそれ? 歯切れが悪いわね〜。男なんだから、スパっと決めちゃいなさいス パっと!」

 唸りながら考え込む智也を小夜美は急かす。元々乗り気ではないが断固拒否という 訳ではない人間にスパっと決めさせるのは無茶というものだが、どうせその日は暇で あること変わりは無かった智也は、その提案に頷いた。小夜美はその反応を見て、満 足そうに頷く。

「でも小夜美さん。勿論二人きりって訳でもないでしょ?」

 一応小夜美が美人で、しかもそれなりに好意を持っている以上、多少は二人きりが いいかななんて思う智也であったが、流石に彼女もいる身の上なので『二人きりで』 とは言えない智也だった。

「当然よ。聖なる夜に悪魔教の呪いでキちゃった智也君が私を襲ったら大変だもの」

「なんですか悪魔教って……まあそれはいいですけど、誰誘うんですか?」

「そうね……私、智也君と会わせてみたい人とかいるからとりあえずその人達。あと は智也君が好きに誘っていいわよ」

 そう小夜美に言われて、智也は頭の中に仲の良い友人達の姿がよぎる。誰がいる か……とりあえず信、唯笑だろ。他には双海さんに音羽さん、みなもちゃんとかも誘 おうかな……。とりあえず自分の中では決まったメンバーを、智也はすぐに小夜美に 伝えた。

「やだ智也君。それってハーレムじゃない?」

 しかし智也の意見に小夜美は怪訝そうな表情をする。別に智也はそういう欲望のよ うなものは無かったのだが、女性の友人が多いというだけでそう見られてしまうもの なのだろうか。智也に反論の意思が湧く。

「違いますっ! って小夜美さん、わかってて言ってるでしょ?」

「あ、バレた?」

 小夜美はペロっと舌を出して小首を傾げながら言った。その様子に、智也は反抗す る気が一気に萎えてしまった。それからすぐ小夜美は時計を一瞥すると、何かに気づ いたように表情を少し変えた。

「あ、そろそろ静流との約束の時間だわ。それじゃ智也君、何も無ければ24日の昼 準備に行くわね。変わったことがあったら電話するから」

 小夜美は友人との用を思い出し、智也にそう告げると小走り気味に商店街の出口へ 向けて駆けて行った。智也は両手に買い物袋をぶら下げている小夜美の後姿を見送り ながら、誰から電話を掛けようか少し考えていた。

(クリスマスパーティか……そういえば、最近皆で集まって何かするとか無かった な。丁度いい、頑張ってみるか)

 智也は小夜美達と出会った一年前を懐かしみながら、少し浮かれた気分で寒空の下 を陽気に歩きだした。 

(でも……オレと会わせてみたい人達って、誰だ? まあ、部屋のスペースはなんと かなる人数だといいんだが……)

―藤川―

「健ちゃん健ちゃん〜♪ クリスマスだねぇ、クリスマス」

「うん、どこもかしこもクリスマスだ」

 やはりクリスマスムードにすっかりと彩られているここ、藤川。煌く電飾や終わり を告げないクリスマスソングは澄空となんら変わらなかった。その街に今日、伊波健 と白河ほたるは買い物に来ていた。とは言っても、別に買いたい物がある訳ではな く、ただ二人で街を歩くことだけが目的のいわゆるデート、ウィンドウショッピング である。
 二人は腕を組みながら歩き、誰から見てもどこから見てもカップルで、当然聖なる 夜には既に二人で過ごすと決まっていた。だが、この世の中そう予定が上手く進むと は限らない。

「あ、ほたるに健くんじゃない」

 健とほたるが街の中を歩いていると、突然二人の背後から声が掛けられた。一瞬そ の声が誰だか健はわからなかったが、ほたるは何の迷いもなくその存在を認識して振 り向いた。

「お姉ちゃん!」

(あ、静流さんか)

 ほたるの言葉に健も気づいて、若干ほたるに遅れながら健も声の方に振り向いた。 そこには健の予想通り、穏やかな雰囲気のコートを羽織った女性、白河静流、つまり はほたるの姉がその長い髪を北風に揺らしながら立っていた。

