滝沢家の大きな門の前で、轍はバイクを止めた。
 タンデムシートから降りた玉恵が、ヘルメットを取って轍を見つめる。
 どちらからともなく笑顔が浮かんだ。朝焼けの中で、まぶしい、「最高の笑顔」。

「……ありがとね、送ってくれて」
「いいんだ」
「うん。……じゃあ、また」
「ああ、またな」

 小さく手を振って、玉恵が踵を返す。
 今度いつ会えるかは、わからない。だけどもう悲しくはない。ふたりは、同じ風の中にいるから。

「……あ」

 何か思いついて、玉恵が振り返った。

「どした?」
「今度会えるときは、表彰式かな?」
「表彰式?」
「そう、心光展の。轍が大賞取ってさ、それで私はスポンサー企業の女社長として、祝辞に訪れるってわけよ。どう?」
「……」

 轍は黙って右拳を上げ、親指をびっと立てて見せる。
 玉恵もVサインを返した。
 笑顔でしばし見つめあったあと、再び玉恵は踵を返し、門をくぐった。
 轍はバイクのキーを回し、走り去る。
 ふたりの新しい旅が、はじまった。

2001.2.1

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