「静流さん、こんにちわ」

「こんにちわ健くん、今日も二人は仲が良いわね。こんなに寒いっていうのに、ここ だけ熱いみたい」

 静流は悪戯っぽく微笑むと、手で自分の方を扇いでいかにも熱いという仕草をして みせた。その姿につい健とほたるは苦笑してしまった。

「ところでお姉ちゃん。なんでこんなところにいるの?」

 そういえばそうだ。と健も思い、静流の反応を窺った。別に静流が街に居たところ で不自然さは微塵もないのだが、家族や学校の友達と外で会うとつい尋ねてみたく なってしまうもので、ほたるや健もそういう反射的な理由だった。

「ちょっと小夜美と会ってきてね。あ、そうそう。小夜美がね、クリスマスパーティ を知り合いの家でやるんだそうよ」

「それがどうかしたの?」

 静流が言った話にほたるは疑問を持った。別に小夜美がパーティをするからと言っ て、ほたるにとっては知ったところで意味はないからだ。しかし静流はそれが伝えたい用件のように言った。静流はそれほど必要のないことは喋らないタイプなので、ほ たるにとってはそれが少し不思議だった。

「この口ぶりから、何かわからない?」

 そう言われてもほたるはまだ首を傾げていたが、健はすぐに察した。

「……つまり。ぼく達も行こう……と」

「正解」

 健の回答は正しかったようで、静流は頷いた。しかしそうは言われても、今年のク リスマスは二人で過ごす予定だった二人なので、すぐに『じゃあそうさせてもらお う』とは言えない。ましてや、知らない人の家でやるとなると不安も大きい。

「あれ? 二人とも、嬉しそうじゃないわね……あ、そうか。今年は二人で過ごすっ て訳ね。ごめんなさい、余計なこと言っちゃって」

 二人の様子からダメだということを悟った静流は、申し訳なさそうにする。別に悪 いことをした訳ではないが、静流はこういうことに関しては敏感で、そこが静流の良 いところで、言われた方にとっては脅威だった。はっきり『嫌』と断言できなくなる のだ。まして、健の性格からしてフォローを入れるということは明らかだった。それが穴になるとは健は知らずに。

「別に嫌ではないんですけど……何しろ知らない人の家でっていうのが少し不安 で……」

「あら、そうでもないらしいわよ。小夜美の知り合いだけど、あなたと同い年で一人 暮らし。しかも稲穂くんのお友達だって」

「信くんの友達? しかも一人暮らしかぁ……なんか親近感湧きますね」

「健ちゃんみたいな人だったりして」

 そうやって興味を示した二人に、静流はたたみかける。どうやら今回のは巧みな話術だったようである。

「ね? どう? これから二人は長くながーく延々と一緒に居られるんだから、たま にはこういうのもいいんじゃない。私も行くし」

 そう言う静流に、健はともかくほたるは唸りながら考え出す。お姉ちゃんも行くの かぁ……それに、その健ちゃん似の人にも会ってみたいしなあ……。ほたるは姉も行 くということと、勝手に健ちゃんに似ていると決め付けた信の友達とやらに会いたい 気持ちもあって、彼女の中では行くという方針で話が纏まった。 

「そうだね。これから健ちゃんとは嫌って言ってもずっと一緒につもりだし、二人き りのクリスマスパーティは、また今度にできるもんね。いいよね? 健ちゃん」

 ほたるに言われて、健は少し考える。本当はあまり行きたくないのだが、なにしろ ほたるが行くと言っては断る訳にはいかない。まぁほたるが居ればどこでもいいか。 健はそう自分を納得させて、首を縦に振った。

「それじゃあ行かせてもらいますね、静流さん」

「ええ、わかったわ。あ、それと、他に誘いたい人とかいたら、後5人くらい大丈夫 だそうよ。一緒に行きたい友達とかいれば、誘ってみたら?」

 そう言って、静流は踵を返していった。その後姿を二人で見送り、静流が視界から 消えたところで二人は顔を見合わせた。

「ねえねえ健ちゃん」

「なに?」

「誰を他に誘うつもりなの?」

 ほたるは誘う友達が気になるようで、健の顔を見上げながら尋ねてきた。しかし健 はまだ誰かを誘おうと考えてもいなかったので、答えることはできなかった。そのた め逆に聞き返して時間を稼ぐ。

「ほたるは?」

「え? ほたるはねえ……」

 どうやらほたるもまだ考えてはいなかったようで、少し考えるような仕草を見せ る。しかしすぐに見つかったらしく、嬉しそうに弾むように健に話した。

「やっぱりととちゃん! それとぉ……鷹乃ちゃんかな」

「寿々奈さんにととかぁ……うん、いいんじゃない?」

 健はその人選には賛成だった。どちらもお茶した仲で、健の中でも友人と言えば彼女ら、飛世巴と寿々奈鷹乃の名前が挙がってくる。当然反対する理由などはなかっ た。
 そして健は、ほたるが考え込んでいる間に自分も友達を選んでいた。

「とりあえず翔太だろ。それと……友達とは違うけど、お世話になってるから南先 生。あとは希ちゃんかな」

 健はそう言ってほたるの顔を見つめた。返答を待っているのだ。だが、そのほたるの表情はなんだか不機嫌で、首を縦に振る気配がない。

「ど……どうかしたの?」

 流石にその様子を不思議に思った健は、ほたるにそのことを訊いた。

「何で女の子ばっかりなの? しょうたんはいいとして、やっぱり健ちゃんは先生が 好きとか。それと希ちゃんってあのバイトの子だよね……まさかほたるの知らない間にそんな関係に!?」

 ほたるは自分で言いながら、次第に表情を凍てつかせていった。その様子を見て健は全力で否定する。

「違う違うっ! そんなんじゃないよ。ぼくが好きなのはほたるだーっていつも言っ てるだろ?」

「…………」

 弁解した健にほたるは訝しげな視線を送り、健はその表情を見て背筋に冷や汗が伝った。いや、別にやましいことは本当にないんだけどな……。

「そうだよね」

 だが、ほたるはいきなり表情を一辺させ、笑顔になって健に飛びついた。

「健ちゃんがほたる以外の女の子好きになる訳ないもんね。ほたるも健ちゃんだ〜い すき♪」

(うーん……嬉しいような、なんか悲しいような……ま、とりあえずほたるを愛して るって心にウソはないしな)

 ほたるの根拠のない断言に色々と考えることはあったが、とりあえずそう思って健はほたるを抱きしめた。

―藍ヶ丘―

「…………よし、わかったよ。それじゃあな、詩音。楽しみに待ってるよ」

 ガチャンッ
 智也は友人の一人、双海詩音にクリスマスパーティの旨を伝え終わると、受話器を半ば乱暴に戻した。

「はぁ〜……」

 智也はため息をつきながらソファーに腰から崩れ落ち、そのまま自然の流れに任せてソファーに寝転がる。智也は全員に電話を終えて、疲れたのだ。普通電話で疲労するという話はあまり聞かないが、普段からあまり電話を使用しない智也にとっては、唯笑や信以外の人間の家に電話を掛けるのは中々神経をすり減らしてしまうのだっ た。 
 電話を掛け終えてみれば、外に出ていた夕陽がいつの間にか落ちていて、外は既に 暗くなっていた。

(一人だけで随分時間が掛かったな……いや、日が落ちるのが早いだけか)

 時計を見るのも億劫だった智也は、そう自己完結して瞳を閉じた。すると、ろくに 運動もしないのに今日の疲れが一気に出たのか……いや、いつでもそうだが智也は一気に眠りに引き込まれていった。頭の中で意識がフェードアウトしていき、それから すぐに智也は寝息を立てはじめた。

「…………」 

 バンッ!!
 突然、部屋中の沈黙がドアを叩きつける音によって破り捨てられた。その音量からは物凄い勢いで開かれたことが容易に推測できる。

「どわっ!? ……な、なんだ?」

 既にノンレム睡眠に入っていた智也も、その音には心臓がひっくり返る思いで叩き起こされた。先ほどまで倦怠感により動かそうともしなかった体が勢いよく跳ね上がって周囲の様子を確認する。
 そして智也が混乱した脳髄をフルに活動させる前に、すぐ轟音のセカンダリウェーブが三上家を襲った。

「とぉぉぉもちゃあああんっ!!!!」

「ゆ、唯笑かっ!?」

 その声で一瞬耳に痛さを感じたが、すぐに幼馴染の今坂唯笑だということ確認した智也は、立ち上がって唯笑を出迎える体勢をとった。

「あ、いた智ちゃん! ねーなんでなんで!? 酷いよ智ちゃんっ!!」

 唯笑は智也の姿をリビングに認めると、何故か今にも殴りかかりそうな勢いで智也に詰め寄る。その様子に智也は二三歩後ずさってしまったが、心当たりのない智也はすぐに足を固定して、とりあえず唯笑を落ち着かせようとした。 

「ゆ、唯笑。よくわからんがとりあえず落ち着け!」

 涙目になって訴える唯笑に智也は少し動揺しつつもしっかりと体を両手で支えてやり、鼻をすする唯笑をなだめていった。ふぅ……なんだ一体。

「うぅ……智ちゃん……なんでなの? なんで唯笑だけだめなの?」

「は?」

 唯笑は先ほどから智也には意味のわからない事を言っている。それは落ち着いた後でも変わらないらしく、こうなっては智也も訊くしかなかった。

「あー、なんだ。何がダメなんだ? オレ何か言ったか?」

「クリスマスパーティだよぉ! みなもちゃんから聞いたよ! なんで唯笑だけ呼ん でくれないの!?」

 智也の胸倉を掴んでガクガクと揺らしながら唯笑は抗議をするが、智也はその原因がなおも理解できない。脳を揺さぶられてまともに思考できないせいもあって、智也は唯笑を呼び忘れていることを一瞬考えることができなかった。

「……あ! 忘れてた」

 しかし智也は自分のミスに気づいた。唯笑を呼ぶの忘れてた……。電話をかけることばかり考えて、いつでも会おうと思えば会える距離にいる唯笑にすっかり気が回っ ていたなかったのだ。

「忘れてた!? 酷いよ智ちゃん……ってあれ? ということは、唯笑も呼ぶつもりだったってことだよね?」

 智也の言葉に最初は怒りを感じた唯笑だったが、よく考えてみると自分が考えていたこと誤解だったことに気づいた。急に悪い気分が冷め、唯笑は智也の胸倉から手を離して笑顔に戻る。

「はぁ……そうだよ」

 それを見て、智也は乱れたTシャツを直しながらため息混じりに答える。すると唯笑は嬉しそうに笑いながら智也の首に手を回して抱きついた。

「そうだよねえ、そうだよねえ。智ちゃんが唯笑を見捨てる訳ないもんねえ」

(見捨てるって……それに今更ながら随分と単純なヤツだな……まぁいいか)

 唯笑の言葉にどこか違和感を感じた智也だったが、とりあえず信頼されているということを素直に喜んでおくことにした。
 それからすぐに暑苦しさを覚えた智也は、唯笑の手を解いてソファに座り、クリスマスパーティについて説明しはじめた。

「まずきっかけなんだが、一昨日暇潰しに散歩してたら小夜美さんにばったり会ってな。で、色々話してたらそういうことになった訳だ」

「へえ……小夜美さん、そういえば誕生日パーティ以来だね」

「そうだな。最近、皆で集まるってことしてなかったら、丁度良かったんじゃないか?」

「うん。唯笑楽しみだなぁ……早くクリスマス来ないかな」

 そう言って唯笑ははやる気持ちを押さえきれず、立ち上がって智也の家のリビングをぐるぐると歩き始めた。智也はその様子がなんとも唯笑らしく、可笑しいのでつい苦笑してしまった。
 トゥルルルル
 智也が苦笑していると、突然リビングに電話の呼び出し音が鳴り響いた。

「あ、智ちゃん電話だよ」

「ああ」

 智也はソファから立ち上がって電話の前に行き、受話器に手を持ち上げた。その際唯笑が受話器に耳を近づけてきたので、智也は邪魔に思って軽く手で追い払おうとした。それを見た唯笑は多少不機嫌な表情をしながらもソファに腰を降ろす。

「はい、三上です」

「元気?」

「いや、オレは元気だが……って、小夜美さん」

 相手は名乗らず、一瞬悪戯電話かと思ったが、その特徴的な声は智也の記憶にある声と合致していたためにすぐに小夜美だとわかった。

「ピンポーン。よく声だけでわかったわね。さては智也君、私に惚れてるな?」

「あーはいはい。それで小夜美さん、何の用ですか?」

 小夜美の言葉を冗談だとわかっているので軽く受け流す智也。それに対して小夜美は少し不機嫌そうにいった。

「可愛くないなぁ。まあいいわ。実は人員の追加なんだけど、いい?」

 そう言われて智也は少し返事に迷うも、もともと小夜美の提案した計画なので即座に拒否することはできなかった。それに拒否する理由も特に見当たらない為、智也はとりあえずその人員について訊いてみることにした。

「えっとねえ。一人は信くんの友達よ。それにその人の彼女と、姉。それに信くんの友達の友達が五人程……つまり、合計8人の追加ね」

「は、8人!?」

(ええと、現状でオレ、信、唯笑、かおる、詩音、みなもちゃん、小夜美さんで七 人……ってことは15人か!?)

「小夜美さん、それは流石にオレの家じゃ無理かと……」

 智也は正直に思ったことを告げた。確かに智也の家は狭い訳ではないし、リビングからソファ等の家具を全て取り除いてしまえば、入らないこともないし、部屋も含めればかなりの広さである。だが料理などを考えれば、少しその人数は無理があった。

「違うわよ智也君。智也君の家だからこそこの人数でこんなことができるのよ」 

 しかし智也の意見は小夜美にあっさり否定され、さらに智也の家で行うという意思を強く表明していた。オレの家だからって、小夜美さんはオレの家来たことあるから、間取りは大体わかると思うんだが……できるのか。小夜美の言葉で少し智也は何か方法があるのかと考えた。しかしそう簡単には思い浮かばず、次の小夜美の言葉を 待った。

「智也君の家は、親は絶対に帰ってこないから何しても問題はない。さらに、全ての部屋が使えるからスペースには困らないのよ。ある場所は使う。それが根性ってものなのよ」

「はあ……」

「なによ、納得いかなそうな返事ね」

「わかりましたわかりましたよ!! もう15人でも豪傑108人でも何でも来てく れっ!!」

「それでこそ男ね。それじゃ智也君、ばぁ〜い」

 ガチャッ
 電話の向こうで受話器の電源を切る音がして、智也は先程より乱暴に受話器を戻した。それを見た唯笑は少し引きつったような笑顔を浮かべて智也をフォローしようとした。

「と、智ちゃん。なんか凄い大人数みたいだね……唯笑は構わないから、当日頑張ろ うね!」

 そう言って引きつった笑いを顔に貼り付けながら、乾いた笑い声を響かせて唯笑はそそくさとリビングから出て行った。智也の視界から消えてすぐに玄関のドアが開く音がして、それを聞き届けた智也は再びソファに寝転がった。

「ったく! 人の家だと思って……下手すりゃ床が抜けるっての……」

 小夜美に対しての文句を今頃になってぼやき始め、なんとなく気分の悪さを感じた智也はこの状況を打開するべく行動に移した。つまり寝る。
 瞳を閉じれば、修行僧の敵となる水泳選手が一気に襲いかかり、智也はあっという間に眠りに引き込まれた。こういうどんな状況でもすぐに寝れるのは智也の特技であ る。
 次の日、智也が目を覚ますと、怒りの気分などすっかり忘れていた。

「ま、なんとかなるか」


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